レポート

どうなる? どうする!? 日本の電子出版─「eBP Meetup 2011~電子出版2年目の課題と3年目への展望」レポート

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テクニカルセッション「当事者が語る,“実用書”電子コンテンツの作り方・増やし方~執筆者・制作者・出版社・ツールベンダ,それぞれの思惑とこれから~」

後半は,実際に電子書籍制作に携わるメンバーを中心に,制作面での課題についてトークが展開された。パネリストは吉田健吾氏(paperboy&co.⁠⁠,沢辺均氏(ポット出版⁠⁠,舘崎実載氏(暁印刷⁠⁠,梅屋文彦氏(ソフトバンク・クリエイティブ⁠⁠,岩本崇氏(アドビ システムズ⁠⁠,丸田敏晴氏(ビーワークス⁠⁠,こもりまさあき氏(Webデザイナー,テクニカルライター)の7名。モデレータは技術評論社の馮富久が務めた。

paperbo

paperboy&co. 吉田健吾氏。誰でも電子書籍を作成して販売できるサービス「パブー」やブックレビューコミュニティサービス「ブクログ」を展開。素人も(プロも)売り手になるサービスなのでコスト的な割り切りが必要だったという。

ポット出版 沢辺均氏

ポット出版 代表取締役 沢辺均氏。2010年初頭より新刊書を紙と.book形式の電子書籍として販売。⁠ジュンク堂並みの品揃えを電子書籍で実現させる」ことを目指して「出版デジタル機構」参加社を募っている。

暁印刷 舘崎実載氏

暁印刷 舘崎実載氏。同社にて電子書籍事業に携わる。DTPデータからデジタルコンテンツへの変換などを数多く手がけている。

ソフトバンク・クリエイティブ 梅屋文彦氏

ソフトバンク・クリエイティブ 梅屋文彦氏。同社のコンテンツ開発室で電子書籍などの契約,版権管理を担当。eBPにおいて契約,権利分科会の幹事を務める。

アドビ システムズ 岩本崇氏

アドビ システムズ 岩本崇氏。DTPツールからデジタルパブリッシング全般を担当。Webや電子出版についても市場開拓を目指している。

ビーワークス 丸田敏晴氏

ビーワークス 丸田敏晴氏。iPad向け電子書籍リーダーPixyViewerを開発。ソフトバンク・クリエイティブの電子書籍などに採用されている。

Webデザイナー こもりまさあき氏

こもりまさあき氏 。DTPからWebデザイナーとして活躍し,さまざまなサイト制作に従事。XHTML+CSSの制作経験から電子書籍にも造詣が深い。

技術評論社 馮富久

技術評論社 馮富久。 技術評論社にて電子書籍販売サイト「Gihyo Digital Publishing」を立ち上げ,同社の電子書籍事業の拡大を目指す。eBPの事務局長を務める。

まず最初の小テーマとして,電子コンテンツをどのように増やしていけばいいかについて意見が出された。電子化の元データとして,紙の本から作るという方法がまず頭に浮かぶ人も多いだろう。この場合の問題点について,沢辺氏は,電子化を考慮されていないDTPデータからの制作の非効率さを断じた。

Quarkなどの古いデータを現在の環境で変換するのは骨が折れる上,データ管理を印刷会社にまかせているケースもあり,データの所属権も足かせになってしまう。⁠自炊業者は1冊200円でどんどんデータにしていくのに勝てるわけがない」⁠古い書籍についてはスキャンしてOCR認識させるほうがよほど効率的,リフローがどうこうよりも数を揃えるのが先では?」⁠沢辺氏⁠⁠。

これに関連して梅屋氏は,比較的新しいInDesignで制作された書籍をタグテキスト化して電子書籍に変換する場合も問題があるとし,実際にInDesignから.book形式にするために「7校,8校までかかり,校正だけで3人くらい必要になる」と衝撃の事実を発表。場内にどよめきが走った。

実際,印刷のみを考えたDTPデータを単純に電子化すると,ルビ,行,段落が抜けるといった細かい修正が必要となる。⁠電子化を考えるならDTP組版の段階で意識する必要がある」⁠梅屋氏⁠⁠。

この点についてモデレータの馮氏は,出版社がそこまで面倒を見る必要があるのかと疑問を提示した。⁠電子で読めるようにしろ』と指示するだけで良いのでは?」と制作フローで考える意見を出すと,沢辺氏は「まったく逆,むしろ出版社が制作現場からどんどん離れているために起こる」と真っ向から否定する形になった。馮氏は「知識としては必要。ただ,直接手を出すべきではない」と,あくまで体制による解決を提案した。

ここで,DTPデータを作っているツールベンダとして岩本氏が「ここで話を振られるのはつらい(笑⁠⁠」としながらも,InDesignがこれまで紙印刷しか想定していないツールであることを認めつつ,電子書籍向けの環境も急速に整えていると指摘。ADPS(Adobe Digital Publishing Suite)の機能など,⁠アプリをもう一度見直してもらいたい」と語った。

合わせて,アプリを使う人間の能力や興味の持ち方にも左右される点で,複数のパネリストが同意した。沢辺氏は,それでもアプリケーションで補える点があると,今後の進化に期待する一方,馮氏は編集者が「どういうスタイルで読ませるか」を決めることが重要と説き,岩本氏もソフトベンダとして同意した。梅屋氏も,ツールをより活用していきたいとしつつ,組版の標準化の難しさも指摘した。

