レポート

未来は決まっていない,挑戦なくして未来は開かない─「エンジニアの未来サミット for students 2011」第3回レポート

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12月10日,サイボウズ東京本社にて,技術評論社×サイボウズ共催,日本マイクロソフト協賛「エンジニアの未来サミット for students 2011」第3回が開催されました。

このイベントは,2008~2009年に開催された技術評論社主催「エンジニアの未来サミット」を受け継ぎ,第一線で活躍するエンジニアが,これから社会に出ようとする学生とともに「エンジニアの未来」を考えるイベント。全3回の最後を飾る今回は,特別ゲストに無人小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトのイオンエンジン開発を担当された國中 均 JAXA,宇宙科学研究所 教授を迎え,第1回,第2回とは違った視点から⁠未来のエンジニア像⁠に迫りました。

会場の模様

会場の模様

後発で同じことをしても勝てない

前半は「はやぶさ探査機搭載イオンエンジンが切り拓いた未来」と題された,國中教授による講演です。数々のアクシデントに見舞われながら奇跡的に帰還した「はやぶさ」⁠國中教授はそのミッションで重要な役割を果たしたイオンエンジンの開発,そして探査中の運用担当としてプロジェクトに参加しました。

はやぶさに搭載されたイオンエンジンは,地上からの打ち上げに使う「化学ロケット」に大して「電気ロケット」と呼ばれ,プラズマなどの電気を帯びた粒子を電磁加速させることで,化学ロケットの10倍以上の噴出スピードを比較的簡単に出すことができます。また,同じ噴出スピードを得るのに10分の1の推進剤で済むのも魅力です。推進力が低いため,地上からの打ち上げには使えませんが,⁠はやぶさ」のように「深宇宙」と呼ばれる太陽系内探査のために宇宙空間に出て長距離を往復するような目的には必須の性能といえます。

ただし,原理は知られていても,実際に使うにはさまざまなブレークスルーが必要です。國中教授らが開発を始めた'80年代後半には,すでにアメリカで10年以上研究が進んでいる段階で,壁に突き当たっていました。噴出させるためのプラズマを作るための電極に高温のプラズマがぶつかり電極が溶けてしまうため,エンジンの寿命が短くなり,長時間の飛行に耐えられないのです。

後発の不利を挽回するため,國中教授たちは最初から消耗品となる電極のないエンジンの開発を目指します。⁠後発なのに相手と同じことをしていたら,競争には勝てません」⁠國中教授)⁠電極の代わりにマイクロ波を使い,電子を選んで加速させてプラズマを発生させる方式の開発に成功します。最初は推進利用効率が上がりませんでしたが,10年以上の研究の末,推進剤をキセノンに変えることで2001年のμ10では効率が80%にまで改善されました。

「昨今,仕事や開発にスピードが求められているが,そうでない分野も存在する」と國中教授は語ります。ただし,10年をかける価値があるかどうかについては,十分に吟味する必要がありそうです。

國中 均 JAXA,宇宙科学研究所 教授

國中 均 JAXA,宇宙科学研究所 教授

20年後の技術で第一線に立つのは…

このエンジンを搭載した「はやぶさ」による小惑星「いとかわ」探査ミッションに話が移ります。上述のようにアメリカなどに大きく遅れをとり,予算も限られた状況で,小惑星に探査機を着陸させて戻ってくるというのは大きすぎるチャレンジです。米国などからは揶揄を交えた「負の応援」があったのとことですが,こうした声も刺激として準備を進め,2003年の打ち上げにこぎ着けます。

計画どおりに飛行を続けたはやぶさは2005年に「いとかわ」に到達し,イオンエンジンを停止します。國中教授は,間近に迫ったいとかわの画像を見ながら着陸させるまでが,⁠最も楽しかった」と言います。國中氏が開発したエンジンよって,結果的に地上からは点にしか見えなかった小惑星の形や表面を目にすることができ,プロジェクトの研究者たちが目を輝かせているという事実に感動を覚えたのです。

この後は報道などでよく伝えられているように,プロジェクト続行不可能かと思われるトラブルに何度も直面しながら,はやぶさは地球に帰還します。それぞれのトラブル解決にはもちろん工夫と苦労がありましたが,それを支えたのは延べ4万時間を超える動作を続けたイオンエンジンの性能と,臨機応変な対応を可能にできたエンジン制御ソフトウェアの開発にあった,と國中教授は続けます。

はやぶさの撮影した小惑星「いとかわ」の姿(左)とはやぶさが持ち帰った「いとかわ」の微粒子(右)はそれぞれ学会誌の表紙を飾った

はやぶさの撮影した小惑星「いとかわ」の姿(左)とはやぶさが持ち帰った「いとかわ」の微粒子(右)はそれぞれ学会誌の表紙を飾った

また「はやぶさの経験を一般化するのは難しい」と述べつつも,10年単位の長期間でかつ大きなプロジェクトを成功させるためには,理系,文系などのジャンルを超えた個人の力,そしてその人が所属する複数の組織,あるいは国家レベルが時には協力し,競争しながら「たすきをつなぐように」仕事をしなければならない,と語りました。

さらに,現在の宇宙開発を15世紀の大航海時代になぞらえ,21世紀は「宇宙大航海時代」と表現しました。⁠過去の歴史が示すように,人類は太陽系宇宙に乗り出す宿命にある」⁠國中教授)⁠15世紀の大航海時代では最初の探索から約100年かけて地球全体に活動が広がったことから,宇宙についてもそのくらいのタイムスパンで考える必要があります。スケールの大きな話です。

いま世界は有人宇宙探査に向けて動いています。小惑星あるいは火星に向け,アメリカでは2030年までに宇宙航行用の太陽電池,燃料を衛星軌道上に打ち上げて人間も送り込み,そこで推進器を組み立てて宇宙を目指す計画があります。うまくいけば2050年ごろに人類が火星に立つかもしれません。

そうしたタイムスパンで考えると,20年後,30年後に実現する技術は,現在学生にあたる世代が第一線となったとき,ちょうど担うべきものとなるでしょう。1つの技術に10年以上が費やされる分野では,今からそれを見据えて活動を始める必要があります。ぜひ皆さんの力を宇宙に向けて欲しいと訴えました。

そのために,國中教授がもう1つ強調したのが「Game Changing Technology」です。従来のしくみを覆すような画期的な予測の元に技術的投資を行い,時代を先取りする活動のことで,単なるアイデアだけでなく,ユーザが使える実用性,実効性を備えたものでなければなりません。実用性を考慮するのは,まさにエンジニアの発想ですね。宇宙を目指すにはこうした「ゲームチェンジ」がどうしても必要になる

最後に「はやぶさが小さな技術革新の積み重ねによって7年間におよぶ宇宙航海を全うした。これは未来を創ったと言えるのでは? 決まった未来はない,そして挑戦しなくては未来は開けない」と,学生の皆さんにエールを送り,講演を結びました。

著者プロフィール

小坂浩史

gihyo.jp編集部 所属。最近では電子書籍の制作にも関わる。

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