コンピュータの未来、エンジニアとしての働き方は「第2回 エンジニアの未来サミット for students 2011」レポート

11月19日、サイボウズ東京本社にて、技術評論社×サイボウズ共催、日本マイクロソフト協賛によるイベント「エンジニアの未来サミット for students 2011」の2回目が開催されました。

このイベントは、技術評論社主催で行われたエンジニアの未来サミットの意志を継ぎ、これから社会に出ようとする学生の皆さんに身につけてほしいスキル、心構えから、今後の日本社会をどう乗り切っていくべきかまで、幅広い話題に業界の著名人が答えるというもの。この形での開催は昨年から行われており、今年もこれから年末にかけて全3回開催されます。

第2回となる今回は、アルファブロガーとして、また、⁠WEB+DB PRESS』『Software Design』での連載、小飼弾のアルファギークに逢ってきたの著者としても有名な小飼弾氏を特別ゲストに迎え、さらにマイクロソフトからアカデミックエバンジェリストの渡辺弘之氏、サイボウズ代表取締役社長青野慶久氏、サイボウズ・ラボ竹迫良範氏が加わり、モデレータに技術評論社の馮富久を交えて熱いトークが展開されました。

コンピュータの未来はどうなる?

第一部は「コンピュータの未来」と題し、渡辺氏からコンピュータの歴史を振り返りながら、今後のコンピュータ世界の展望についてプレゼンテーションが行われました。現在、多くのユーザがコンピュータや携帯電話などが使えるようになっていますが、その中心的役割を果たしたものにWindowsの存在が挙げられます。

日本マイクロソフト、アカデミックエバンジェリストの渡辺弘之氏
日本マイクロソフト、アカデミックエバンジェリストの渡辺弘之氏

渡辺氏は、⁠1975年から振り返りたいと思います.というのも、Microsoftが設立したのがこの年だからです」と、同社の設立について紹介しました。Microsoftの出発点となるメッセージが「すべての机に家庭にコンピュータを(A computer on every desk and in every home⁠⁠」とのことで、まさにそれを体現したのが、20年後のWindows 95の登場といえるでしょう。

こういった背景の解説から、組込み分野の進化、データセンターを利用したインターネット化といった技術進化が進んでいくことに触れ、現在、Microsoftは「3スクリーン+クラウド」と呼ばれる世界を目指しているとのこと。これは、3つのスクリーンとして、

  • PC(デスクトップ)
  • モバイル(スマートフォン)
  • 専用端末(ゲーム機など)

があり、クラウドを通じてデータを共有しながら、それぞれのスクリーンの上で、より自然なユーザインターフェースを提供するという考え方。まさに、各ジャンルともMicrosoftが注力している分野と言えますし、今後の展開が気になります。

渡辺氏は「これはMicrosoftとしての取り組みではありますが、特定のソフトウェアや技術ではなく、ユーザに対して何を提供していくか、それを考えることがエンジニアとして求められていくでしょう」と、これからエンジニアを目指す学生に向けて熱いメッセージを残しました。

最後に「コンピュータの未来」への期待を込めて、同社が作成したイメージビデオ「Productivity Future Vision (2011)」を上映し、プレゼンテーションを締めくくりました。

企業の協業って?~第一部パネルディスカッションから

プレゼンテーション後、サイボウズ青野氏、モデレータ馮を含めたパネルディスカッションが行われました。今回は、来場者からの質問を受けながら、パネリストが回答していくというスタイル。

第一部パネルディスカッション。右から青野氏、渡辺氏、
第一部パネルディスカッション。右から青野氏、渡辺氏、馮

会場からは「Microsoftとサイボウズの協業の最初のきっかけってなんですか?」という質問や、⁠日本は組込み業界が強いと言われていますが、具体的に何が強いんですか?」というような疑問など、多岐にわたった内容が寄せられました。

1つめの協業に関して、青野氏は、契約の問題上お答えできない部分がありますが、という前提の上で「日本マイクロソフトの代表執行役樋口さんと私が同じ大学学部の先輩後輩というつながりがあり、ふとしたときにお会いする機会があったのが最初のきっかけでした。それまで、両社の接点というのはほとんどなかったことを考えると、こういった人間的なつながり、ウェットな部分というのは、実はビジネスで重要なポイントになります」と、ビジネス的なゴールはもちろんのこと、そのスタートのきっかけには人のつながりといった面も大切であるとされました。

