エンジニアサポート CROSS 2015 レポート

「WebエンジニアはIoTをどうあつかえば良いのか」レポート

2015年はIoT元年とも言われ、Webエンジニアもハードウェアとは無縁ではいられなくなってきています。しかし、IoTやハードウェアの含む範囲はビジネスからテクノロジーまで広いです。具体的にはどんな技術やムーブメントがあるのか? そして今まで縁がなかったのに仕事で使うようなことになった場合、どうすれば良いのか? 疑問は尽きません。

2015年1月29日に横浜・大さん橋ホールで開催された、Web開発者向けの大規模勉強会エンジニアサポート CROSS 2015⁠。WebエンジニアはIoTをどうあつかえば良いのか?と題したセッションでは、長くハードウェアベンチャーに関わってきた岩淵技術商事⁠株⁠岡島康憲氏をモデレーターとして、ヤフー⁠株⁠でIoTを担当している椎野孝弘氏、ウェアラブルデバイスとモーションデータ解析サービスを提供する⁠株⁠Moff高萩昭範氏が上記のテーマについてディスカッションを繰り広げました。

本稿では、このセッションの模様をレポートします。

会場の様子
会場の様子

IoTの定義とは?

登壇者それぞれの自己紹介の後、最初にIoTの定義についてのディスカッションが行われました。⁠モノのインターネット』と言うが、ネットワークにつなげばIoTなのか? サービスのモノ化ではないのか?」という岡島氏の問いに対して

「今ではIoTは抽象的な概念になっている。もうアメリカでは意味がない。実際にCESではIoTと言うのはほとんどない。分野に分かれ、やり方が違ってきている。具体的にやっていったほうが良いのでは?」

と高萩氏が答えると岡島氏も「IoTというのはタグ。僕も分野ごとに切り分けられているという感覚」と同意していました。

その後、椎野氏が「ソフトウェア文脈で考えると、Webとハードウェアと足すと新しい世界が出てくるのではないか? それがIoT。1足す1がAになる」と回答したのをきっかけに、話は昨年Googleに買収されたNest Labsに移って行きました。

「Nestはネットにつながることで、単なる遠隔操作でなく、たとえばそのデータを基にして先物市場に使えるのではないか、という話がでてきている。⁠岡島氏⁠⁠」

「Nestはパートナーシップを発表した。スマートロックのスタートアップが『我々がNestのパートナーシップに選ばれた』と誇らしげに語っていた。スマートホームはNestとSmartThingsの二強になるのではないか? アメリカではNestがかなり売れているし、イケている印になっている。アメリカはNestで決まりではないか?(高萩氏⁠⁠」

「Nestが発売されたときに入手して分解したら、他のデバイスとの連携を考慮した設計になっていた。明らかに最初からプラットホームを視野においている。⁠岡島氏⁠⁠」

岡島氏
岡島氏

「プラットホームは裏で立ち上がっている。たとえばAppleのHomekit。どうやって出し抜くか考えている状況。⁠椎野氏⁠⁠」

IoTと商品企画

定義に続いて、IoTという商品をどう企画するのかが議論されました。

「すごく賢いエアコンを作るとして、エアコンを全部作るのか? という問いがよくある。たとえばテスラは、既存の自動車に乗せるモーターのみを別売りするという道もあったが、実際には車1台全部まとめて作って売った」と岡島氏が問いかけると

「商品企画という点で言うと、ソフトを作るか、ハードを作るかという話がある。たとえばフォードやBMWは積極的にAPIを公開しているので、そこから始めるという選択肢がある。一方ハードは大変だが、端末の制約から解放されて自由になれる。2つの視点があって、デバイス1つあればアプリケーションを通じてなんでもできるようにする。もう1つは画面から外に出す。ゼロから発想するのは大変だが、こうすれば発想が拡大する。⁠高萩氏⁠⁠」

「売る戦略として、ソフトウェアを混ぜることでハードウェアに新しい展開が拓けるのではないか?(椎野氏⁠⁠」

とそれぞれの経験から答えました。

それに対して岡島氏が「本当にハードウェアでいいのか? スマホすごいじゃないか? ハードウェアで頑張っても、Appleがセンサー入れただけで飛ぶのではないか? それをプロトタイプしていて感じる」と返すと

「年末工場めぐりをした。技術はすごいがうれていない。ソフトウェアも手詰まり感がある。でも共同すれば新しいことができるのがないのかと感じたし、具体的に見えてきたのもあった。⁠椎野氏⁠⁠」

「ハードウェアありきはよくないし、安易に怖がる必要もない。サービスから発想し、スマホでは必要なデータが取れないと解ったらハードウェア。データが中心。データはこれから価値が出てくる。意味のあるデータを公開したものが勝つ。今年のCESでそれを実感した。⁠高萩氏⁠⁠」

とそれぞれの見通しを語りました。

IoTとエンジニアリング

続いてセッションの参加者にとっては本番とも言える、IoTとエンジニリアニングへと議題が移されました。

「データが重要なのは同意。ただ、たとえばMoffにはセンサーが入っているが、それは雑多なデータの塊。そこからどうやって適切なコンテキストを取り出すのか、それが重要なのではないか? それをどこでやるのかが大事ではないか?」と岡島氏が問いかけると、椎野氏が「今個人的にぶつかっている。モノが直接つながるべきなのか、それとも何か中間に挟むべきなのか? 設計上そこで悩んでいる」と答えました。