次に電子化に伴う課題にテーマが移った。電子書籍のDRM(Digital Rights Management)について吉田氏は,コストの問題もあって同社の電子書籍サービス「パブー」ではDRMをかけていない。さらにDRMのプラットフォーム自体が継続する信頼性がないと,最悪「書店がなくなったら読めなくなる」⁠吉田氏⁠⁠。それだけは避けたいという思いもある。

また沢辺氏は,複数のプラットフォームが別々に書籍を出す状況を指摘。⁠蔵書リストがあれば管理できるかも知れないが,この本はiBook,この本はkindle,さらにiPhoneはアプリもある。紙の本はどこで買っても同じ本棚に入れられる。電子もその環境にしたい」と述べ,その最大のネックとなるのもDRMだと語った。⁠クラウド上でコントロールするなど違うアプローチもあるはず。今は普及が最大の課題なので黙っているが,将来的には対応が必要」⁠沢辺氏⁠⁠。

次に馮氏はデバイスの違いによる画面サイズ(画角)の違いをどう処理するかを訪ねたところ,各パネリストからは(だいたい)iPad相当とスマートフォン相当の2種類を用意すれば良いのではないか,との意見が多く上がった。⁠作り手としては画角の違いで作り直すのはコスト的に無理。最初のサイズをどこに持って行くかが課題」⁠丸田氏⁠⁠。

さらに,そもそもスマートフォンサイズで快適に読書できる表現が可能かという問いには,丸田氏が課題であることを認め,研究する必要があるとした。こもり氏はWebでも同じ問題があるとして,まだ結論が出ていないと同意した。

続くテーマは電子オリジナルコンテンツについて。

岩本氏は,AdobeがワールドワイドでEPUBとADPS化を進めていることを挙げ,今後は見た目の目を引く機能より「どう読まれるか」という文脈を考えたコンテンツ作りを提案していきたいと述べた。

また吉田氏は「ブクログ」「パブ-」での経験から,紙の本のコアユーザと電子書籍ユーザがはっきり分かれている点を挙げ,電子向きなのは若者よりもむしろ高齢者という印象を語った。⁠以前からある自費出版需要がシフトしているのか,高齢者の子ども時代から今に至る写真集など,想定と違う層に刺さっている。あるいは想定している層に届いていないのかもしれない」⁠吉田氏)

また,電子コンテンツとWebコンテンツの棲み分けについては,吉田氏は「体裁としてはWeb版もブログと変わらない。重要なのはGoogleなどの検索にかかる点」と指摘。梅屋氏は,Appleなどの電子書店ベンダによって売り上げが左右され,販路を変えざるを得ないというデメリットを指摘。AmazonやGoogleなどの新しいプラットフォームに期待していると語った。

さらに,とくにIT系やネット系の書籍などで,著者によるプロモートが売り上げを大きく変える点にもパネリストの意見が集まった。

最後に,電子出版3年目にあたる来年に向けての提言を一言ずつ述べ,ディスカッションを締めた。。

吉田氏「電子書籍は『本がインターネット化すること』インタラクティブな新しいこと,紙でできなかったことをやっていきたい⁠⁠。

沢辺氏「電子書籍でジュンク堂並みの品揃えを! みんなで夢を実現しましょう。ポット出版だけでなく中堅,大手を並べないと⁠ジュンク堂⁠にならない。小さな一歩からさまざまな可能性が開けると思う⁠⁠。

館崎氏「OCRでタグ付けテキストからフォーマットつくるための方法をいろいろ広げて行きたい。たとえばスマートフォンカメラやGPSで,読み手が反応を返すことができる機能を生かしたオリジナルコンテンツなど,新しい取り組みがほしい。今まで作っていたものをなぞるだけではなく,新しい土壌ができつつある⁠⁠。

梅屋氏「会社として電子化をどんどん進めていきたい。年間400タイトルを目指す。ソフトバンク新書(月4~6冊刊行)などは全て電子化の予定。制作のコストが下がってきているので,会社として許せる限り進めたい⁠⁠。

岩本氏「InDesign 5.5でEPUB,ADPSに対応しているので,この機能の拡充につとめる。デジタル出版はサービス,パッケージではない。そのため,ユーザニーズやデバイスに対応する,アップデートではない迅速な対応を考えたい。DTPのスキルセットで使える電子書籍制作ツールを目指す⁠⁠。

丸田氏「まだまだ手探りの状態で成熟には時間が必要。売れない状況にへこむこともあるが,とにかく前進したい。みなさんと電子出版を育てていきたい⁠⁠。

こもり氏「現状のフォーマットは多様だが『本がインターネット化する』というのは当たっていると思う。EPUBなども,この先HTMLなどWebの方向にシフトしていく気がしている。スキルセットとしてはツールが発達すると思うが,Web制作のテクニックが最後には必要となるはず。出版社もウェブに歩み寄って欲しい。それでやり方が見えてくる⁠⁠。

馮氏「今後もこのような場で議論することで,電子出版自体を盛り上げていきたい⁠⁠。

会場の脇には参加各社による電子書籍事業関連の展示ブースも設けられ,来場者の興味を引いていた。

会場の脇には参加各社による電子書籍事業関連の展示ブースも設けられ,来場者の興味を引いていた。

電子書籍を考える出版社の会
URL:http://ebookpub.jp/

著者プロフィール

小坂浩史

gihyo.jp編集部 所属。最近では電子書籍の制作にも関わる。