インタビュー

UXデザインが果たす役割とは?~HCD-Net認定 人間中心設計専門家インタビュー:株式会社ビジネス・アーキテクツ 伊原 力也さん

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――伊原さんご自身の経験をふまえ,プロジェクトにおけるUXデザインの役割について教えてください。

「実際のユーザを調べる」ということを身近なところで例えるなら,野球がわかりやすいかもしれません。

UXデザインのないプロジェクトは「そもそもピッチャーからキャッチャーが見えていない」というイメージです。⁠ユーザが見えていない」というのはキャッチャーがいない方向にボールを投げている危険性を含んでいます。

しかし,キャッチャーがきちんと見えていれば,仮にストライクにならなくても,捕球できるところに投げることができます。すなわち,ユーザをきちんと理解することで「キャッチャーがいる場所」が判断でき,投げる方向が定まるのです。

そうすると,プロジェクトがゴールに向かうようになります。つまり,ユーザを見ること・ユーザを意識することで,プロジェクトのゴールが近づいてきます。

そう考えると,ユーザ調査の実施でタスクが増えたとしても,プロジェクト全体として考えれば,ユーザ調査をしたほうが適切な時間でプロジェクトを遂行できます。先ほどの例えでいえば,⁠ユーザ調査により)キャッチャーの場所がわかるのでプロジェクトメンバーの目線が同じところに向きますし,暴投もなくなるというわけです。

だから,結果として,プロジェクトが「はかどる」のです。

――逆に,UXデザインがないプロジェクトはどうなりますか?

何かをつくったときに「なぜ?」という質問に答えられなくなります。⁠どうしてこういう設計にしたの?」というときに,3回くらい「なぜ?」をしていくと,その先にユーザがいないと,答えられない。

つまり,つくったものに責任が持てなくなるのです。プロとしての責任が果たせない。

自分たちの話になりますが,BAの社風として「プロフェッショナルであれ」というのがあります。明示はしていないのですが,プロとしてとことんやれという空気がある。プロとしての責任をちゃんと満たせる,つくったものの説明ができる。その業界ではない人間が,他の業界の肩代わりをして,世にものを送り出す。クライアントを手助けする。

それらをすべて実現するうえで,最もコストパフォーマンスが高い方法が「ユーザを知る」ことだと考えています。

BAでのプロジェクト進行風景

BAでのプロジェクト進行風景

――伊原さんは,今年デザイニングWebアクセシビリティ - アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ(ボーンデジタル)という書籍を出版されました。帯には「UX視点のデザインプロセス」とありましたが,UXデザインとアクセシビリティを並べるのは,珍しいように感じます。

そうですね。そのあたりは,とくに,こだわっているところです。

UXデザインにおいて,今,⁠ユーザを調査する」というところだけに,世の中の注目が集まっている印象があります。ただ,UXデザインの前提には,今までの先人が積み上げてきた,多くのノウハウや知識があります。たとえば,ユーザビリティ原則やインターフェースのさまざまなガイドラインです。

そういった基本的な知識のないままでも,⁠ユーザ調査をすれば良いものができる」といった理解の仕方をしている人を見かけることがあり,個人的に気になっていることでもあります。

ものをつくるときは,まず,土台となる知識があって,そこにユーザ調査の結果が組み合わさることにより良いものができるのだと思っています。僕はそこを両立していきたい。

そのとき,まず基本として押さえておくべきだと考えているのが「アクセシビリティ」です。Webにおいて,アクセシビリティを知らずにUXデザインを語るのは不安があります。

――どうして,アクセシビリティが重要なのでしょうか。

もともとWebというプラットフォーム自体が「誰でも使えることに価値がある」という思想をもってつくられたものだからです。

よく引用されるものとして,Webの創始者であるティム・バーナーズ=リーの「The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.」という言葉があります。

要約すると「Webの力はその普遍性にある。どんな人でもアクセスできるのが,Webの本質だ」という意味です。

誰もが使えるからこそ価値がある。Webという場がそれを求めています。

この「誰もが使える」という考えは,UXデザインの考えと似ているようで,異なる部分もあります。というのも,UXデザインでは,ユーザを定義してそのユーザにとって使いやすいように設計していきます。つまり,⁠誰もが」ではなく)ユーザを特定して,そこに直球を投げるように設計をしましょう,という思考の流れだからです。

アラン・クーパーが言うところの「1人に剛速球を投げると,だいたい誰でも使えるようになる」という考えですね。

ビジネスという視点でも,⁠ターゲットユーザに使えるように」という話は理解しやすいし,それによって実際に売上が上がるのでわかりやすい。

しかし,アクセシビリティはやや方向性の異なる話をしています。特定の誰かのためではなく「あらゆる人のための」Webのためだという。

アクセシビリティは保障のようなものです。誰にでも使えるようにしておくことで,いろんな形で目的を達成できる可能性が残る。市場も広がるし,思ってもみなかったような使い方も生まれてくる。Webの体験は,そういう柔軟さをもとに成り立っています。

Webの柔軟さを担保していく。それは知識を持っていないと実現できません。だからこそ,先人が積み上げてきたアクセシビリティの知識を,自分の引き出しに持っておくことが必要です。

そのうえでビジネスとアクセシビリティを両立させる。そこがWebの面白さでもあり,難しさでもあります。UXデザインにかかわる人は,アクセシビリティをもっと推していくといいと考えます。プロの仕事としてもそうあるべきです。

BAという会社では,ユーザをきちんと理解したうえで,ビジュアルデザインに優れ,そしてアクセシビリティ,実装の品質も,きちんとしたものを出す。これがBAの強みでもあります。先ほど紹介した「プロフェッショナルであれ」という社風に応えられるよう,これからも取り組んで行きたいと思います。

――ありがとうございました。

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人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度
申込受付期間2015年11月25日(水⁠⁠~2015年12月25日(金)
応募要領http://www.hcdnet.org/certified/

著者プロフィール

羽山祥樹(はやまよしき)

時代の3歩先をねらうWeb屋さん。

1996年からインターネットに触れる。Webデザインのアルバイトでネットショップの立ち上げと運営を経験。就職後、システム営業を経て、現在はIT系商社のWeb戦略に関わる。

大規模Webサイト運営やWebガバナンス、Webサイトガイドライン、Webコンテンツ品質管理・監査を得意とする。UXD(ユーザエクスペリエンスデザイン)やIA(情報アーキテクチャ)、アクセシビリティの分野でも積極的に活動をしている。

個人Webサイト:http://storywriter.jp/

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