インタビュー

デジタルトランスフォーメーションの実現をDevOpsツールの力で支援する ―マクジャネットCEOが語るHashiCorpのミッション

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「デイブが来てくれたおかげで僕とアーモンはツールの開発にフォーカスできるようになった」―昨年9月,HashiCorpの共同創業者兼CTOであるミッチェル・ハシモト(Mitchell Hashimoto)氏は筆者とのインタビューにおいてこうコメントしていました。"デイブ"とは2016年からHashiCorpのCEOを務めるデイビッド・マクジャネット(David McJannet)氏のことです。2012年の創業以来,DevOpsスタートアップとして順調に成長を続けるHashiCorpですが,ソフトウェア業界でのキャリアが長いマクジャネット氏を最高経営責任者として迎え,企業として次のフェーズに入りつつあります。

マクジャネット氏は現在46歳,HashiCorpの創業者の二人とは20歳近い年齢差があります。IT業界での経験が豊富なマクジャネット氏ですが,自身の次のキャリアとしてなぜこの若い企業を選んだのでしょうか。そして現在,世界中の多くの企業にとって課題となっている"デジタルトランスフォーメーション"にDevOps企業としてどう取り組もうとしているのでしょうか。2018年3月上旬に日本の顧客/パートナーとの対話のために来日したマクジャネット氏にお話を伺いました。

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ジョインの理由は「ふたつの偉大な才能に出会ったから」

――2016年にHashiCorpのCEOとしてジョインされてから約1年半ですが,HashiCorpをご自身のキャリアとして選ばれた理由を教えていただけるでしょうか。マクジャネットさんはこれまでVMwareではSpringSourceやCloud Foundry,HortonworksではHadoop,そしてGitHubと,オープンソースビジネスに深くかかわってきたとうかがっています。HashiCorpもオープンソースをビジネスのコアに置いている企業ですが,そのことも関係していますか?

マクジャネット: オープンソースをコアにしているということもありますが,一番の理由はミッチェルとアーモン(Armon Dadger氏,HashiCorp共同創業者兼CTO)というふたりの若者のすばらしい才能に感銘を受けたからです。彼らはテクノロジに精通しており,また問題解決に対するアプローチが非常にすぐれていました。まだ小さい会社ではあったものの,自分たちがやるべきことをクリアに描いており,迷いがいっさいなかった。ミッチェルとアーモンがいかに高い技術力をもっているかは,⁠Terraform」「Vault」など彼らがいままで開発してきたソフトウェアを見ればわかるでしょう。

ミッチェルもアーモンも,自分たちが社会に果たすべき役割を強く認識しています。我々は現在,デジタルによる歴史の変わり目にいますが,変わらなければいけないことがわかっているにもかかわらず,非常に多くの企業が前時代の技術にひもづけられています。変化の機会を奪われている企業に対し,ツールの力,とくに自動化を促進するというソリューションでもって,企業のデジタルトランスフォーメーションを支援していくことがHashiCorpのミッションです。そしてHashiCorpがより良いソリューションを提供していくためには,傑出したエンジニアである二人は開発に集中すべきだと思いました。彼らから私に「HashiCorpのCEOに就任してほしい」という申し出を受け,何度か話を重ねるうちに,私がこれまで培ってきたエンジニアリングとマーケティングの両面におよぶソフトウェア業界での経験が彼らの開発者としての力を底上げすると確信し,ジョインすることにしたのです。

――まるでエリック・シュミットがラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンに請われてGoogleのCEOに就いたときのエピソードのようですね。

マクジャネット: 会社の規模が違いすぎますが(笑)⁠そう例えてもらえるのは光栄ですね。ただ,Googleとの違いはもうひとつあって,我々はBtoCではなくBtoBをビジネスにしているという点です。BtoBの場合,前時代の技術(レガシー)との共存は避けられません。レガシーの存在を受け入れつつ,デジタルトランスフォーメーションという歴史的な潮目に向き合う手段として,DevOpsというアプローチは非常に有効です。BtoBにおけるDevOpsの存在感はこれからさらに大きくなるはずで,そうした新しい市場に向き合うおもしろさに引かれたこともHashiCorpに入った理由のひとつです。いままで見たことのない世界を見られるのは非常にわくわくする体験ですから。

