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第30回ユニークなValue Propositionの重要性

Value Propositionとは

UIEvolutionを米国で起業し資金集めをしていたときに、⁠君の会社のビジネスモデルは何か?」の次に多くの投資家たちの口から発せられたのが、⁠この商品のValue Propositionは何か」という質問である。最初は戸惑ったが、平たく言えば「この商品はどんな価値を顧客に対して提供するのか?」という意味である。

のちに自分自身がMBAを取得してわかったのだが、MBA取得者が自分の学歴を誇示するために好んで使う言葉がいくつかあり、Value Propositionはその代表格の一つなのだ。

「ビジネス」とは顧客に何らかの価値を提供し、その価値の対価として金銭を受け取ることである。その意味では、どんなビジネスを経営するにせよ、自分たちが提供するValue Propositionは常に強く意識している必要がある。

特にベンチャー企業の場合、既存の顧客や販売チャンネルを持つわけでも、低コストで生産するための生産施設を持っているわけでもないので、⁠ほかでは得られないユニークな価値」を提供することがとても重要になる。

そのため、投資家たちも「このベンチャー企業が投資するに値する企業かどうか」を判断する材料として、その企業のValue Propositionを知りたがるのだ。

ビジョンとの違い

最近は、日本のベンチャー企業の中に米国で資金集めをするところが増えてきたので、この手の言葉を使う日本人も出てきたが、よく見る間違いが、ビジョンとの混同である。⁠この商品のビジョンは○○です」だとか、⁠私たちの会社のValue Propositionは、人々の生活を便利にすることにあります」のようなセリフである。

ビジョンとは、会社設立時に創設者たちが定める「会社の存在意義」であり、これが会社運営においてさまざまな経営判断をする際の価値観Valuesの土台になる。なので、ビジョンはめったなことで変更してはいけない。変更が必要になるのは、当初のビジョンが目指す世界が実現してしまい、ビジョンが時代遅れになってしまったときである。

Microsoftは「a computer on every desktop and in every home」というビジョンで80~90年代に急成長し、業界で圧倒的なポジションを持つリーダーになった。しかし、Windows 95の成功でこのビジョンが目指す世界が実現してしまい、勝負の場がインターネットとモバイルに移るにつれ、Microsoftの立ち位置はどんどん悪くなってしまった。ある意味「時代遅れになったビジョン」に根本の原因があるとも言える。

一方Value Propositionとは、企業が作る商品やサービスが提供する価値のことであり、企業の価値観Valuesとは違うものである。商品やサービスごとにValue Propositionは当然異なるし、競合製品としてどんなものが市場に存在するかによって柔軟に変更していくことも要求される。ビジョンは競争相手によって変化しないのとは対極的である。

なぜユニークなValue Propositionが重要なのか

顧客は商品やサービスが提供する価値に対価を支払うのだからValue Propositionが重要なことは当然だが、単に価値を提供するだけでは不十分である。ほかでは得られない、ユニークな価値を提供することが重要なのだ。

PC業界にはさまざまなビジネスが生まれたが、最終的に莫大な利益を上げたのは、OSを提供したMicrosoftと、を提供したIntelだけである。PCメーカーもPCの小売業者も、最終的には利益率の低い薄利多売のビジネスに陥ってしまったのだ。

WindowsはMicrosoftしか提供できないし、x86アーキテクチャのチップは一部の例外を除いてIntelしか提供できないものであった。彼らは「ほかでは得られないユニークな価値」を提供しているのだ。

一方、PCメーカーが作っているPCは、Windowsとx86チップさえあれば誰でも作れるコモディティ製品で、どこにもユニークな価値はなかったのだ。

競争原理が働く市場においては、⁠誰でも作れるコモディティ製品の粗利は限りなくゼロに近づく」という法則がある。PC市場も2000年代に入ってから急速にコモディティ化が進み、利益率の低いビジネスになってしまったのである。

PCメーカーの中で唯一高い粗利を誇るのがAppleなのも偶然ではない。OS XというAppleにしか提供できないOS、iPhone/iPadで作り出した独特のエコシステム。そんなユニークなValue Propositionがあるからこそ、コモディティ化の波に巻き込まれずに済んでいるのだ。

自分でこれからベンチャー企業を立ち上げようとする人は、⁠ユニークなValue Proposition」のことを強く意識してサービス作りをすることをお勧めする。それが「どこで勝負する会社なのか」を決めるのである。

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