椎野氏
椎野氏

それを受けて高萩氏は「データは抽象的な話をすると良くない」と前置きしたうえで一例として「僕らは腕にはめたバンドで姿勢を推定しているが、では部屋の中の位置をどうやって推定するのか?」と問いかけました。

環境音や温度などの答えを受けたあと、回答として高萩氏が送風の最適化の為に最近人感センサーが装備され始めたエアコンを挙げて「家電はおもしろいデータがたくさんある」と述べると、それをきっかけに

「10円くらいのセンサーで視線や瞬きが取れる。安いデバイスでも色々とデータが取れておもしろい。⁠岡島氏⁠⁠」

「Webエンジニアはどうかかわっていけばいいのか? と考えると、Webのフロント面はまだまだこれからだという気がする。たとえば大規模データの処理などはこれから取り組むべきではないのか。⁠椎野氏⁠⁠」

「IoTにはおもしろい流れがある。今スマホやタブレット経由だが、5年後には直接ネットにつながるようになってスマホは要らなくなるのではないか? スマホ自体、人間が画面を経由せずに動いているのではないか。将来がどうなるのかわからなくておもしろい。⁠高萩氏⁠⁠」

「これから自動でユーザの要求を感じて動くのが主流になるのではないか? そうなると無数のデバイスが通信することになりHTTPは重すぎる。MQTTなどの軽量プロトコルにNode.jsのようなイベントループのサーバ、速度重視のNoSQLなどが主流になるのでは?(椎野氏⁠⁠」

「そうなると機器間連携が重要になるのではないか? 機器同士が話し合う中でどういう情報をやり取りすると良いのか? プロトコルはどうしたらいいのか?(岡島氏⁠⁠」

「IoTが具体化していく中で、セキュリティをどう担保するのか。SSLはヘビーで電力消費量が大きく、実証試験でもそこが問題になった。⁠椎野氏⁠⁠」

「ハードウェア自体の安全性もきちんとしなければいけないのではないか?(岡島氏⁠⁠」

と白熱した議論が展開されました。

IoTとビジネス

白熱したテクノロジーに関する議論の後は、ビジネスをどうしたら良いのかについて議論されました。世界で大きくビジネスするのか、尖った製品でニッチにビジネスするのか、という問いに対して

「ほとんどの人が儲けていないが、方法ハードウェアやソフトウェア、サービスなどいろいろな方法がある。たとえばCESで見つけたのが、バレーボール選手のジャンプ練習管理専用アプリ。プレイヤー単体では無料だが、チーム全体では有償にしていた。個別のデータに価値はないということがわかっている。

あるいはFitbit。ヘルスケアの活量計は沢山あるが絶えることはない。なぜならば社会保障コストの削減というビックビジネスが開けているから。保険料を下げるというビジネスを保険会社と組んでやろうとしている。その一歩前として、企業向けに健康管理プログラムを提供している。こんな風に、マネタイズの方法はいくらでもある。⁠高萩氏⁠⁠」

高萩氏
高萩氏

「儲かると言っても額によるのではないか? 規模が大きくなると、やはり大変。なので大きく考える必要がある。たとえば高速道路の広告を近くを通る車の中の人に合わせて変えるとか。⁠椎野氏⁠⁠」

とそれぞれの立場から回答していました。

IoT最初の一歩

そして最後の締めくくりとして、ハードウェア開発の「初めの一歩」にはどうしたら良いのかを登壇者それぞれがアドバイスしました。

「Arduinoとかで電子工作したり、mbedなどのプログラマブルマイコンやコミュニティ、ハードウェアコンテストなどもおもしろいのではないか?(岡島氏⁠⁠」

「やはりどんどん楽になっている。普通にLinuxが動き、なじみの言語が動くのでそこで試して見たほうが良いのでは?(椎野氏⁠⁠」

「メルセデスベンツなどが公開しているので車のデータを使ってみるとおもしろいのでは。また、Moff BandもAPIの公開を考えているし、APIを公開しているデバイスもある。Webでサービスを作るのとあまりかわらないから、それを実感してほしい。⁠高萩氏⁠⁠」

さらに高萩氏は最後のメッセージとして「IoTでもタイムマシン経営があるのは悔しい。せめてIoTの世界では、と言う思いがある。モノづくりは元々日本が得意な分野。世界を驚かせるようなものを作ってほしい」と語っていました。

WebエンジニアはIoTをどうあつかえば良いのか

セッションを通じて、IoTが本格的に展開する流れを第一線に立つプレイヤーの言葉から感じることができました。

セッションで語られているようにデバイスの利用が簡単になっている一方で、デバイスからそれがつながるWebの側へと注目が移りつつあります。Mozilla Foundationなどが進めるWoT(Web of Things)やGoogleの進めるThe Physical Webなどの流れもあるので、Webアプリとハードウェアの境界はこれからどんどん薄くなっていくのではないのでしょうか。

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