――企業がレガシー技術に縛られているという現状は,日本のエンタープライズにとっても大きな課題です。今回の来日では多くの日本企業とお話をされるとのことですが,マクジャネットさんにはいまの日本企業はどう映るでしょうか。レガシーから解放され,デジタルトランスフォーメーションを実現していくことは可能だと思われますか。

マクジャネット: それと同じような質問を米国,とくに東海岸にいるとよく受けますね。日本や米国,そして欧州のいくつかの国は,あなたがいま言われたようにレガシーに苦しむ企業は少なくありません。メインフレームなどはその代表でしょう。クラウドコンピューティングが普及を始めてから10年以上経つのに,いまだに多くのメインフレームが世界中で稼働しています。また,クラウドへの移行が始まっているとはいえ,SAPやOracleといった基幹業務システムのほとんどはオンプレミスで動いています。そしてまだ当分,これらの技術が消えることはないでしょう。

BtoBの世界ではよく「SoR(System of Record)⁠「SoE(System of Engagement)⁠という言葉が使われます。SoRはミッションクリティカルな基幹業務,たとえばいま挙げたSAPやOracleなどトランザクション処理を中心としたシステムを指し,SoEは顧客とのエンゲージメント(関係性)を強化するシステムとして定義されています。デジタルトランスフォーメーションやイノベーションの議論になると,SoEのほうに注目が集まりがちですが,実際にはSoRに蓄積されたデータなしではデジタルトランスフォーメーションは実現できません。そしてエンタープライズの場合,SoRはオンプレミスやメインフレーム,つまりレガシーとタイトに結びついており,容易にクラウドへと移行できないのが現状です。クラウドに移行したほうが新しいデジタルサービスやアプリケーションを開発しやすいのはそのとおりなのですが,エンタープライズのシステムは規模が大きいので,移行もまた一大プロジェクトになりがちです。

それならばレガシーが存在する前提で,どんなインフラであっても一元的に,かつ自動で管理できる環境を構築する,またオンプレミスからクラウドへの移行手段を負荷のすくないかたちで提供することが,エンタープライズにおけるデジタルトランスフォーメーションへの現実的な解であり,HashiCorpはそういうツールを提供し続けているのです。

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最初の質問に戻ると,もちろん日本企業もデジタルトランスフォーメーションを成功させていくことが可能です。我々の顧客の中にもすでにそういった企業はあらわれはじめていて,たとえばごく最近のケースだとGMOメディアの事例があります。GMOメディアはもともと,オンプレミスのシステム上でメディアサービスを提供してきたのですが,新しいサービスを提供するときはいつも手作業の設定が必要でした。しかし人力の設定作業は運用担当者にとって大きな負荷となり,ミスが必ずつきまといます。また同社では上位レイヤの自動構築作業に,AnsibleとChefを利用していましたが,パブリッククラウドへの移行にあたり,複数のクラウドインフラにまたがった自動プロビジョニングの必要性が生じました。これらの課題を解決するために,GMOメディアは複数のインフラをコードで管理できる「Terraform Enterprise」を導入し,コードによる複数インフラの完全自動プロビジョニングを実現しています。新規サービスの立ち上げも劇的に速くなり,人為的エラーも完全に取り除かれました。こうした改善は顧客の満足度向上に直結し,メディア企業としての競争力を高めます。インフラ管理の改善がデジタルトランスフォーメーションに大きく貢献した良い事例であり,HashiCorpとしてもGMOメディアの変革のお手伝いをできたことをとてもうれしく思っています。

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

IT系の出版社で編集者としてキャリアを積んだ後,2011年からフリーランスライターに。フィールドワークはオープンソースやクラウドコンピューティング,データアナリティクスなどエンタープライズITが中心。海外カンファレンス取材多め。Blog 「G3 Enterprise」やTwitter(@g3akk),Facebookで日々IT情報を発信中。

北海道札幌市出身/東京都立大学経済学部卒。

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