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Aza Raskinが語るユーザインターフェースとデザインの潮流(後編)

この記事を読むのに必要な時間:およそ 3 分

現在Mozilla Firefox開発チームに所属するAza Raskinに,ユーザインターフェースに関するインタビューを行いました。

ユーザインターフェースのあれこれ

Azaは実にさまざまなことについて彼一流の意見や提案を聞かせてくれました。ここにその要点をいくつか示します。彼のアイデア,視点の転換を楽しんでください。

オフィスが引っ越しました。繁華街の中にあるかっこいいビルです

オフィスが引っ越しました。繁華街の中にあるかっこいいビルです

Undoは削除されつつある

自然言語には代名詞(たとえばit)などの,文脈や過去の経緯から推測することで記述を省略できる機能があります。しかし学習から推測する限り必ず間違いがあります。するとUndoが非常に重要になるはずです。どうするのでしょう?

  • A:まずUbiquityではユーザ自身がエラーを素早く発見するための仕組みがあります。ユーザが最後までタイピングして,enterキーを押すまで待ったりせず,たとえばもしあなたが「これ(this)」と言ったとき,Ubiquityは「これ」に相当する何かを提示します。もしそれが曖昧なら,僕らはユーザにそれで正しいかどうか確認できるし,曖昧さを示すこともできる。

    また,Ubiquityではタイプしている間は何も副作用がありません。enterキーを押すまでは何も起きないのです。その結果,とてもリッチなプレビューを得ることができます。map chicagoとタイプすればそれが出てきます。もし望みのものでないなら単にdeleteキーを押せばいいし,そういう意味ではUndoという段階がなくて良いのです。つまりUndoがdeleteされているわけです。

つまりリッチなプレビュー,それで何が起きるかを先に見せることで,事後に非常に強力なUndoが必要になる問題を回避するのです。元々の問題をひっくり返したわけですね。

ソーシャルな問題に転化する

筆者はUndoに関連してWindows Vistaが出す大量のダイアログを例に,「これをしても良いですか」と尋ねることは無意味であり,間違えたら後でUndoするほうが良いと話しました※1)。

すると彼はダイアログの問題に答えた後,「ところでそれは面白い質問に変わります」と言ってJetpack※2のセキュリティ対策について話し始めました。Jetpackでは単純なSandbox※3に入れる代わりに,マニフェストと呼ぶアクセス制限リストを用います。

  • A:さてあなたの質問,ダイアログ問題については随分考えました。セキュリティとユーザビリティのどっちをとるか,ということにつながるからです。ここでは(非常に技術的な設定項目を多数含む)マニフェストがそうです。たとえば,このプログラムをネットワークにアクセスできるようにしますか? yes or no。あなたのパスワードにアクセスさせますか yes or no。ファイルアクセスも,あれも,といった具合いに多くの質問項目が含まれています。twitter.comにアクセスを限定,などもあります。

    これで安全性は高まるのですが,しかし(繰り返して無意味なことを尋ねる)ダイアログ問題が現れます。だってエンドユーザがコードの断片を見ても,その中身はわかりっこない。そしてマニフェストを見てもこれまた技術用語が並ぶだけで意味不明。ねえそんなものインストールしたい?

  • Y:判断できないよ。

  • A:何か解決策が要るね。そこでそのアドオンを大勢のレビュアーに見てもらうんだ。彼らはアドオンなどが好きな人たちで,そんな人たちがマニフェストの内容をチェックしてくれる。エンドユーザにはその評価を集約して簡単に見せ,せいぜいインストールして「良い」「駄目」くらいで判断すれば良い。

    技術的なことが良く分からないお母さんが家電機器を買い,娘か親戚の誰かに聞くのと同じです。つまり彼女は技術上の問題(どうすれば良いか)を人間の問題(誰に頼めば良いか)に変えたわけだ。これが,そのダイアログに対する質問の答ってわけ。つまり僕たちの解は,技術上の問題をソーシャルな問題に転化することなんだ。

