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Aza Raskinが語るユーザインターフェースとデザインの潮流(前編)

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2010年の1月,Mozilla Labsのユーザエクスペリエンス部門のHeadであるAza Raskinに取材しました※1)。彼の手がける研究は非常に分野横断的なのですが,今回はその中でも中心的なテーマであるユーザインターフェースに重点を置いて聞かせてもらいました。

Azaとは昨年の訪米の際に筆者が関わっているコミュニティ・イベントKOF 2009での講演をお願いし,実現した経緯もあり,リラックスした取材となりました。本文の表記もその雰囲気を重視して口語的なままにしています。お楽しみください。

Aza Raskin氏

Aza Raskin氏

※1)
3月末にLabsからFirefox開発チームに移りました。

言語によるインターフェース

彼が送り出したいくつかのアイデアの1つに,Ubiquity※2があります。これはFirefoxに対して英語に近い表現と方法で命令を出すもので,たとえばブラウズしているページの一部を選択した状態で「email this to Tom」とタイプすれば,FirefoxがGmailを開いてアドレスブックの(あるいは良くやりとりする)Tom宛てにこれを送ります。つまりAzaはGUI(グラフィカルユーザインターフェース)主体の今の操作環境に,言葉によるインターフェースを加えようとしているのです。

  • 筆者(以後単にY)まずUbiquityがどこから来たかを教えてください。そのアイデア,コンセプトはどこから来たのですか?

  • Aza(以後単にA)そう,かなり前に戻らないといけないね。父,Jef※3と一緒に考えたんです。知ってる?厳しい人でね。彼が病気になったとき,いくつものアイデアを思いついたんです。この形見となったアイデアもね。

    「システムを使っているとき,そこで必要な機能を得るために,ユーザが自分の思考状態(state of the mind)を変える必要はないはずだ」ってことです。

    僕はこれを外に出したい,と思ったんですよ。とても良くHumanizeされた※4ものだから。僕たちはこのアイデアから始めて,タスク・セントリック・コンピューティング※5),あるいはより会話的なコンピューティング※6を世の中に送りだそうとしたんです。

    たとえばWordを使っていて,そこに画像を入れたいと思ってもそこでは(うまく)できません。画像の一部を切り取ったりするなら,それ用の画像処理ソフト,Photoshopとかを使いたくなる。

    で,ここが(机を叩く)Photoshopね,今度はそこでテキストを入れたいんだけど,そのスペルチェックはあまりよくない。だってPhotoshopはそれ用じゃないから。次にちょっとした計算がしたくなったら今度は電卓アプリが要る,と。

    つまりユーザが注意を向ける対象はあちこちに散らばっていて,その間でデータを往復させないといけないわけです。まったく時間の無駄だし,何より思考を分断してしまいます。

    大阪でWebの一部を翻訳する場合のデータの往復を見せたよね※7)。

  • Y:はい。

  • A:そこでは翻訳に12ステップ必要だったけど,これは1ステップじゃないと。でも全然僕らのコンピュータはそうなってない。結局これはデジタルデバイド※8なんだね。もちろん今のコンピュータだって何とか使えるよ。でもすごく難しい。だってそうした操作のステップは本来必要ないものだから。

    つまりUbiquityの裏側にあるアイデアは,Webページごとに散らばっている多くのサービス(機能)について,もっと自然な方法で作業させたい,ということです。たとえば言語(language)のように。これは我々がコンピュータと対話(interact)する※9方法について根本的に考え直す,ってことです。

Azaはすべてのアプリケーションは「城壁都市のようだ」と指摘します。機能はその中に囲われており「僕らの前に立ちふさがってるんだ」と。それを結びつけようとしているのです。

オフィス入り口に多くのアワードが飾られています

オフィス入り口に多くのアワードが飾られています

※2)
http://mozillaLabs.com/blog/2008/08/introducing-ubiquity/にAza自身による初期的な(v0.1)デモがある。
※3)
Jef Raskin。最初のMacintoshのコンセプトを提示するなど,ユーザインターフェースに関する著名な研究者。2004年末に膵臓ガンを患い,翌2005年2月末逝去。
※4)
人間向けにできた,という意味。Azaはいくつかの会社を起こしており,その1つにHumanizedがある。Ubiquityの原型となったENSOもここから発信されている。このHumanizedが2008年にMozilla Labsに吸収される形で,彼はMozillaに入った。http://humanized.com/
※5)
task centric computing。作業を中心としたコンピューティング,といった意味。良い訳語がなく,それだけだとわかりにくいが,現在の「本来の作業以外のことが操作の中心となるようなコンピュータの使い方」と対置して考えると良い。
※6)
conversational computing。
※7)
2009年11月のKOF2009で行われたAzaの講演を指す。同じデモをTED Global 2009の講演の後半で見ることができる。
※8)
一般にデジタルデバイドとは情報機器を使える人たちと使えない人たちとの間に生じる多様な局面(経済的,文化的,etc)での落差,それも継続的なものを指す。彼がこの取材(および上記のデモ)で言うデバイドとは,アプリケーションとアプリケーションの間にある深い断絶,つまり協調動作できない状況を指す。もちろんアプリケーション間のデバイドが一般的なユーザにとっての難しさの原因だ,という主張は,それをなくすことが「情報機器を使いこなせるか,疎いか」といった短絡的なデジタルデバイドの解消につながるものでもある。
※9)
コンピュータ用語としてはこの種のinteractを「対話的」と訳すため,元の「languageによるinteract」という単語の並びが「言葉による対話」となってしまって意味がわかりにくくなっている。たとえば従来的GUIを「マウス(あるいは指さし)による対話」だと考えて比較すると良い。

著者プロフィール

安田豊(やすだゆたか)

京都産業大学コンピュータ理工学部所属。KOF(関西オープンフォーラム)やiPhoneプログラミング勉強会などのコミュニティ活動にも参加。京都の紫野で育ち,いまは岩倉在住。せっかく復帰させたCBX 400Fに乗る機会がなく残念な日々を過ごしている。

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