次の組込みに関する質問に関して、渡辺氏は「プレゼンでも話したように、今、日本のメーカ各社が提供する専用端末(例:カーナビ)には、Windows Embeddedを搭載しているものが多くあります。こうしたモノを組み合わせていくという考え方、作り方は日本のメーカが非常に強いと思います。ただ、現在は世界的な不況、そして日本自体の経済不況などから、組込みジャンルのリーダーが他のアジア地域などに移っているという印象です」と述べました。また、青野氏は「組込みというと、今、渡辺さんがおっしゃったような、小型のハードウェアに対して組込む技術をイメージするかもしれませんが、実は、世の中で注目されているクラウドは、まさに組込みと同じ考え方なのです.それは、サーバ側、クライアント側、それぞれのハードウェアへの実装、その組み合わせを行っていくというのは、組込み技術の考え方と同じなのです」と、クラウド=組込みという独自の理論を展開しながら、⁠これは言い換えれば、日本という国がこれからまたリーダーシップを取っていく流れになっているわけです。そこでのエンジニアの存在がますます重要になっていきます」と、未来のエンジニアたちに熱いメッセージを述べました。

最後にモデレータの馮から「クラウドの話を含め、これからのエンジニアリングは、技術力の追求とともに、それを使い何をするのか、どういう価値を提供するのか、そこまで考えていくことが必要であり、その能力を持つことが一歩先ゆくエンジニアになれるでしょう」とまとめられ、第一部の幕が閉じました。

第二部スピーカー小飼氏からも質問が。⁠なんで製品名すべてにWindowsが付くの?」という質問も
第二部スピーカー小飼氏からも質問が。「なんで製品名すべてにWindowsが付くの?」という質問も

Getting Your Job Done!

第二部は、今回の特別ゲスト小飼弾氏、そして、竹迫氏の2名による、⁠Getting Your Job Done!」というテーマのトークセッションからスタートしました。

第二部は小飼氏(右)と竹迫氏(左)によるトークセッションから。今回の内容は、今年のYAPC::Asia Tokyoの内容をアップデートしたもの
第二部は小飼氏(右)と竹迫氏(左)によるトークセッションから。今回の内容は、今年のYAPC::Asia Tokyoの内容をアップデートしたもの

まず、小飼氏自身の経歴紹介から話がスタートしました。竹迫さんから「履歴上は中卒になるんですね」という問いかけがあり、小飼氏は「日本での学歴というとそうなりますね。そのあと、バークレー校に入って、仕事はいろいろやりましたよ。ITじゃない(通常の)土方もやっていますし(笑⁠⁠」と、自身の豊富な経験について語りました。その後、堀江貴文氏からオン・ザ・エッジ(その後のライブドア)に誘われ、ネットワークエンジニアとしてCTOになったこと、Perlというのは「実はプログラミングをしたい人のための言語と言うよりは、何かを早く解決したいと思っている人に向いている言語」という経緯や自身が得意なPerlに関する説明が行われました。他、その後のライブドアの動きについて竹迫氏から補足説明が行われながら、前段が終わりました。

続いて、本題である「Getting Your Job Done!」へと話が移ります。

小飼氏はいきなり「Job(仕事)って書くといやいややらされている感がありますね」と前置きした上で、実は働いたら負け(やったら負けなのがJob)である、という持論を展開しました。さらに、それを補足する上で、聖書のヨブ記(Book of Job)などを紹介するなど、独特のストーリー展開により、来場した学生の興味を強く惹いているのが印象的でした。

さらに、⁠Book of Job」から今話題の書籍「Book of Jobs」⁠公式伝記『スティーブ・ジョブズ⁠⁠)へシフトして、Steve Jobsの話を紹介しました。小飼氏はiPhoneやiTunesといった製品で「Appleがなぜ世界一になれたのか」という視点からスタンフォード大学での卒業式スピーチの話題に触れ、その中に出てきた「Connecting the dots」の話題を引用しました。

小飼氏によれば「技術というのは点と同じことでそれだけでは何も生み出せなく、この点をつなぐという行為こそ、まさにエンジニアリングにも通ずる」ということです。1つ1つをどのように組み合わせて形にするか、それを体現し、成功につなげたのがAppleであり、Jobsなわけです。

「仕事は選ぶものではない」⁠本当に役に立つか否かは役立ってみないとわからない」など、独自の視点で、働き方について説明をした
「仕事は選ぶものではない」「本当に役に立つか否かは役立ってみないとわからない」など、独自の視点で、働き方について説明をした

