レポート

どうなる? どうする!? 日本の電子出版─「eBP Meetup 2011~電子出版2年目の課題と3年目への展望」レポート

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10月25日,東京,品川のコクヨホールにて,「電子書籍を考える出版社の会」(eBP)主催によるイベント「eBP Meetup 2011~電子出版2年目の課題と3年目への展望」が開催された。

eBPは,電子書籍についての意見交換や情報共有を目的とした専門書・実用書出版社が中心の任意団体。2010年に設立され,現在では50社を超える会員企業が参加している。同団体初のイベントとなる「eBP Meetup 2011」は,Meetupという名前のとおり,出版社だけではなく電子出版に関わる代表的なプレーヤーを招き意見交換する中で,日本の電子出版の現状と未来を来場者に感じ取ってもらおうという趣旨で開催された。

満員となった会場の模様。募集人数の2倍の応募があったという。

満員となった会場の模様。募集人数の2倍の応募があったという。

オープニングの挨拶に立ったeBP代表幹事の滝口直樹氏(マイナビ)。「何度も『電子書籍元年』と呼ばれた年があったが,今年初めての『2年目』を迎えたと言える」と,今あらためて電子出版を振り返る意義について語った。

オープニングの挨拶に立ったeBP代表幹事の滝口直樹氏(マイナビ)。

ビジネスセッション「電子出版は本当に儲かるのか ~2年目の真摯な検証~」

イベント前半は電子出版の流通やプラットフォームに携わるメンバーを集め,厳しい状況が続くビジネスとしての電子出版にスポットをあてたディスカッションが行われた。

パネリストは佐藤陽一氏(グーグル),星野渉氏(文化通信社),小城武彦氏(トゥ・デファクト),宇田川信生氏(紀伊國屋書店),高橋考氏(三和書籍),出町浩一郎氏(マイナビ)の6名。オープニングに続いて滝口氏もモデレータとして登壇した。

マイナビ 出町浩一郎氏

マイナビ 出町浩一郎氏。同社で電子書籍事業を担当,雑誌「MacFan」の電子版やiPhone,iPadの利用法,そして将棋の駒がタップで動くアプリを搭載した将棋雑誌がヒット中という。

三和書籍 高橋考氏

三和書籍 代表取締役 高橋考氏。電子書籍販売サイト「ブックパブ」を設立し,専門書中心に販売中。にオンデマンド印刷との連携にも注目している。

グーグル 佐藤陽一氏

グーグル 佐藤陽一氏。同社でGoogleブックスやGoogleエディションの日本での展開を統括する。「書籍を販売する手前の情報を検索で提供していきたい」。日本でのサービス開始については「最近の新聞報道は否定しない(笑)」とのこと。

紀伊國屋書店 宇田川信生氏

紀伊國屋書店 宇田川信生氏。電子書籍サービス「BookWebPlus」を準備段階から担当。iPhone,Android向け電子書籍アプリKinoppyは10万以上ダウンロードされている。今後もクラウドベースでマルチデバイスに対応していくという。

トゥ・デファクト/CHIグループ 小城武彦氏

トゥ・デファクト/CHIグループ 代表取締役社長 小城武彦氏。電子書籍販売サイトhontoを運営。「紙,電子のどちらか」ではなく両方を合わせてどう利益を出していくかが重要という。

文化通信社 星野渉氏

文化通信社 星野渉氏。電子出版や出版流通の現場を数多く取材してきた。現在の日本の電子書籍の状況は,2000年にAmazonが日本に進出してくる直前(Amazon前夜)に似ているという。

パネリスト紹介の後,最初に現状の電子出版市場についての数字が示された。2010年度の電子書籍市場規模は約800億円くらい。これが2013年度には1200億に達すると予測されている。しかし内訳を見るとケータイ向けのコミックや文芸書が中心で,実用書,専門書はほとんど売れていない。

この現状に対し,星野氏は「今後はマーケットが広がる」と見つつも,米国ではジャンルを問わず電子書籍が出版されている状況を引き合いに,日本では新刊をどんどん投入する形になっていないと指摘。「ドイツでは新刊が年100冊くらいの出版社でも新刊のうち80%を電子化している。それでも全体では電子化率1%くらいにしかならない」(星野氏)

また佐藤氏は米国の数字が文芸書の版元団体が中心となった限定的な数字であることを補足した。「数字の出ていないところを合わせると,電子書籍の数はおそらく数倍になる」(佐藤氏)

では日本で,とくに専門書の新刊がなかなか電子化されないのはなぜか? やはり現状の費用対効果の悪さ,それにより点数が増えないことが問題とパネリストの意見は一致した。出町氏は売れる書籍に偏りがある点を挙げ「電子雑誌やiPad,iPhoneに親和性の高いもの,将棋の駒を動かせるような特殊なものは売れるが,普通のコンピュータ書籍や女性向けの書籍は紙の方が売れている」と,一般的な書籍が電子化しても売れない現状を指摘した。

