今回からは,「日本で働くこと」について考えてみたいと思います。
LifehackやSoulhackという問題に限らず,日本で働くことには独自の難しさがあります。これは,経済のグローバル化が進む中で,どこの国でも感じていることだとは思いますが,日本には独自の文化があり,それが言語化されていないという点で,より一層複雑な問題になっていると思います。
今回は,山本七平氏の「空気の研究」という本をきっかけとして,これについて考えてみたいと思います。

「空気」の研究
山本 七平 著
ここで言う「空気」とは,「とてもそんなことが言える空気ではなかった」というような表現で使われる「空気」のことです。
日本人だけが素早く空気を読む?
フジテレビのネプリーグという人気番組に「トロッコアドベンチャー」というコーナーがあります。ある時,外国人タレントだけのチームがこれに挑み,うまく解答できずにチャレンジ失敗しました。この失敗の様子を見て,逆に日本人が普通に持っている特殊能力を実感したことがあります。
そのコーナーは,トロッコに5人一組で乗りこみ,ヴァーチャルなアトラクションの中を疾走する中で,出題されていくクイズに答えていくというものです。クイズは二択形式になっていて,その解答によって,トロッコが右か左かに分岐し,正しい選択を続けるとゴールに辿りつくようになっています。
難しいのは,出題されてから5秒くらいの間に,瞬間的に5人で右か左かの意思決定して,全員がそちらに移動しなくてはいけないことです。クイズの内容はそれほど難しいものではないのですが,相談するような時間はありません。
日本人のチームだと,その短い時間の間に,「あまり自信は無いけどどちらかと言えば右かな」というようなチームとしての意思を形成できるのです。誰がリードするともなくなんとなく「どちらかと言えば右かな」というような場の空気を作り出し,見事に全員が従います。毎週違うゲストが参加していますが,誰でもそれを自然にできていますので,それを意識したことはありませんでした。
しかし,外国人タレント5人のチームがこれにチャレンジした回には,いつもと全く違う空気が漂っていました。
外国人同士だと,つぶやく言葉が「僕はこう思うけど君はどう思う」というような議論のフォーマットになってしまうのです。それに対して「僕にはわからないから君の意見に従うよ」「いや僕はそうじゃないと思う」というふうに,明確に発言者に対して次の意見を発してしまいます。
これだと,それぞれのポジションを確認するだけで時間が過ぎてしまうので,意思決定をする時間がなく,あたふたしてしまいます。そのギクシャクした様子が日ごろと違い印象的でした。
日本人も同じように,独り言のように何かをつぶやくのですが,それは,誰か一人の人に向けられた言葉ではなく,ぼやっとその「場」に投げた言葉になります。他の人もその「場」に言葉をかけ,一瞬で場の「空気」が形成されていきます。
これを比較して見ると,外国人は言葉を人に対して発するのに対し,日本人は「場」に対して言葉を発するということになると思います。言葉と言葉がぶつかるのが外国の議論であり,「空気」を読みそれに従い「場」を形成していくのが日本の議論だということです。
西欧的な議論では,コミュニケーションの回路が錯綜したものになります。ですから,どうしても結論を得る為に時間がかかります。それに対して,日本的な「場」を介した議論では,各人がコミュニケートする相手は,仮想的な「場」のみであり,その分だけ,素早く結論を得ることができます。
日ごろの企業の中での会議は,ほとんどの場合,このような意味で「場」を形成していくことを第一の目的として行なわれているのではないでしょうか。
その回のゲストは5人ともおなじみの顔で,流暢に日本語を使いこなす外国人タレントだったのですが,このような「場」の「空気」を読み「場」を形成していくことを瞬間的に行なうことはできませんでした。
私はそれを見て,我々が無意識に使いこなしているこの能力が,世界の中ではいかに特殊なものであるかを実感しました。
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