今回は,次の2冊の本を手掛かりに,阿部謹也氏の「世間」ということについて考えてみたいと思います。
これを取りあげる理由は2つあります。というか,二種類の正反対の読者を想定しています。
1つは,ここで言う「世間」という概念について,言葉は聞いたことが無くても,経験的に良くわかっている方です。そういう方には,これを言語化することで,あらためて意識的に考えてみるきっかけになればと思います。
もう1つの想定読者は,組織の中で自分でも理由の良くわからない居心地の悪さを感じている方です。これまで,「世間」という概念は,教えてくれる人は誰もいないのに,不思議と大半の人がなんとなく理解していくものでした。
ところが,最近,若い人の中には,そこがスッポリ抜け落ちている人がいるような気がします。当人も回りもギャップの存在は感じているのだけど,そこをうまく言語化できないことが多くあります。そこを埋めるためのヒントになる概念でもあるような気がします。
つまり,「世間」というものがよくわかっている方と,それが全く理解できずにとまどっている方に,読んでいただければと思っています。
「世間」とは何か
「世間を騒がせた責任を感じている」「世間に顔向けできない」「世間はそれを許さない」
こういった言葉は普通に見聞きします。「世間」という言葉を聞いて,その意味がわからないという人は少ないでしょう。しかし,その「世間」とは何かとあらためて聞かれると,説明するのに困ると思います。
阿部謹也氏は,これを次のように説明します。
日本の社会は明治以後に欧米化したといわれている。欧米化とは近代化という意味である。近代化によって日本の社会は国の制度のあり方から,司法や行政,郵政や交通,教育や軍事にいたるまで急速に改革された。服装も変わった。
近代化は全面的に行なわれたが,それができなかった分野があった。人間関係である。親子関係や主従関係などの人間関係には明治政府は手をつけることができなかった。その結果近代的な官庁や会社の中に古い人間関係が生き残ることになった。
『近代化と世間』p.92
つまり,明治以降の日本は,表向きの社会の枠組みである「社会」と,個人的な人間関係を支配する「世間」という2つのルールで社会を運営してきたということです。そして,「世間」には,次のような原則があると言います。
- 贈与互酬の関係(お歳暮を送り合うような関係)
- 長幼の序(年功序列を中心とした対等でない関係)
- 独自の円環的な時間の流れ
「円環的な時間の流れ」とは,「先日はお世話になりました」とか「今後ともよろしく」という挨拶によって象徴されているものです。こういう挨拶は外国語には対応するものが無いそうですが,「世間」の中には「社会」とは別の循環する時間が流れていて,こういう挨拶によって,そのことを互いに確認しあっているということです。
これに近代社会の原則を対応させると,次のようになります。
- 贈与互酬の関係に対して契約,市場取引の関係
- 長幼の序に対して基本的人権と対等な人間関係
- 円環的な時間に対して改革,発展していく社会(過去から未来へと直線的に流れる時間)
この3つの対応関係の中で,贈与対契約,基本的人権対長幼の序という,上の2つの対立については,調停することが可能です。つまり,状況に応じて,時に片方を優先し,それを別の形で補償しながら,バランスを取っていくということが,難しいことではあるけど不可能ではありません。
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