ヒューマンエラーを減らし飲食ビジネスの可能性を最大化する――ストレスフリーの飲食ビジネスアプリの理想形「TORETA」目指すもの

今回紹介する「TORETA」は、スマートデバイス時代に登場した飲食店の現場のための業務アプリです。予約という、飲食店と来店者をつなぐインターフェースに着目し、⁠使いやすさ」を再優先に考えたコンセプトから生まれました。今回、代表取締役中村仁氏とCTO増井雄一郎氏に、⁠TORETA」の開発に関して狙いから技術的ポイントについて伺いました。

TORETA
http://toreta.in/

中村氏、増井氏紹介

代表の中村氏は、パナソニック株式会社と外資系広告代理店に勤められた後、2000年に株式会社グレイスを設立し、外食産業に参入。豚組(東京・六本木)など飲食店の経営に携わりました。2010年にはTwitterを中心としたソーシャルメディアによる集客で注目を集め、その後は、食とITという観点で、IT(テクノロジー)を身近に浸透させていく取り組みに注力しています。

エンジニアの増井氏は、PHPベースのWiki「PukiWiki」コミュニティの運営、Ruby on RailsやTitunium Mobileなど、時代に合わせた技術に注目し、現在はmrubyコントリビュータとしても活躍している日本のトップエンジニアの1人です。

中村氏(左)と増井氏(右)
中村氏(左)と増井氏(右)

この2人が開発した「TORETA」とはどういったアプリなのでしょうか。

なんのための業務アプリなのか

「一言でいうと、飲食店ビジネスの生命線でもある「予約管理」をストレスなく行い、その恩恵を十分に活用するための飲食店の現場向け業務アプリです。これまで、実際に自分が外食の現場に立って感じたのが、宣伝や集客については数多くのWebサービスが登場していますが、一方でお店の営業や接客を底支えして店舗の魅力をより高めるような仕組みはずっと貧弱なままだったということです。さらに言うと、飲食店の店舗向けに開発されているさまざまな業務ツールは、ハッキリ言って飲食の現場では使いづらいストレスフルなものばかりだったんです」と、中村氏は述べました。

これはどういうことなのかとさらに聞いたところ「結局、現場の人間がシステムの都合に合わせなければいけない」とのこと。これまでの飲食店向けの業務アプリと言うと、メニューやボタンがたくさん並んだお決まりのUI(ユーザインターフェース)で、まったく直感的に使えないため、利用者はその使い方をすべて丸暗記する必要がありました。

この点は技術的限界から仕方がなかった部分もあるとしながらも「そうは言っても飲食業界のような分野では、利用者となる従業員全員がPCやネットサービスに精通しているわけではないのです。場合によっては、まずキーボードの打ち方やマウスの使い方から覚えなければなりません。そこからさらに業務アプリケーションの使い方までを習得するというのはハードルが高すぎるのです」⁠中村氏)と説明しました。

その結果、現場が業務アプリやシステムをうまく使いこなせずに、大事な予約管理でミスが発生したり、接客において失敗が起きてしまう要因になるとのこと。また、現場を知らない人たちがUIを設計しているケースが多いゆえに、現場のさまざまなニーズに柔軟に対応できないシーンを見てきた体験が、このアプリを開発するきっかけになった、と中村氏は開発の背景を述べました。

TORETAはひと目でわかる直感的なUIを用意している
TORETAはひと目でわかる直感的なUIを用意している

現場の意見を反映すること

「自分の強みというのは、飲食店の現場を身をもって知っている点だというのはハッキリ言えますね」と中村氏は述べます。通常、こういった業界特化型の業務アプリを開発する場合、開発企業が請け負うと、実際の現場の声を拾い切れず、結果、仕様がまとまらなかったり、そもそも要件の洗い出しができないケースがあるのですが、⁠TORETA」に関しては、中村氏がアプリ開発のプロジェクトマネージャーとなって率先し、また、すでに他のアプリ(ミイル)を一緒に開発した経験のある増井氏とタッグを組むことで、⁠飲食の現場は本当に何を求めているか」⁠現場のために何を実装すべきか」を突き詰められているのが特徴になっているわけです。

お客様とのインターフェースとなる「予約台帳」に着目

さらに、中村氏は「実際にいくつかの飲食店を経営し店舗にも立って感じたのは、本当にお客様が多種多様ということですね。だからこそ、その最たるコミュニケーションでもある予約情報の管理と活用というのはすごく難しい。そして、大切なんです」と続け、外食産業における「予約」の重要性について説明してくださいました。

たいていの場合、予約というのは飲食店の店員が電話で受け、それを「予約台帳」に記して店員全員で共有します。そして、その管理は店長が担当するものです。

「この予約台帳って、⁠外食産業に携わっていない人から見ると)いわゆる管理一覧程度としてしか見られないと思うんです。でも、これが実は飲食店にとってはとても重要なのです。この管理でミスが発生して、席がない、お願いしていた席と違うなどのトラブルが起きると、店舗の営業にとっては致命的なのです。

また、予約数というのは需要予測そのものですから、仕入れやシフト管理の精度にも直接関係します。さらにお客様へのおもてなしという観点で見ると、初来店のお客様なのか、あるいは二度目なのか三度目なのかによってお客様にかける言葉からして変わってきます。このように予約とは飲食店の経営の肝になるくらい重要なものなのです。

もちろん、一部の飲食店ではパソコンを利用してシステム化を試みていますが、予約段階からリピート化施策、経営の合理化までをワンストップでできるものはこれまで存在しなかったのです⁠⁠。

