「SHIFT UP」――DeNA TechCon 2019、2月6日開催

前編:DeNAのエンジニアリングが社会を変える~DeNA TechCon 2019の見どころに迫る①

DeNAの技術部門を統括する執行役員小林篤氏にお話を伺い、DeNAのエンジニアリングの今とこれから、その発表の場である「DeNA TechCon 2019」の見どころについて伺いました。前編ではその模様をお届けします。

DeNA TechCon 2019
https://techcon.dena.com/2019/
取材に協力していただいたDeNA執行役員小林篤氏。エンジニアとしての豊富なキャリア、また、コミュニティを通じた数多くのエンジニアたちとの交流の経験をもとに、次の時代のDeNAを支えるエンジニアたちをリードする
取材に協力していただいたDeNA執行役員小林篤氏。エンジニアとしての豊富なキャリア、また、コミュニティを通じた数多くのエンジニアたちとの交流の経験をもとに、次の時代のDeNAを支えるエンジニアたちをリードする

テーマは「SHIFT UP」

Q:2019年2月、4回目となるDeNA TechCon 2019(以降TechCon)が開催されますね。今回、「SHIFT UP」というテーマを選んだ理由を教えてください。

小林:このテーマを選んだ背景には、私たちの2018年の技術的戦略と方針転換があります。2017年まで、私たちのサービスはオンプレミスでの開発を前提とすることが多かったのです。そして、昨年2018年に入り、私を含めた技術部門で(パブリックな)クラウドを活用した開発の有用性を検討し、経営陣に提案することがありました。

結果として、経営判断としてもクラウドへ注力することを承認し、当時の言葉で言う「リフトアンドシフト」へ、戦略が移っていきました。クラウドを活用して、開発スピードを加速させ、運用コストを下げていく。そういう方針になったのです。

この考え方をお客様を始め、多くの皆さまに伝える意味を込めて、今回「SHIFT UP」というテーマを選びました。

また、私たちの実際の事業展開において、クラウド以外にも、AIなど、多岐にわたった技術についても、2018年はこれまでの基礎技術研究・開発から、事業に適用していくフェーズに入った、というタイミングであったことも、このテーマを選んだ理由の1つです。

私たちはただ単に優れた技術を追い続けるのではなく、その技術をいかに事業に結び付けていくかを重要視しています。

最近、メディアで取り上げられているオートモーティブ領域もまさにその1つと言えますね。

DeNAが今、力を入れている領域―オートモーティブ・ヘルスケア・エンターテインメント

Q:DeNAでは技術の追求の目的は事業展開のため、という想い、そして、その想いを伝える場としてのTechConの開催意図が伝わってきました。オートモーティブ領域の話が出ましたが、その他、DeNAとして、今とくに力を入れている事業領域について教えていただけますか。

小林:大きく3つあります。今上がった「オートモーティブ⁠⁠、そして「ヘルスケア」⁠エンターテインメント」です。それぞれ、簡単に紹介します。

まず、オートモーティブ事業です。私たちが考えるオートモーティブ事業は、自動運転はもちろん、AIおよびIoTを活用した交通サービスの提供を意味します。2017年からの始まった取り組みでは、宅配事業者と協力した、特定地域での自動運転による宅配サービスなどの実証実験を行いました。

最近では、2018年12月に次世代タクシー配車アプリ「MOV(モブ、旧タクベル⁠⁠」を東京でもスタートし、新たな移動体験と価値の提供に取り組んでいます。

技術的には、とくにリアルタイムの情報の扱いに力を入れています。リアルタイムに動的情報を収集し、その情報をベースにAIを活用しています。

次に、ヘルスケア領域です。本音で言うと、ようやく自分たちが進む新しい道が見えてきたという状況です。2014年に遺伝子検査サービス「MYCODE」からスタートしたヘルスケア事業ですが、直近ではAI創薬プロジェクトや、深層学習技術を用いたがんの早期発見検査システムの研究開発など、インターネットとAIの力をヘルスケア領域に活用しています。

これまで取り組んできたヘルスケアサービスとR&Dでの取り組みを基盤に日本の「健康寿命」を延ばすチャレンジをより加速していきます。

3番目のエンターテインメントは、私たちが、これまで一貫して取り組んできた領域です。主力のゲーム事業においては、MOBA(Multiplayer online battle arena)の分野など、コンテンツの自社開発や海外のパブリッシャーとの連携を強めています。

ただ技術的に進歩していくだけではなく、グローバル展開をさらに拡張すべく、国ごとの状況、文化の違いなども意識した事業展開を行うフェーズに来ています。たとえば、昨年発動したGDPRの観点で、私たち日本の企業がグローバルでゲーム事業を行うにはどうすべきか、新たな規約の整備、国家を超えた通信での情報保護など、取り組むべき課題は多々あります。

エンジニアの育成とエンジニアの価値

Q:オートモーティブ、ヘルスケア領域は、とくにこれからさらに拡大が予想される事業ですね。事業拡大に伴い、人材の確保も重要と思われますが、そのあたりはどのようにお考えですか?

