[特別広報]IPとITが融合する新プロジェクトが始動! エンジニアよ、KADOKAWAで世界を目指せ

第2回KADOKAWAが目指すIP×IT― 知的財産と情報技術の新戦略[後編]

KADOKAWAは、IT企業であるドワンゴと経営統合し、出版とITという2つの文化を持つ出版社です。独自の強みとなるアニメや小説などの知的財産(IP)にIT技術を用いて、まったく新しいコンテンツ展開を構想しています。同社エグゼクティブプロデューサー/OTT推進準備室長 宮崎賢一氏写真1⁠、同室 副室長 齊藤寛明氏写真2⁠、同社デジタル戦略推進局プラットフォーム企画推進部 企画推進課 澤田裕紀氏写真3に、ねらいや具体的な構想についてお伺いしました。

IPとITの新境地を目指す キーワードはOTT

─⁠─KADOKAWAのIPとITを組み合わせたプロジェクトについてお伺いします。まずは、みなさまの役割や経歴を教えてください。
写真1 エグゼクティブプロデューサー/
OTT推進準備室長
宮崎賢一氏
写真1 エグゼクティブプロデューサー/OTT推進準備室長 宮崎賢一氏

宮崎:KADOKAWAには、KADOKAWA発のデジタルコンテンツやサービスを展開しようとする戦略があり、私たちは「OTTプロジェクト」⁠仮称)と呼んでいます。私はそのプロデュースを担当しています。今、紙の書籍や雑誌は部数を減らし、デジタル化されたコンテンツへのシフトが進んでいます。IT企業ではないKADOKAWAを、IT企業であるドワンゴのノウハウで変革させていくのが私のミッションです。

─⁠─現在のデジタルコンテンツとは違うのですか?

宮崎:今までのデジタルコンテンツと言うと、オールドメディアで展開されたものをそのまま持ってきたものが主流です。今私たちが考えているのは、デジタルのほうが本丸で、デジタルから創られたモノを想定してます。紙の書籍は1人で楽しむのが普通ですが、双方向性があるインターネットを介したら多人数で一緒に楽しむこともできます。デジタルネイティブなコンテンツを考えています図1⁠。

図1 KADOKAWAが目指すモノ作りの変革
図1 KADOKAWAが目指すモノ作りの変革
写真2 OTT推進準備室/
副室長 齊藤寛明氏
写真2 OTT推進準備室 副室長 齊藤寛明氏

齊藤:OTTプロジェクトではKADOKAWAの戦略を押さえつつ技術的な課題解決ができるように技術アドバイザーとして加わっています。主務はドワンゴのマルチメディア企画開発部 技術部長でニコニコ動画のマルチデバイス展開などをしています。本プロジェクトを通じてKADOKAWAとドワンゴのシナジーを生み出せればと考えています。

澤田:私はOTT事業推進を行うディレクターです。デジタル戦略推進局という組織も兼務しており、カクヨムやComicWalkerなどのプラットフォーム事業にも携わっています。1年前に入社したばかりですが、前職では出版社の中で原作のマルチメディア化を職務としたり、IT企業で放送局のデジタル事業を預かることもありました。

─⁠─あらためてOTTプロジェクトについて説明していただけますか。

宮崎:OTTとは「Over the Top」のことで、一般的には動画や音声サービスの提供を意味し、イメージとしてはNetflixやAmazonが該当します。KADOKAWA OTTプロジェクトでは自社コンテンツの発信だけではなく、コンテンツの付加価値の提供や独自サービスの展開を視野に入れています。

齊藤:たとえばAmazonなどではコマースやコンテンツ配信が中心ですが、OTTプロジェクトではコンテンツの視聴体験やフォーマットの定義も含めて取り組もうとしています。経済用語に「リープフロッグ」というものがあります。たとえば、発展途上国で部族間の連絡が口頭伝達から、いきなりスマホを使うように変わるなど、一気に発展することを意味します。今はコンテンツサービスを提供していないKADOKAWAだからこそ最新の技術を押さえつつ、一歩先を見据えたものづくりをすることが可能と考えます。現在のWebはHTML5やJavaScriptが主流ですが、コンテンツ体験の形式を出版社として考え、新しいフォーマットを画策したり通信方法を採用するとか。ユーザーにとって新しい価値を追求し、自分たちで作り大きく育てる機会に携われるなどの醍醐味があります。

新しいIPの形をアジャイルに育てるコンテンツの新しいデファクトを

─⁠─KADOKAWAが手がける強みは?
写真3 デジタル戦略推進局/
プラットフォーム企画推進部
企画推進課 澤田裕紀氏
写真3 デジタル戦略推進局 プラットフォーム企画推進部 企画推進課 澤田裕紀氏

澤田:1つのIPを原作からデジタル化まで一貫して行えることです。出版社だからこそ原作の制作過程から出版物の刊行、その先の関連事業まで関わることができ、対象のカルチャーに貢献する責任もあると考えています。KADOKAWAだとライトノベルやアニメなどのカルチャーととらえられる可能性もありますが、このプロジェクトでは「新しい趣味を探せる」という仮コンセプトの下、料理や文芸などいろいろな分野で新しい形のコンテンツ発信を模索していこうとメンバー間では話しています。

宮崎:かつてウォークマンなどメーカー主体で日本の技術が世界に広まったことがありました。ソフトウェアやプラットフォームではまだ日本は成功していませんが、日本の強みとなるIPに新しいITを組み合わせれば世界に出て行けると思います。たとえばAIなら、キャラがファンと会話するたびに成長していくとか。ここでエンジニアに技術力を発揮してほしいですね。IPの新しいデファクトを作っていきたいです。

澤田:IPを技術でアウトプットする成功事例を作りたいと思っています。たとえば、声優や原作者が出演するイベントや、書店の中でデジタルデバイスを利用して、これまで以上の良い体験が得られる、などです。

─⁠─いつごろ実現しそうですか?