予約台帳をiPadに載せているイメージでつくられた。リアルタイムで変更が反映される点、そして、⁠完全な状態でなくとも)全体像がつかみやすいレイアウトになっている
予約台帳をiPadに載せているイメージでつくられた。リアルタイムで変更が反映される点、そして、(完全な状態でなくとも)全体像がつかみやすいレイアウトになっている
手書き入力にも対応していて、後から編集・記録できるようになっている。このあたりの工夫は、まさに現場を知っているからこそだと言える
手書き入力にも対応していて、後から編集・記録できるようになっている。このあたりの工夫は、まさに現場を知っているからこそだと言える

このように、現場を知っている人でしかわからないポイントを押さえていること、これが「TORETA」の魅力でもあり、アプリとしての特徴になっているのです。さらに「業務系アプリだからこそ、ユーザエクスペリエンスが最も重要だと考えています。使い勝手が悪いと、オペレーションコストや教育コストがかかりミスも起こりやすくなります。複雑になりがちな予約受付と管理業務を効率的に遂行できるように仕組化していくこと、それを「TORETA」では最重要課題として設計しました」と、⁠TORETA」「使いやすさ」を最優先したシステムである理由を述べられました。

スマホ時代到来による学習コストの最適化

「予約現場の諸問題を解決したいという思いがスタート地点だったのですが、もう1つ、このタイミングで開発に踏み切ったのには理由があります」と、中村氏は続けます。

「それはスマホやタブレットなどスマートデバイス、とくにiPhoneとiPadの普及です。これは本当に大きな理由で、これまでの業務アプリの場合、PCベースのサービスがメインで、活用にあたってPCスキルの差というのが教育面でネックになりがちでした。ところが、ここ日本であれば、とくに2012年後半からのスマホの普及が大きく、フリックやスワイプといった操作やUIへの習熟度が非常に高まってきているのです。

結果として、iPadやiPhone のアプリであれば端末操作の教育はほぼ不要になっています。また、⁠TORETA」自体も現場のオペレーションに合わせて機能を実装しているので、トータルでの教育コストは極めて低くなるわけです。これが数年前であれば、条件として成立しなかったと思います」と、スマホ時代が到来したことも「TORETA」が登場した理由の1つであったと言えます。

この流れを継いで増井氏は、⁠スマホのUI、とくにiPhoneのUIというのは、ユーザが慣れてきていることが大きいですが、開発者にとってもありがたいです。Appleがガイドラインを提供してくれているので、それをもとに実装することでデバイスに最適化できるUIを作り込めますから」と、開発者視点から見たiPhoneのメリットについても語りました。

技術視点から見たスマホデザイン&開発のポイント

続いて、開発の裏側についてもお話を伺いました。

「バックエンドはRuby、フロントエンドはObjective-Cと、それほど凝ったものにはしていません。ただ、リアルタイム性が求められるシステムですから、その点でインフラは気にしています。Ruby on Railsを選んだこともあり、インフラはEngine Yardを採用しました。これで、開発期間は大幅に短縮できていますし、今後のメンテナンスコストも下げられるのではないでしょうか。

先ほど中村が述べたように、日常的なツールという観点でiPhone/iPad向けに作っていますので、開発面ではそれほど際立てたことはしていないんです。ただ、将来的なことを考えて、認証はOAuthを利用するなど、他のサービスとの連携を考えていますね。また、ビジネスパートナー向けになるかと思いますが、APIの提供も予定していて、飲食店の予約管理だけではなく、外部のさまざまな飲食店向けサービスとの連携をしやすい設計にしています」⁠増井氏⁠⁠。

業務アプリとしては、誰もがすぐに使えるものにしているがゆえに、⁠表立った)技術色はできる限り減らしている、これも「TORETA」の特徴と言えます。一方で、認証機構やAPI公開予定といった点から、これからのシステム拡大に期待が持てるアプリだということが、増井氏の説明から伝わってきました。

次の展開に向けて

最後に、今後の展開について中村氏に伺いました。

「まだこれがスタート地点です。ですが、このアプリは業務アプリとしてエポックとなり得ると思っています。これまでのIT導入というのは、リソース削減、とくに人的リソースを削減することが効果として見られてきました。たしかに、それで利益は増えるかもしれませんが、はたして人的リソースを減らすことを最終的なゴールとして良いのでしょうか。

たしかに「TORETA」は、⁠予約管理」という行動をフックに、人の動きから生まれるエラーを減らす、管理効率の向上が出発点となります。しかしTORETAの導入によって、これまで多発していた飲食店の現場のコミュニケーションロスを削減したり、重要顧客やリピーターさまとなりうるお客様に向けて、より高いレベルでのサービス提供が行えるようになります。すなわち「TORETA」が目指すのは、飲食店が必要な情報を簡単に活用して、より良いサービスを提供できる環境をつくり、それによって利益を生み出す本質的なアプローチであり、個々の飲食店の成長を下支えすることです。

まずは、私が関わっている店舗で利用し、基本部分のブラッシュアップを進めています。また、すでに内々にご紹介したいくつかの店舗さまでも大変好評で採用も次々と決まりつつあるので、導入の成果をしっかりと積み重ねて、飲食店での利用拡大を目指したいですね。

そのうえで、中長期に関しては増井が述べたAPI公開や他社サービスとの連携を進め、予約情報を軸にしたビジネスの拡大につなげていければと思います」

中村氏はこのように締め括りました。

「インターネットやWeb、そしてITがどんどん進化して、身の回りで「あたりまえ」となってきている今、⁠TORETA」のようなアプリがさまざまなビジネスシーンにも出てくることが、真の意味でのIT活用になるのではないでしょうか。来年の今ごろは多くの店の予約システムが様変わりしているかもしれません⁠⁠。

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