Webアクセシビリティに取り組む企業を、多くの人が「いい企業である」思うようになってほしい - 公開討論会“だれもが使えるウェブサイト”

2009年10月7日、毎日新聞社にて「公開討論会⁠だれもが使えるウェブサイト⁠⁠ ~企業サイトのアクセシビリティでビジネスチャンスをつかむ~」が開催された。

主催は、⁠みんなの声で選ぼう! だれもが使えるウェブコンクール」実行委員会とNPO法人ハーモニー・アイ。

Webアクセシビリティをテーマにした討論会

Webアクセシビリティは、福祉や社会貢献の視点で語られがちである。

しかし、企業がより積極的に取り組むためには、ビジネス視点でWebアクセシビリティを語る必要があるのではないか。

5名の登壇者が熱く議論を交わした。

パネリストは以下の通り。

モデレータ:
毎日新聞社ユニバーサロン編集長 岩下 恭士 氏
パネリスト:
(株)技術評論社 馮 富久 氏
(株)インプレスビジネスメディア Web担当者Forum 安田 英久 氏
(社)長寿社会文化協会 曽根 清次 氏
(株)DNP映像センター 山田 淳司 氏
左から、岩下氏、馮氏、安田氏、曽根氏、山田氏
左から、岩下氏、馮氏、安田氏、曽根氏、山田氏。

会場には50人ほどが来場し、パネリストの意見に耳を傾けた。また、twitterやUSTREAMを使用したWeb中継が行われた。Web中継にも50人ほどの視聴者が参加し、関心の深さがうかがわれた。また、twitterを通じて、活発に意見のやりとりがされていた。

高齢者・障害者はどのようにWebを利用しているか

  • 「障害者・高齢者が可哀相だから、あるいは、人権としてそういう人たちも使えるようにしなければしけない、という難しい話ではない」

モデレータの岩下氏が主旨をそう語った。

不況下でも、高齢者・障害者を含め、いろいろな利用者をうまく取り込んでいけばビジネスになる。この討論会は、そんな提案を目指していると語った。

高齢者はどのようにWebを利用しているのか? というテーマでは、長寿社会文化協会の曽根氏が語った。長寿社会文化協会が開催するパソコン教室の経験から、Webを覚えた高齢者は、若い人同様に、旅行をWebで調べたり、買い物をWebで「喜んでやっている」という。

生徒としてやってくる高齢者は2種類に分けられるという。ひとつは、どんどんのめり込んでいくパターン。もうひとつは、教えれば教えるほど、情報を提供するほど喜ぶパターン。この人たちは大きなマーケットになる可能性がある、と曽根氏は語る。

また、露骨に高齢者向けを謳った商品は、かえって反感を招き、売れづらい、という話も出た。。

DNP映像センターの山田氏からは、DVDなど映像コンテンツに字幕を入れることのメリットが語られた。字幕を入れることで、観ながら、聞きながら、と、複数の方法で情報を認識できるようになる。字幕は聴覚障害者だけでなく、その他の人々にも有用であるとのコメントがあった。

障害者のWeb利用というテーマでは「視覚障害者の買い物は、どうしているのか」という質問に、岩下氏が全盲の障害者という立場から、自身の具体的な事例を挙げた。自由に移動することが難しい障害者でも、Webを利用して事前に情報を得ることで、実際のお店でも買い物がしやすくなる、と語った。

  • 「たとえば、私はお酒が好きで――私が家の近所のワインショップに突然行っても、何があるのかわからない。どれがどれだかわからない。さらに、狭い店内で盲人がふらふら歩いていると、ぶつかって危ない。事前にお店のWebサイトで、どんな商品があるのかな、あるいは新製品情報などを見る。それから買い物に行く」

また、WebサイトのWebアクセシビリティを確保することで、視覚障害者など、より多くの顧客獲得ができるのではないか、という投げ掛けがなされた。

企業サイトのWebアクセシビリティでビジネスチャンスをつかむには

討論会の後半では、ビジネスチャンスという視点から、企業はどのようにWebアクセシビリティに取り組むべきか、議論が交わされた。

Web担当者Forumの安田氏は、⁠たとえば、スピーカー製造業の人が、アクセシビテリィだからと、まったく音が聞こえない人のための配慮をすべきか?」と問題提起した上で、自社の顧客が誰かはっきりさせるべき、その上で、顧客に視覚障害者が含まれるならアクセシビリティにも配慮すべきであると語った。

また、直接の売上に加え、顧客維持や企業のロイヤリティ向上も含めた全体のコスト低減になるのではないか、と語った。

「たとえば、あそこはしっかりやってくれている。視覚障害の人にも対応している。高齢者でよくわからない人にも使いやすくしてくれている、ということから、お客さんが新しいお客さんを呼んでくれたり、他社が使いづらいからそのネットショップを使う、というロイヤリティの向上になる」

技術評論社の馮氏は、企業でも、Webで情報を伝えるのであれば、その情報に誰でも到達できるように配慮するのが大切、とした上で、その具体的な方法として、多くの利用者の環境で情報が得られるよう、Flashや動画だけでなく「テキストデータを用意する」ことの大切さを強調した。

また、最近のWebサービスや動的なページが増えていることから、⁠パーマリンク⁠として、1つの情報に対して恒久的にアクセスできるURLを用意する大切さを語った。

  • 「Webサービスとか動的なものでは、一瞬で消えてしまう情報というのが増えている。きちんとパーマリンク(1つの情報に対して恒久的にアクセスできるURL)を用意して、未来永劫続いていく、ということが情報のアクセシブルにつながる」

馮氏は、企業がWebアクセシビリティに取り組むにあたり、効果が見えづらいため、予算が確保しづらいという問題も指摘。⁠アクセシブルにしたことで、新しいユーザを何人増えました、とか数字データを取る」ための設計が重要と語った。

また、安田氏からは、Webアクセシビリティに配慮することで、高齢者・障害者だけでなく他の人にも使いやすくなる、という意見も出された。

会場は満席になり、Webアクセシビリティへの関心の高さが伺えた。
会場は満席になり、Webアクセシビリティへの関心の高さが伺えた。

Webアクセシビリティに取り組む企業を、多くの人が「良い企業である」と思うようになってほしい

曽根氏から、Webアクセシビリティに取り組む企業を、多くの人が「良い企業である」と思うようになってほしい、という投げ掛けがされた。

シャンプーとリンスのボトル形状をわずかに違えることで、触ってわかるようにした例に挙げ、そういった配慮をする企業を「いい企業」だと多くの人が認識するように、Webアクセシビリティについても、積極的に取り組む企業を多くの人が評価するようになってほしい、と語った。

  • 「うちはこういうふうにやってるよ、と、ちゃんと表現してくれるとよい。今はそれにこだわらない人でも、ああ、この企業はそういうことに気を配ってやっているんだ、そういうことをやってくれる企業がいい、良い企業である。良い商品である、となっていく」

みんなの声で選ぼう!だれもが使えるウェブコンクール

この公開討論会は「みんなの声で選ぼう!だれもが使えるウェブコンクール」に先駆けて行われたもの。

「みんなの声で選ぼう!だれもが使えるウェブコンクール」は、高齢者や障害者をはじめ、多くの人々、多様な環境でも利用できるWebを表彰するコンクール。

公式サイトにて、10月後半より公募を開始する。

みんなの声で選ぼう だれもが使えるウェブコンクール 公式サイト
http://daremoga.jp/

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