宮崎:今年中にIPの新しい形をいくつか出したいと考えています。作品かサービスかは区別が難しいかもしれませんが、チャレンジしていきたいです。書籍だと完成形を出版することになりますが、Webだとアジャイルです。ユーザーのみなさんと一緒に育てていきたいです。

─⁠─UGC(ユーザーがコンテンツを生成する)サイトとは違うのですね。

宮崎:UGCでおもしろいのは多くありますが、手がけているのは個人です。気力や資金、時間には限界があります。しかし、プロが混じると構成力や企画力などが加わり、多くの人に受け入れられる作品や商品へと成熟します。書籍と同じです。原作者の原稿に編集者が校正を加え、見せ方を工夫するなどしてより良い作品になります。UGCの一歩先を行きたいです。

齊藤:今は、プロでなくてもアニメを制作できるさまざまなツールがあり、趣味で制作したコンテンツがネットで評価されることもあり得ます。年齢や経験を問わずどんなクリエイターでもチャンスがあってよい。しかし、本格的にアニメ化するとなると資金が必要になります。今はクラウドファンディングもありますが、出版社なら成功の種になりそうな作品の可能性を拾えます。何らかのプロセスを変えるような成功体験をしたいです。新しいコンテンツの技術か事業か、それがデファクトスタンダードになるかはチャレンジングですが、日本発で何か発信していけたらと。

できそうなのになかったテレビとは違う視点や展開も

─⁠─どんなスキルを持つエンジニアが関与できますか?

宮崎:WebサイトですのでLAMP環境、人気があれば多数のアクセスがあるので大規模サイト運用のノウハウが必要です。サービス提供にはアプリが必要なのでアプリ開発も。役割は幅広くあると思います。AIでチャットボットや何かを自動生成するのもあるでしょう。データがたくさんあるので分析技術、データサイエンティストも関与できます。フィギュアやグッズにIoT技術を絡めることもできるかと思います。キャラのフィギュアがネットとAIを介して会話したり、成長したらファンは喜ぶのではないでしょうか。

齊藤:今普及しつつあるスマートスピーカーも使えそうですね。メーカーは洗練されたデザインの製品を出していますが、ここに好きなキャラが組み合わさると愛着が湧いておもしろいことができそうです。

宮崎:IoTだとベンチャー企業が多いですが、KADOKAWAなら資本やIPノウハウがあります。実際にユーザーに届けられるものを作れるところが強みです。

─⁠─どんな世界が生まれるのでしょうか。

宮崎:人気の高い異世界作品や、VRMMOVirtual Reality Massively Multiplayer Online作品の世界を直に体験できるコンテンツを作る、とか。

齊藤:テレビアニメならファンは視聴するだけですが、VRで体験することもできるかもしれません。VRのヘッドセットを用意し、コンテンツに接続すると、アニメと同じエピソードを主人公視点の映像で見られるとか。酔いそうですけど(笑⁠⁠。あるいはエンディングは同時視聴している人の感想やアクションを反映させたものになるとか。

─⁠─それなら現在の技術で実現できそうですね。

齊藤:できます。放映の数ヵ月後にBlu-rayを購入するだけではなく、放映時に何かをシェアできればみんなで一緒に視聴する楽しみが生まれるかもしれません。どこか特定の会場に集まるとか。テレビに変わるフォーマットが誕生するかもしれません。

宮崎:エンジニアならテレビや映画を見ながら「こういうことができたらいいのにな」と思いつくことはあったと思います。しかし、ネックは事業性でした。IPが絡むと「交渉を考えると実現できないのでは」と立ち消えになっていたかもしれませんが、KADOKAWAならそうしたハードルは大きく下がります。

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コンテンツ制作の流れが変わるデジタルコンテンツが先に

─⁠─前回、コンテンツ制作にエンジニアが直接関与するという話もありましたね。

澤田:これまでの流れだと原作が最初にあり、映像を作ったあとにデジタルコンテンツがありました。壁紙や着信音などです。しかし、デジタルコンテンツとして発信することが前提になると、エンジニアにはコンテンツ制作全体の早い段階から混じってもらうことになるでしょう。アニメの映像を作る前段あるいは同時、つまりエンジニアもアニメ制作過程に混じることがあるかもしれません。

齊藤:ものづくりとして見てもおもしろい展開かと思います。たとえば、小説とイラストのみの原作があったとします。これまでなら、イラストや3Dモデルの共有サイトなどでコンテンツが中間生成されることがありました。今後はアニメ化や映像化の前に公式が力を入れてデジタルコンテンツとして配布したり、盛り上がったらアニメ化やWeb配信ということもできます。

─⁠─人気があれば端役でもスピンアウト作品で主役になるとかありそうですね。

齊藤:先ほどのVRのように別アングルで見たり、Webのみオチが違うとか別ストーリーというのもできるでしょう。これまでのコンテンツ制作とは別のアプローチがいろいろと生まれると思います。

澤田:KADOKAWAは原作に近い出版社という立ち位置ですから、さまざまな可能性があります。

齊藤:いろいろな可能性を抱えてKADOKAWAのドアをたたいてくれるとうれしいです。エンジニアの中には、私たちの想像以上の構想を持っている人がいると思います。遠慮せずにいろいろな可能性を実現してほしいです。

KADOKAWAでは、各種エンジニアを募集しています。詳しくは、
http://ir.kadokawa.co.jp/recruit/
をご覧ください。

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