北米のクラウド状況、日本の違い、クラウド促進への進む道筋とは~Cloud Computing Expo 2011 New York レポート

NYC発!クラウドビジネスの未来

2011年6月6日~9日の4日間、米国ニューヨーク州ニューヨーク市のJacob Javit Convention Centerで行われた「Cloud Computing Expo 2011 New York」⁠以下Cloud Expo)が開催されました。

Cloud Expoは、SYS-CONが毎年、米国ではニューヨーク(ニューヨーク州⁠⁠、シリコンバレー(カリフォルニア州⁠⁠、ヨーロッパではプラハ(チェコ共和国)で行われている世界規模のクラウドカンファレンスで、今回で9回目となります。同じアメリカ国内とはいえ、一般的に、ニューヨークで行われるCloud Expoはマーケティング部門からの参加が多いビジネス寄りの内容が多く、シリコンバレーで行われるCloud Expoは開発者部門向けの技術寄りの内容が多いと言われています。

実際に参加している人はスーツの人が多く、見るからに開発者という格好をしている人はあまりいませんでした。

Cloud Expo自体は入場に2,500USドルかかるのですが、期間中に行われるRightScale User Conferenceに登録すると、Cloud Expoの入場料が無料になります(Bootcampとランチは含まれていません⁠⁠。

名字の頭文字が書かれたブースへ行き名前を告げると、このような名札をもらえます。4日間使うのでなくさないようにします。
名字の頭文字が書かれたブースへ行き名前を告げると、このような名札をもらえます。4日間使うのでなくさないようにします。

今年のCloud Expoは、北米のクラウド業界の動向や、各企業の戦略、技術など多数セッションが行われました。4日間に行われた基調、一般講演に発表された内容をカテゴリ別に分けてお届けします。

異なる環境を統合するマルチクラウド管理ツールの盛り上がり

2日目の一般講演のマルチクラウド管理ツールAbiquoは、複数のハイパーバイザーをサポートし、あるハイパーバイザーから別のハイパーバイザーへの仮想マシンの移行をウェブから簡単にドラッグ&ドロップで行う事が出来ます。

また仮想データーセンターを複数のデーターセンター上に構築し、大事なデータはファイヤーウォールの中で、それ以外のクラウドのメリットを活かした自動オートスケールなどが可能な部分はパブリッククラウドに持っていく、というハイブリットクラウドの特徴的な使い方をサポートする商品の紹介がありました。

AbiquoのCEO Pete Malcolm氏によるセキュアなクラウド構築の可能性についての説明。
AbiquoのCEO Pete Malcolm氏によるセキュアなクラウド構築の可能性についての説明。

Abiquo以外にもCloudSwichとTerremarkが提携し提供しているサービス等、大手企業が提供するサービスの多くは、セキュリティやコンプライアンスが足かせになっている企業や、企業合併による異なったIT資産の統合をより容易にするツールなどが多くセッションで発表、ブースでの展示、紹介されていました。

ハイブリットクラウドへの流れ

クラウドが実用的に使われ始め、パブリッククラウド(AWSやRackspaceなど)とプライベートクラウド(Eucalyptus、OpenStack、CloudStack、VMwareなど)を使った具体的なITレガシーを抱えている企業からの事例が出始めた1~2年前からハイブリットクラウドという企業向けのアイデアが出てき始め、今回のCloud Expoでは商品やサービスの形として「ハイブリットクラウド」を売りに出している企業が多く見られました。

ハイブリッドクラウドへの流れ。
ハイブリッドクラウドへの流れ。

クラウド管理ツールを提供しているRightScaleと、IaaSを提供しているCloud.com(CloudStack⁠⁠、Eucalyptus Systems社(Eucalyptus)が提携し打ち出したmyCloudは、プライベートクラウドを簡単に構築し、Web UIであるmyCloudを使うことで、足りなくなったリソースをパブリッククラウドに広げていくことができる新しいハイブリットクラウド管理を発表しました。

米国でも関心が高まっているDRやHAを構築する事がより容易になったと感じるシステム管理者も多くRightScale社のHAとDRの構築方法に関するセッションの発表後のQ&Aでは参加者から質問が多くなされていました。

RightScale社のソリューション・アーキテクチャのBrian Adler氏のプライベートとパブリッククラウドを使った効果的なクラウド構築方法について。
RightScale社のソリューション・アーキテクチャのBrian Adler氏のプライベートとパブリッククラウドを使った効果的なクラウド構築方法について。
「DRとHAを望めば望むほどコスト的にも高くなるが、保険のような物で、発生しないことを願って保険をかけて、発生した時に安堵する物である」とRightScale社のBrian Adler氏。
「DRとHAを望めば望むほどコスト的にも高くなるが、保険のような物で、発生しないことを願って保険をかけて、発生した時に安堵する物である」とRightScale社のBrian Adler氏。