小林:おっしゃるとおり、人材の確保は最優先課題の1つです。が、現実は、まだまだ人材が足りていないのが実情です。

インターネットに関しては、私たちにも20年の経験と実績があります。ですから、大規模トラフィックを扱ってきたノウハウを活かしながら取り組みます。

一方、オートモーティブ、ヘルスケア、それぞれの専門領域に関しては、私たちは門外漢です。ですので、それぞれの既存領域からの人材確保も行っています。

オートモーティブに関しては、地図データに関するエキスパートですね。最近では、過去、実際に地図を製作していた人間を採用しています。

ヘルスケアでは、創薬をはじめとした専門分野の人材確保です。

いずれにしても、自社に迎え入れることはもちろん、それだけではなく、専門機関や関連企業とのパートナーシップ、アライアンスの組み方がこれからはますます重要になると考えています。

Q:まさに未来をこれからつくる領域への展開をしている最中ですね。小林さんは、この、日進月歩の世界でDeNAエンジニアのチームを率いているわけですが、小林さんにとっての、エンジニアリングで生み出せる“価値”とは何でしょうか?

小林:私たちDeNAの社是に「デライト(大きな喜び⁠⁠」があります。この言葉は、DeNAのミッション・ビジョン、それぞれに含まれています。

「今、不都合なものを、技術で変えられないか」という意識を体現したものです。

その点で、先ほど紹介したオートモーティブはまさに、エンジニアリングで生み出せる⁠価値⁠と言えます。つまり、さまざまな不具合やストレスがある今の道路交通事情を、より良いものに変えるために取り組んでいます。

少し話がそれますが、インターネットやIT企業が新しい事業に取り組むと、よく既存産業のディスラプタ(破壊者)と言われることがあります。しかし、私はそれは違うと思っていて、インターネット・IT企業はイネーブラー(支え手)であると考えていますし、そうなっていきたいと強く思っています。

良い例としては、私たちがオートモーティブ領域に参入した当時、自動車関連のイベントに登壇したときの反応があります。イベントで話す前は、私たちが何をやる企業なのか、怪しまれたり不安がられる感覚がありました。

しかし、実際に登壇して、自分たちが目指していること、実現したいことをきちんと伝えることで、DeNAという会社の役割を理解してもらえたように感じています。これからも、私たちが何を目指しているのか、そのために、私たちができることを、お客様をはじめ多くの方々に伝えていきたいです。TechConはその場の1つです。

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エンジニアにとって働きがいのある組織とは?

Q:続いて、小林さんご自身の話を少し聞かせてください。小林さんが今のポジションになったのは昨年の春でした。そのとき、会社から受けたミッション、また、小林さん自身が目指したものはなんでしょうか?

小林: これまでも話したとおり、会社としては、技術を使って、より良い社会をつくっていくことを目指していました。その中で、私が南場や守安に言われたことは「エンジニアにとって魅力的な会社にして、ものづくりの底力を上げてほしい」といミッションでした。

非常に難しいと思った一方で、やりがいを感じました。

まず、エンジニアにとって魅力的な会社とは何か……を考えたとき、それまでのDeNAでは研究開発から実装まで、事業に紐付いた技術・エンジニアリングを中心に行っていました。そこで、まず、事業ごとの壁を取り払うことで、エンジニアが、さまざまな技術に触れられる環境の整備を進めています。

さらに、TechConという場がすでにあったので、ここで、自分たちが取り組んでいる技術、使用している技術についてオープンに発表し、フィードバックをもらいやすい状況も目指しています。