これについて高橋氏は,現状では個々の電子書籍やそのインフラへの投資は最低限のコストで抑えて,そのぶん点数を増やしていくことが電子書籍の普及に重要ではないかと提案した。出版社を悩ませている「自炊」の問題についても,電子書籍の数が増えていくことで自然に解決すると思われる。

電子書籍ならではの機能をもったリッチなコンテンツでアピールできるのでは,という意見については,実際に作った経験のあるパネリストから,一点制作の手間とコストを懸念する声も聞かれた。小城氏はコミックや文芸の電子書籍が売れている要因として,読む際に前のページに戻る率が低い点を指摘。同氏はこれを「フロー型の読書」と呼び,こうした読み方に適した書籍しか売れない状況も,技術の進化や,紙と組み合わせて販売することで解決可能と考えている。「一度紙で通しで読んだ後,検索して読み返すのは電子」(小城氏)。今後はこうした柔軟な展開も必要だろう。

佐藤氏は,リッチな機能が目的となってしまう危険性を指摘。「これから出す企画にリッチなものを付けるのはいいが,これまでの書籍を電子化するためにリッチなものを付けるのはどうか? たとえば書籍の中でいきなりビデオが出てきても嬉しくはない」(佐藤氏)。数を増やす意味でも,てっとり早く電子化できるものに手を付けるべきと説いた。

また,点数に加えて電子ではプロモーションがより重要となる点を滝口氏が指摘すると,各パネリストも賛同の声を上げた。佐藤氏は「電子書店は『間口は狭いのに奥行きは数百メートルあるように見える』とよく言われる」と語り,通りを歩く人がリアル書店の店頭を目にして寄ってくれるように,検索結果で書籍という選択肢を見せるのはGoogleが得意,こうしたネットの特性を活かしたプロモーションが必要となると指摘した。

一方宇田川氏は,ネットに加えてリアル書店でも電子書籍をプロモートできる可能性を挙げた。「たとえば店頭に来ないとダウンロードできないコンテンツを出版社と開拓したい」(宇田川氏)。ネット書店の間口の狭さ,奥行きの深さについても,Kinoppyが注目されているうちに,ネット書店の奥の深さをアピールする方法を考えたいと語った。

この後,リアル書店の話題として,星野氏が日本の書店数の変化について解説した。この10年で書店数は2万店から14000店に減り,中でも個人経営の店の閉店が多いという。逆にチェーン店は新規開店が多く,集中化が進んでいるという。「海外と比べて,日本ほど書店に人が入る国はない。書店で電子コンテンツやプリントオンデマンド(POD)の展開は検討すべき」(星野氏)。

宇田川氏もこれを承け,音楽がダウンロード主体になってから,コアなユーザはライブハウスなどの「リアル」に回帰しつつある例を挙げて,書籍についても1回読めばおしまいのコンテンツとそうでないものに分けて戦略を考えると,書店でのプロモーションが展開できるのではないかと語った。

まとめとして,電子書籍で利益を出すための方策を各パネリストが提案した。

出町氏は,「電子書籍になって便利にならないと意味がない」として,各電子書店やビューワの互換性の無さを指摘。電子書店同士で共有できるものはは共有しつつ,見せ方や検索の仕方を工夫し,紙の本に興味のなかった人も手に取るようにしたいと結んだ。

高橋氏は,電子書籍の読者層として,新しいものに飛びつく若い人よりも高齢者が意外に多かったことを挙げ,紙の書籍とは違う体験をさせることで,出版の多様性をより広げていくことが重要と語った。

佐藤氏は,新しい技術,プラットフォームの登場で,これまでの出版社ではないところが出てくる可能性を示唆。「出版社が今までの蓄積を生かせる期間はもうそんなに長くない。動くなら早めに。蓄積は今のところは非常に大きなアドバンテージ」と出版社にエールを送った。

宇田川氏は,電子化により絶版がなくなり,マネタイズの機会が増える点に注目し,「書店でも,電子書籍の数が増えないことには機会も増えない」と発行点数の重要性を強調した。

小城氏もタイミングが重要と考えており,「今が出版社,小売りが知恵を出し合う正念場」と業界が一丸となって電子書籍を推進すべきと語った。

星野氏はAmazonの動きが大きなインパクトになると指摘,電子書籍の流通が爆発的に増えるはずなので,乗り遅れないように日本の出版社自らイノベーションを起こすべきとした。

これらをまとめて,滝口氏が「今まで紙の本を読んでもらえなかった人,場所,機会に電子ならではの可能性を見いだしたい」と結び,前半のビジネスセッションは終わった。

著者プロフィール

小坂浩史

gihyo.jp編集部 所属。最近では電子書籍の制作にも関わる。

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