クラウド対応データセンター構築の標準化:Open Data Center Alliance

Dell、Intel, Terremark等が参加し2010年10月に始めたオープンなクラウド対応データセンター構築の標準化を進めるOpen Data Center Allianceの進捗の発表も行われました。

Open Data Center Allianceとは、オープンなクラウド対応データセンターの実現を目指す団体で、クラウド環境や次世代データセンターが必要とするハード、ソフトレベルでの互換性、柔軟性、標準化にフォーカスをし、賛同企業と共同でカタログ化で標準化と啓蒙活動を行う団体です。

冒頭に、なぜアライアンスを組んだのか、どのような企業が賛同しているのか、可能性についての動画を紹介した上で、現在の進捗と、実際に成果としてデータセンター構築時に採用された旨のリリースが行われました。

アライアンスを開始した昨年10月の時点では約70社でしたが、現在では約280社以上に増え、多くの企業がクラウド構築のための商品やサービスの標準化を行い標準化クラウド対応化した商品、サービスの提供を行っているそうです。

事例としてIntelが百度やFacebook、Terremarkに提供したクラウド対応し標準化されたのCPUは、コストカット、低電力消費、二酸化酸素の削減を達成することができたと説明していました。

既存資産はゆっくりとクラウドへ、新しいサービスはクラウドネイティブに

Cloud Expo開催中に平行して行われたRightScale User Conferenceの一角では、調査会社のForrester社からは北米のクラウド状況についての報告がありました。日本よりはクラウドへの移行が進んでいると思われがちな北米ですが、まだ企業内での既存資産をクラウド化することには抵抗があり、エンタープライズ向けの環境でプライベートクラウドを構築しているのは約6%程度しかないという発表もありました。

また、クラウド化の障害になっているのは、経営者の理解不足ではなく、社内システム管理者の理解不足だったり、⁠誰かがやってくれるだろう」という自意識の低さが問題であると指摘されていました。

“No Automation, No Cloud⁠と、自動化ができないクラウドはクラウドではないと警告し、Forrester社では、今後の既存資産のクラウド化は時間がかかると予想しており、まずは新しく開始するサービスや、新しい会社などからクラウドを使い始めて、既存企業は平行でクラウド化しつつも、現実的には資産減却が終わった後に移行を行うのはどうか、と提案していました。

米国らしいブースの設置

ブースエリアでは、約100社以上がブースをかまえ、商品説明や、商談を行っていました。

クラウド業界では後発のDellですが、気合いが入っているのが分かるブースの構え方で、積極的にDellのクラウドのポジションや関わり方などの説明を行っていました。
Dellbブースでは雲(!?)が浮かんでいました。
Dellbブースでは雲(!?)が浮かんでいました。

各ブースではバッヂのQRコードを読み込み、立ち寄った顧客が抱えている問題や質問に耳を傾け、ソリューション提案を行っていました。

Cloud Expoでしたが、クラウドに紐付けて色んな企業がブースを構えており、ガジェット系の展示から、iCloudを発表したばかりのAppleのようにクラウド構築が出来る人材採用をしているブースもありました。

名刺がなくてもQRコードで出展社は立ち寄った顧客情報を得ることができます。
名刺がなくてもQRコードで出展社は立ち寄った顧客情報を得ることができます。

ガジェット系ブースではEgg Plugが見た目から参加者の目を引きつけており、データを自宅サーバーに保存でき、バックアップをクラウドベースのEggRackに持っていく事が出来る玉子型のサーバの展示をしていました。

クラウドへ自動バックアップを行ってくれる自宅サーバーEgg Plug。
クラウドへ自動バックアップを行ってくれる自宅サーバーEgg Plug。

セッションの間に開催されたコーヒーブレイクや、アフタヌーンブレイクでは、ベーグル、ドーナッツやデニッシュなどの提供があり、多くの参加者がデニッシュ片手にブースで商品説明を受けていました。

Sys-conおなじみのインタービューコーナー。
Sys-conおなじみのインタービューコーナー。
Facebookを始め、日本でも大手ソーシャルメディア企業の利用が増加しているFusion I-Oの展示。
Facebookを始め、日本でも大手ソーシャルメディア企業の利用が増加しているFusion I-Oの展示。
コーヒーとベーグル、マフィンはExpoには欠かせません。
コーヒーとベーグル、マフィンはExpoには欠かせません。

次回のCloud Expo

Cloud Expo 2011 NYCは、今回から1日増え、4日間の開催になり北米でもクラウド業界に関心と注目が集まっていることが実感できる期間でした。

北米やヨーロッパのクラウド状況を知る事で、今クラウドの進んでいる方向や、日本との違い、日本でのクラウド展開のアイディアを得る事が出来る貴重な場所ではないでしょうか。

次回のCloud Expoはシリコンバレーで開催される予定(2011年11月7~10日)で、日本から近いこともあり多くのクラウド業界関係者が参加すると思われます。新しい出会いと、クラウドの流れを感じることができるCloud Expoに参加されてはいかがでしょうか。

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