エンジニアのためのSoulHacks

SoulHack #6 自分を評価する自分を正しく評価しよう

2008年10月15日

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

規格大量生産時代の価値観を中和する

もちろん,左脳的価値観が無意味になるわけではなく,重要なのは両者のバランスです。このことは著者のピンク氏も何度も強調しています。⁠機能」⁠議論」⁠個別」⁠論理」⁠まじめ」⁠モノ」という左脳的価値観,規格大量生産的価値観は,今でも過大に評価されてしまっているので,どちらかと言えば,iPhone や Wii が体現している右脳的な感性を意識すべきだということです。

『ハイ・コンセプト』「右脳的感性を磨いて競争に勝つ」というようなメッセージとして受け取ったのでは意味がないと私は思います。

むしろ,この本は,そこで主張されていることを疑い,それによって我々が無意識的に何を前提にしているか明らかにするために使うべきです。そういう視点で読んでいただきたいと思っています。

  • 良いデザインを生み出す能力があっても組織の中では『議論』に勝たなければ採用されない
  • 明確なコンセプトは確かに必要だが,それは組織の中では一人で足りる,大多数は部品を作る部品として働くべきではないか
  • 「生きがい」を語ることができるのは生き残れる人間だけではないか

実際に読んでみると,こういった反論が次々湧いてくると思います。そして,そういう反論が何を主張しているか注意深く見ることで,その反論が暗黙に前提としていることが見えてきます。暗黙の前提とは,たとえば,次のようなものです。

  • 競争に勝たないと生存できない
  • 競争の為には比較優位を得ることが必要
  • 能力の優劣は比較可能で固定的である

もし,こういった前提条件に○×のどちらかをつけるなら,私も○をつけます。多くの場合,これは今でも正しいことの方が多いと思います。しかし,これらを意識の外の追いやっても実用上問題なかったのは過去のことで,今は,常にこの前提の適用範囲を見極めていないと,正しい判断ができない時代です。

『フラット化する世界』では前提条件や環境がまったく違う人との競争が語られているし,⁠経営の未来』ではこういう常識を取り払うことに懸命になっている企業や経営者の姿が描かれています。⁠ハイ・コセンプト』は,そういう環境を前提として生き残るための方法論です。

先進国の中で組織の中にいる人は外部の荒波から守られていて,⁠競争」「比較」ということの根本的な変化を意識しなくても生きていけるのです。ですが,経済の厳しい現実がそれをいつまでも許すものかわかりません。

  • 「共感」を得られないと生存できない
  • 「共感」を得る為には「生きがい」とつながる仕事をすることが必要
  • 組織は「調和」のために「遊び心」「物語」を必要とし,個人のポジションを常に揺り動かそうとする

こういう考え方をそのまま受けいれられる人は多くありませんが,先進国の置かれた環境は厳しさを増しつつあり,組織にも個人にもこれ以外の生き方を許さなくなりつつあると私は思います。

SoulHack #6 自分を評価する自分を正しく評価しよう

『フラット化する世界』『経営の未来』『ハイ・コンセプト』は,一連の「違う現実」を描いています。これが正しいのかどうか,それは,実際に自分の経験の中でゆっくり見極めていけばいいことだと思います。

ただ,ひとつだけ今すぐに変えるべきものがあるとしたら,それは冒頭で取りあげた「自己評価」の問題です。

情報が不足した時代,価値観の前提を疑う必要が無い時代の方法論による「自己評価」には明らかに害があります。たいていの人は,それによって自信を失い過剰に攻撃的になり,自分自身との接点を見失ってしまいます。これまではその害を上回る効能があったから放置され,場合によっては奨励されてきたことですが,ここだけは至急変えるべき必要があると思います。

「自分がどういう人間であるかについて,客観的な基準や客観的に定義された概念を排除して考えること」

これが必要だと思うのです。少なくとも,⁠自分を評価する自分」に対する目を,ずっと厳しくする必要があるでしょう。⁠評価される側の自分」には厳しくても「評価する側の自分」に甘い人が多いように私は感じます。⁠評価する自分」を疑い,それによって得ることと失うことをもっと厳しく評価すべきだと思います。

そういう意味で,今回のSoulHackは「自分を評価する自分を正しく評価しよう」です。

著者プロフィール

中島拓(なかじまたく)

株式会社ブレーン研究部にて,Windows用ソフトウエアルーター 「PROXY-2000シリーズ」を開発する。 オープンソースソフトウエアとしては,Ruby用HTMLテンプレートエンジン Amrita/Amrita2,個人用GTD支援ソフト「レビュアブルマインド」の開発に携わる。

アンカテのブロガーとして,2006年アルファブロガーに選出される。

URLhttp://d.hatena.ne.jp/essa/

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