それらを事業に適用することが、結果的に私たちにとっても大きな財産になるからです。

今のはあくまで一例で、2018年4月に就任してからようやく課題が見えて、まさに課題解決に取り組み始めたところです。

TechConでは、冒頭で述べた今回のテーマ「SHIFT UP」に込めた意味と同じように、オープンな場を提供し、DeNAがどのようにプロダクトやサービスを開発をし運用しているか、それを伝え、来場者の方に何かしらの価値を持ち帰っていただきたいと考えています。

(記事後編の)見どころセッションでも紹介する、Google・AWS両社のセッションでは、クラウドベンダそれぞれのメッセージ、そして、それを利用する私たちのメッセージ、両方を合わせることで、トークを聞いたエンジニアがどのように活用するかのヒントを提供できると思います。

事業展開の観点からも、日本国内からグローバル展開を実現するうえでのクラウドのメリットなども、当事者としての声を伝えられるはずです。

TechConの魅力~エンジニアに伝えたいこと

Q:2019年がスタートし、いよいよ平成の次の元号を迎えます。これからは、昭和、平成、そして、次の世代のエンジニアたちが活躍する世界になるわけです。最後に、小林さんが考える、これからのエンジニアに求められること、また、世代を越えたエンジニアの融合について教えてください。

小林:すごく大きな話題で難しいですね(笑。

まず、自分たちが過ごしてきた時代を振り返ると、私たちの世代は、エンジニアリングに触れる機会、また、実際に開発を行う機会は、社会人になるまでほとんどなかったように思います。

一方、今の時代、たとえば2018年という年で見ると、社会人になる前どころか、今では、子供のときからエンジニアリングに触れる機会は多くあります。プログラミングを例に取ると、Scratchやマインクラフトなど、手軽に触れる時代です。

また、今の新社会人や20代のエンジニアたちを見ても、Webプログラミングが流行ったあとで、誰もが気軽にプログラミングできる時代を過ごしています。

これら経験値の観点で言うと、私たちと比べて、今の若手エンジニアや子供たちが社会人になったときの(エンジニアリングスキルの)ベースは格段に高いと言えるでしょう。

ベースが上がっていることについては、私たち上の世代の人間が、これまで以上に技術を追い続けていかなければいけないという危機感はあります。

一方で、手軽に触れたり、フレームワークなどブラックボックス化された技術が増えたことで、その裏側にある仕組みを知る機会が減ったのは、若い世代のエンジニアに多い傾向です。

私にとって、仕組みを知るということは単に技術力が上がるだけではなく、たとえば、想定しないトラブルが起きたときの対応力につながると考えています。ですから、若いエンジニアたちには仕組みを知る意識を持ってもらいたいですね。

このように、時代時代で積んできた経験や周辺環境は大きく異なります。ですから、各世代のエンジニアがその違いを理解したうえで、シニア・若手、それぞれの強みを融合できるようにしていきたいです。また、DeNAはその環境を提供できる企業になりたいですね。

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Q:最後に、技術責任者から改めてTechConの見どころをお聞かせください。
DeNA TechCon 2019
https://techcon.dena.com/2019/

小林: まず、2018年私たちが実施したオンプレミスからパブリッククラウドへの、クラウドシフト。その裏側を公開しますので、これからクラウドシフトを検討している方はもちろん、すでに実施されている方にも、運用のヒントを見つける場として参加していただきたいです。

また、おもしろいところでは、ゲーム開発エンジニアが、オートモーティブ事業本部に移籍し、それまで培ったスキル・ノウハウ・マインドを活かして、どのように開発しているかを話す「ゲーム開発者からMaaS開発者へ ゲーム開発のノウハウを活かして移動体情報配信システムを作ってみた」というセッションを用意しています。

既存の領域で壁や限界を感じているエンジニア、あるいは、新しい領域に踏み出したいけど、その勇気がないと感じているエンジニアにはぜひ聞いてもらいたいセッションです。

その他、AI、IoTといった基礎技術、オートモーティブやヘルスケア、ゲームなどの事業領域に関しては、事業部別の話題から、各事業部共通の話、SWET(Software Engineer in Test)など、DeNAの中の話もたくさんお伝えできます。技術を学ぶ場としてだけではなく、技術を使って事業をどうドライブしているのか、その1つの例としてのDeNAを知ってもらえたら嬉しいです。

今回のTechConは一回きりで終わらせるのではなく、これをスタートに継続したつながりを提供したいと考えています。具体的な内容は弊社の公式技術アカウントDeNAxTechにて発信していますので、ご興味のある方はぜひフォローしてみてください。

――ありがとうございました。

(後編に続く)

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