ここでも彼は,問題を直接解決するのではなく,違うところに置き直して対応しようとしています。

Aza Raskin氏

Aza Raskin氏

※1)
(筆者は知らなかったが)Azaはまったく同じ趣旨のことを2007年6月に書いている。Never Use a Warning When you Mean Undo(Undoを意味する警告はやめろ)
※2)
Azaが今取り組んでいるFirefoxの拡張機能をよりパワフルに,より容易な開発を実現するフレームワーク。http://mozillalabs.com/jetpack/
※3)
砂場のこと。子供を安全な砂場の中でだけ遊ばせるように,実行プログラムがある範囲から外へ出ないように制約するセキュリティモデル。

パーソナライズ

ここで筆者はJetpackのパーソナライゼーションについて間違った質問をしたのですが,Azaはそれを正してから「ただ,そのパーソナライズに関する質問(話)は面白いね」と続けました。

  • A:もし最終的にインターフェースやコンテンツがあなたにフィットしてないと感じられたら,そこには何か間違いがある。大抵は平均的なユーザに対してちゃんとインターフェースのことを考えない設計者のせいだね。たとえば巨大なチェックボックスでいっぱいの環境設定画面を作ったり。つまりインターフェースを変えて,ユーザが望むとおりに変更できるように。でもこれは間違いね。(ええ)

    なぜならどれが一番良い選択かユーザにはわからないからね。これは僕らの仕事だ。よく研究して,それを見つけ出すんだ。

「その通り」と返事をすると,何と彼は「今話してたこと自体,間違ったゴールなんだ」と言い出しました。

  • A:(インターフェースではなく)コンテンツこそパーソナライズされるべきものです。Mozillaはこれ(正しいパーソナライズ)を実現するユニークなポジションにいると思う。ユーザは(ソフトを信頼して)非常に多くのユーザ自身に関する秘密の情報を与えてる。iGoogleやMy Yahooも同じで,我々はあなたが何を申し込んで,何を読んで,チェックしたか知ってるんだ※4)。その結果として,ユーザの作業を自動的に補助することができる。Firefox 4の新しいホームタブでは,あなたが気にしなければならないことを自動的にまとめて出してみる,といったことね※5)。

  • Y:つまり学習がとても重要なのですね。

  • A:そう。コンテンツの周囲,その細部に(パーソナライズのために学習すべきことが)存在している。ソフトの操作法などは誰でもおよそ同じで,むしろそのコンテンツによって操作にユーザ個別の変更(パーソナライズ)が必要になる。

    そんなことを考えてるんだ。

つまりパーソナライズ,個々のユーザに対してフィットさせるべきものはソフトウェアではなく,その中身に対してであり,それはまた自動的であるべきだ,という意見です。またWebブラウザがユーザの操作をまず第一に受け止めることができる点で,今の彼のポジションがこの問題を扱う上で非常に強力だと。とても面白い視点です。

犬が何匹もいて,ゆったり過ごしています

犬が何匹もいて,ゆったり過ごしています

※4)
そのためMozillaはプライバシの問題を非常に強く意識しており,積極的にデータの秘匿性やプライバシーに関する啓蒙を行っている。『Software Design』2008年6月号のMozilla corp. CTOであるBrendan Eichへの取材記事でも,BrendanはMozillaがWeaveで暗号化を行うが,Googleらが(広告のために)それをしないことを指摘していた。
※5)
2010年3月17日にMozilla Labsが主催したHome Tab Design Challengeの入賞発表がありました。http://mozillalabs.com/conceptseries/2010/03/17/home-tab-design-challenge-best-in-class-honors-bestowed/

著者プロフィール

安田豊(やすだゆたか)

京都産業大学コンピュータ理工学部所属。KOF(関西オープンフォーラム)やiPhoneプログラミング勉強会などのコミュニティ活動にも参加。京都の紫野で育ち,いまは岩倉在住。せっかく復帰させたCBX 400Fに乗る機会がなく残念な日々を過ごしている。

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