続いて、自著の『決弾』の中から、ベンチャーと上場企業の比較を取り上げ、⁠楽をしたかったら一流企業、仕事ができようになりたかったらベンチャー企業に行きましょう」というメッセージを投げかけました。さらに「一流企業というのは、社員の中に一流じゃない人がいても一流の成果を挙げられる企業」というコメントがあり、参加した学生の多くに参考になるコメントを残しつつ、プレゼンテーションを終えました。

良い悪いをはっきり言うこと、それがリテラシー

最後はこれまでの登壇者全員によるパネルディスカッションおよび質疑応答の時間となりました。

登壇者全員によるパネルディスカッションおよび質疑応答の時間
登壇者全員によるパネルディスカッションおよび質疑応答の時間

会場から「プログラム言語の学びについて、どこまで学ぶか、どのぐらい学ぶかについて教えてください」という質問が上がると、まず小飼氏が「そもそも学ぶのは必要に迫られてからやるもの。決めて学ぶものではない」という、一刀両断の回答からスタートしました。ただ、これは裏を返すと「なぜ学ぶのか?なんのために学ぶのか?そこが重要」というメッセージでもあります。この質問に対し、青野氏は「自分はBASICやアセンブラ時代からプログラムをやっていて、なぜやっていたかというと、ゲームを作りたかったから」という、自身の動機の重要性を挙げました。このように、プログラムを学ぶということに対して、もちろん自身の興味が重要である一方で、なぜ学ぶのかというところまで考えることの重要性が伝わる回答が多く聞かれました。

また、⁠就職の際、学歴不問と言われるが実際はどうなのか?」という質問に対しては、⁠学歴を見るのは採用側の仕事を楽にするため」⁠小飼氏⁠⁠、⁠学歴以外を評価してもらう手段として、インターンを経験することも良い」⁠渡辺氏)といった回答が上がりました。また、たとえばGitHubにコードを公開していたり、ブログを書いているのであれば、それこそが学歴以外の特異性で、就職の強みになるという意見も上がりました。

次に「今、多くのビジネスでインターネットやITが利用されている中、たとえば、今年のはじめにあったグルーポン問題のように、リテラシーが問われる事件が起きています。この点についてはどう思いますか?」という質問に対し、モデレータの馮から「Microsoftでは教育などにITに関して取り組まれたりしていますがどのように思いますか?」と補足質問をすると、⁠世界と比べて、まだ日本のIT浸透率は低いので、これからもっと高めていくことで、ユーザのリテラシーも上がっていくと思います。そのために、ベンダ側からの積極的な働きかけもしなければなりません」⁠渡辺氏)と、日本の現状に関して、さらなるIT導入の必要性を訴えました。

ここで小飼氏は「そもそもユーザにリテラシーを求めてはいけない。リテラシーが必要なのは、ユーザではなくてベンダ側」というコメントをし、さらに「ユーザ自身が糞には糞(ダメなものにはだダメ)とはっきり言わない限り何も変わらない」と、提供者側に意見を伝える重要性を述べました。この例えについては、⁠結局、きちんと言えることがoccupation(職業)になり、はっきり言わないことがjob(仕事)になってしまう」と、働き方に通ずるメッセージも加えました。

最後は「最近、日本の農家の大規模化が進んでいる中、ITはどのように関わっていくと思いますか」という質問に対し、青野氏が「実はもう日本の農業の大規模化は進んでいて、その中でのITの役割は重要になっています。たとえば、数人の農家であれば情報共有は可能ですが、数十人で大規模な敷地で農業を営む場合、管理の仕方などが煩雑になります。そういうときにIT活用が必要になるのです」と、農業の大規模化、農業のIT化を示唆しました。

一方で、小飼氏は「生産性が上がるということは、実は(働き手にとって)残酷な意味も含んでいます。なぜなら生産性が上がるためには効率化が必要で、⁠人の)職業を減らしてしまう可能性があるからです」と、生産性・効率化・仕事という、今の日本が抱える問題に対し、一石を投じました。また、質問に上がった農業を例に、⁠職業を減らさないためには消費を増やすことが大切。そのための解決策として「農業のエンタテインメント化が進むのでは」という見解を述べ、パネルディスカッションの時間が終了となりました。

参加した学生から多数の質問が上がった
参加した学生から多数の質問が上がった

次回は12月10日に開催

以上、第一部、第二部とも大変内容の濃いプレゼンテーション、パネルディスカッションが行われました。

最終回となる第3回は12月10日に開催されます。参加希望の学生の方は、以下サイトからお申し込みください。

エンジニアの未来サミット for students 2011
http://cybozu.co.jp/company/job/recruitment/recruit/seminar.html

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