時間の使い方をふり返る
この連載では,第1回「はじめに」以降,合計10回にわたりタイム・マネジメントのための具体的な方法をみてきました。前半は個人のスケジューリング手法について,後半は複数の人間が協力して進める「プロジェクト」型の仕事における時間管理について,それぞれ学んできたわけです。
最初の回で,タイム・マネジメントとは,時間の使い方に関してマネジメント・サイクルをまわすこと,と書きました。マネジメント・サイクルとはPlan-Do-Seeのつながりと繰り返しで,お金の場合は予算・実行(記録)・決算に相当します。時間の使い方の場合は,以下の三つの仕組みと方法が必要になります。
- 予算=スケジューリング
- 実行=To Do リスト+日誌
- 決算=進捗確認・生産性評価
今回は全体のまとめとして,「決算」=進捗確認・生産性評価を通じて,時間の使い方を改善する方法について考えます。進捗についてはすでに第9回「進捗をはかる」でふれましたので,生産性評価について説明しましょう。
まず,ちょっと次の円グラフをごらんください。これは,あるエンジニアの時間の使い方について,3ヶ月間の調査結果をまとめたものです。この人は,会議・打合せに38%,PC作業に17%,レビューに13%,分析に13%の時間を費やしていることが分かります。ここで「PC作業」という項目は,PCに向かって行う比較的単純な作業(帳票入力など)を指しています。「レビュー」は後輩や他部門の作成した文書・図面を読んで理解しチェックする時間ですが,この人はリーダー格なので重要な作業です。また「分析」というのは,資料・実績等を元にデータを読み取る作業で,設計のインプットになります。
これら上位4つの合計は81%にもなりますが,エンジニアとしての高度な知的労働と言える部分は,「レビュー」「分析」の合計26%です。他に「文章作成」4%というのを足しても,30%にすぎません。つまり,この人の時間の7割は,エンジニアとしての生産性に直接結びつかない種類の作業に使われているといえそうです。
付加価値時間の比率
これはごく特殊な一例なのでしょうか? おそらく,そうではないでしょう。別のある調査では,技術者の使う時間のうち,直接設計作業は50%以下で,あとは間接時間だという結果が出ています。間接時間の全てがムダとは言えませんが,少なくとも生産性向上の余地はありそうです。"毎日が忙しすぎる"と感じている上記のエンジニア氏も,生産性を上げればもっとゆとりを持てるはずです。
前回,「日誌をつける」習慣を持つことを,おすすめしました。日誌とは,すなわち時間分析の元データでもあります。そして,時間分析こそ,生産性向上活動のベーシックなのです。
時間分析を考える場合,視点が二つあることに注意してください。まず第一は,目的別・案件別の分析です。受注ビジネスでタイムシートをつけている企業は多いですが,その狙いは案件別時間集計にあります。これが原価管理と見積請求の基礎になるからです。しかし,時間の使い方にはもう一つの視点があります。それは,作業別・業態別の時間であり,たとえば打合せ・メール受発信・単純作業・移動・出張などの区分です。改善のヒントは,その両方を組み合わせたデータから得られます。
ちなみに,筆者も理事を務めるNPO法人「ものづくりAPS推進機構」の理事長で,トヨタ自動車社友である黒沼惠氏の講演によれば,製造現場におけるリードタイムの中の付加価値時間比率は,以下の表のようなものであることが示されました。
| 200~300分の一 | トップクラス |
| 2,000~3,000分の一 | まあまあのクラス |
| 2万~3万分の一 | 普通の会社 |
ここでいう付加価値時間とは,製造現場における物的加工・組立作業の正味時間です。付加価値時間以外に,付加価値には結びつかないが必要な付随作業(たとえば部品を手に持つ,次工程に渡す,など)がその数倍あります。しかし,あとの時間はムダ時間だそうです。ムダな運搬(レイアウトがわるい),ムダな段取り替え(計画がわるい),ロット待ち,工程滞留待ちなどさまざまです。
もしかして,同じ事がオフィスワークでもいえると思いませんか。設計アウトプットに結びつく正味付加価値時間と,必要な付随作業時間(インプットの読み込み,ツールのセットアップなど)以外に,ムダなコミュニケーション,ムダな手戻りや変更,他部門からインプット待ち(手待ち)などのムダ時間が控えているはずです。ここを退治しないかぎり,多忙感から解放されることなどおぼつかないでしょう。