インタビュー

Living Earth―Moshen Chanに訊く(その1)

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Living Earth HD - World Clock and Weather注1(以後単にLiving Earth)は地球儀の上に各地の時間,天気,温度などを表示するiPhone,iPadアプリです。昼と夜,雲の様子もリアルタイムに描画されていて,ある種のリアルタイム・フォトフレームにもなります。こう書くと何でもないようですが,とにかく地球の描画が美しく,2010年の有料iPadアプリの第5位に入っています注2)。

今回,Living Earth作者のMoshen Chan注3に取材して,作成の経緯や彼自身のキャリアなどについて聞きました。

Moshen Chan

Moshen Chan

What's Hotリストに入っているLiving Earth

What's Hotリストに入っているLiving Earth

注1)
iTunesストアのLiving Earthページ
注2)
Apple reveals the top iPhone and iPad apps of 2010
注3)
筆者とMoshenは2005年からの友人で,Living Earthのことも以前から聞いていました。そのため取材は非常にリラックスした雰囲気で行われ,本文もそれに合わせてくだけた表現のままにしています。とてもフレンドリーで,また多くの(主としてアウトドアの)趣味を楽しむナイスガイです。

開発の経緯

取材当時,Moshenは Flashゲーム開発者向けのツールキットを提供するMochi Media社注4に勤めていましたが,Living Earthは会社とは関係無く彼が個人的に作ったプログラムです。

まずiOSアプリを書くようになった経緯から話を始めました。

Y(筆者)ここMochi Mediaではどんな仕事をしていますか?

M(Moshen)最初に来たときはFlashツールのエンジニアだったけど,一年後にVP Engineeringになり,今はプログラミングをやめてエンジニアチームのマネジメントをやってる。

Y:ここに来たのは3年前でしたっけ?(そう)そしてその後,自分でプログラムを書かなくて良くなった。でもまた書き始めたわけですね。どうして?

M:そうだなあ。僕は(前職の)OQO注5にいたとき,自分の空き時間に小さなゲーム,Ryokan注6をHiptop携帯注7用に書いたんだ。Dangerで働いてた友達から,自分の知人がTetrisを作って2.99USドルで売って稼いでると聞いて,じゃあやってみるか,と思ってね。

Y:ははは。

M:Javaはあまり経験がなかったけど,結局3ヵ月ほど費やしてこのゲームを出したんだ。世界中のHiptopにね。まあエキサイティングだったね。

このゲームのオンライン版も僕はFlashで書いたんだけど,どうやってそれをマネタイズするか興味があった。その頃,Mochi Mediaがゲームから広告収入を得られるようなツールキットを出していて,これを使うことで僕はMochi Mediaのことをよく知るようになり,(OQOを出て)Mochiに入社したんだ。

(iOS Appを書くようになったのは)これと同じストーリーだね。Mochi Mediaではマネジメントの仕事になって,まあちょっと残念だったわけ(ははは)。2つなくしたものがある。まずプログラミング。それと空き時間にやる自分自身のプロジェクト。僕は最初のHiptop携帯のとき,本当にこれを楽しんでやった。毎日午前4時に寝ることになっても,しかし充実してた。

その頃,iOSプラットフォームの人気が出ていたので,オーケイ,じゃあ自分の自由になる時間でiOS Appをやるか,と。それで自分に何ができるか見てみよう,と。

注4)
Mochi Media, Inc. 提供するツールキットには,Flashゲームの前後に広告を出して収入を得るサービスも含まれている。
注5)
OQO社。超小型PCを開発・販売していたベンチャー企業。
注6)
Ryokan game. 名前は旅館ではなく良寛からとった,とのこと。
注7)
Danger社による初期のスマートフォンの1つ。後にSidekickと名乗った。Danger社は,Androidの開発者Andy Rubinが起こした企業の1つで,Android同様にアプリケーションの開発はJavaで行う。

スタートからゴールまで

Y:それにしてもこのLiving Earthは大きなプログラムだね。最初からこんなものを作る,と思ってましたか?

M:最初のゴールは……,いやいや最初は何も考えてなかったね。ははは。

まあ3Dに興味があったので,最初はとにかくiOSの3Dフレームワークをいくつか当たった。それらのデモアプリの1つが地球上の地震を可視化するもので,最近の地震についてそのマグニチュードなどが(3Dの地球の上に)出てくる。データをそんなふうに可視化していることが面白かった。その地球を回転させながら見ることもできる。これがサン・アンドレアス断層だ,とか。とても面白い。

ここから「データを3Dの地球に載せて出す」という最初のコンセプトができた。はじめは3D地球の上に,たくさんのTwitterメッセージを出すつもりだった。これが僕の最初のアイデアだった。

Y:えええっ(無茶だよ,というニュアンス。難しさは後述)。

M:(笑いながら)アイデアだよ。やりはじめると,良い3D(フレームワーク)がなく,単に球を作るだけでもiOSでは数学的なモデルを自分で作り出さなければならない。

僕は数学は得意じゃないし,3Dは僕にとっては新しいものだし,ひどく時間が掛かった。単に3Dの球を出すだけでも15時間は掛かった。次のテクスチャマッピングにも時間が掛かった。またできるだけ正確に作ろうとした。大気の影響注8とか,昼と夜の具合いなど,地球がより良く見えるために大量の時間を費やした。

それが済んで,ようやくTwitterとのインテグレーションに取りかかったけど,続けるうちに,このプロジェクトはちょっと大きすぎて,時間が掛かりすぎると思った。

一方で完成した地球はとにかく良くできていて,見た感じとてもリアルだった。そこでこれをシンプルに,でもデータをちょっと違う方法で可視化するというコンセプトはそのままで出せないかと思って,世界時計を作ることにした。普通の世界時計は情報がリスト形式で並ぶだけだが,これなら昼と夜の具合いがちゃんと出せる。クールじゃないか,と。そこで今のアプリケーションへと進化したわけさ。

Y:良かったと思うよ。Twitterメッセージを出すにはiPhoneのディスプレイは小さすぎる。

M:そう。僕もそのユーザインターフェースはすごく難しいと思う。そのチャレンジにまた大量の時間を費やしただろうね。もし僕が1ヵ月か1ヵ月半くらい遅くこれをスタートさせてたら,どんなプロダクトとして出荷すべきか考えただろうけど,とにかく僕が作った時は他にない,最高の3D地球だったのさ!はっはっは。

注8)
Living Earthの絵を見ると分かるが,昼の領域の地球の縁のところが光り輝いてとても美しい。

次回はLiving Earthの内部的なこと,Moshen自身のこれまでのキャリアについてお話いただきます。

著者プロフィール

安田豊(やすだゆたか)

京都産業大学コンピュータ理工学部所属。KOF(関西オープンフォーラム)やiPhoneプログラミング勉強会などのコミュニティ活動にも参加。京都の紫野で育ち,いまは岩倉在住。せっかく復帰させたCBX 400Fに乗る機会がなく残念な日々を過ごしている。

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