レポート

時代はオープンソースソフトウェアから“オープンソース”へ──The Linux Foundation「Enterprise User's Meeting 2013」レポート

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データセンターそのものをオープンソース化 ─Open Compute Project

続いてのセッションに登壇したのは,オープンソースソフトウェアという観点だけでなく,⁠オープンソース」であるハードウェアや施設について,オープンソースという文化の広がりを紹介した⁠株⁠ビットアイル ビットアイル総合研究所,フェロー 伊藤 正宏氏です。

まず伊藤氏は,データセンター事業者が置かれている立場を紹介します。それは「ユーザのインフラにかけるコスト単価は下落傾向」でありがらも「常に最新技術の導入」を求められ,同時に「コストダウン」も行い,⁠ユーザのニーズに応え続け」ながら,事業を展開しなければならないというものです。そして,市場の競合状況も年々厳しくなっているとも述べます。

ビットアイルはこのような厳しい事業環境の中で,さまざまなサービスを提供しています。ビットアイルは,オープンソースソフトウェアですべてのサービスが提供しているわけではなく,たとえば,マイクロソフトのActive Directoriesサービスを提供するといった,顧客に求められる内容ごとにソフトウェアを選択しているそうです。また,オープンソースソフトウェアというとコストダウンを差別化にするということもよくいわれますが,実際には顧客の必要性な内容によっては,コストそのものは差別化にはならないこともあると説明されました。

そのような環境ではありますが,データセンターでオープンソースソフトウェアを活用する際の優位点を紹介しました。

  • 修正,改変が自分たちで可能であること。
  • 障害の原因追及が可能であること。
  • サポートに対する選択が可能であること。たちえば,OSSに対する有償サポートを外部から調達し,提供することも可能ですし,それを提供しないことも含めて,選択肢があるということだそうです。

修正,改編,問題解析については,社員を教育して対応する場合もあれば,外部から人を採用したり,外部の商用サービスを購入したりということを臨機応変に実施しているそうです。

伊藤 正宏氏

伊藤 正宏氏

続いて,新しい動きとして,Open Compute Projectを事業者の視点から紹介しました。これはFacebookがリードする形でスタートし,現在ではサーバベンダ,CPUベンダだけでなく,多くのデータセンター事業者やユーザ企業が集まり,ソフトウェアのみならず,サーバやネットワーク機器,そして,データセンターそのものであるファシリティをオープンに開発するというプロジェクトです。

今まで,データセンターというと中に入ることも禁止され,場所さえも公開されないということが一般的でしたが,Facebookは逆に,積極的に内部を含めて公開する方針を持っています。彼らがオープンソースソフトウェアの成功を見てきたので,この動きをハードウェアやデータセンターに適用して,イノベーションを起こしていこうという動きといえます。つまり,

  • 「オープンソースソフトウェア」から「オープンソース」

です。

プロジェクトの成果は,Webに公開されています。たとえば,サーバの仕様についても公開されています。そのデータを元にすれば,どこの国のベンダでも同じようなものを製造できます。実際に日本の事業者でも,そのサーバ仕様に合ったハードウェアを製造している台湾ベンダから購入を開始したところがあるそうです。データセンターそのものをオープンソースとするチャレンジングな取り組みは,今後大きな影響を与えていくと考えます。

新興国インフラとOSS

続いて登壇したのが,⁠株)大和総研 クラウドサービス部長 伊藤 慶昭氏です。大和総研は,近年注目を集めているミャンマーで,証券取引所や証券会社のITシステム構築を支援しています。その中で,新興国における国内インフラに合わせたシステム構築で推進した取り組みを紹介しました。

伊藤 慶昭氏

伊藤 慶昭氏

ITインフラといえば,基本になるのは電力です。残念ながら,まだまだ電力供給は安定しておらず,UPSは必須であり,非常用電力ジェネレータが不可欠となっているそうです。ネットワーク環境も十分ではなく,官公庁でもまだまだ「紙」を使った業務処理をしているのが一般的だそうです。

そんな環境で最適なシステムを検討していく過程でたどり着いたのが,オープンソースソフトウェアになります。資金面もそうですし,ベンダの支援体制も十分に取ることができないという背景もあるそうです。

ひとつのボトルネックになっているのは,やはり「人的リソース」です。プログラマは確保できても,顧客との仕様を決めていくような上流工程をリードできる人材はまだ十分ではないそうです。最終的に本番システムが稼働すると,運用の仕組みを含めて,人材育成が運用工程にも必要になるでしょう。

証券システムは,2015年4月のスタートだそうです。

パネルディスカッション:いま最も使われているOSSは?

当日最後のセッションとなったのが,The Linux FoundationのワークグループSI Forumのメンバーによるパネルディスカッションです。SI Forumは,毎年「オープンソースソフトウェア活用動向調査」を実施しています。 この調査は日本国内のエンドユーザ,SI企業が活用できるオープンソースソフトウェアについての情報を提供しています。

小薗井 康志氏(デル株式会社)がモデレーターとなり,パネリストとして,橋本 尚氏(株式会社日立製作所⁠⁠,野山 孝太郎氏(富士通株式会社⁠⁠,鈴木 慶一郎氏(NECソフト株式会社⁠⁠,三浦 広志氏(株式会社NTTデータ)が登壇しました。

パネルディスカッションの模様

パネルディスカッションの模様

最新の調査結果では,Apache LuceneやApache Solrの採用実績が多数となり,また,ビッグデータ関連のオープンソースソフトウェアの採用も増えているそうです。このあたりは時代を反映していると思います。

Q/Aセッションを含めて,プロジェクトの継続性やコスト削減以外のオープンソースソフトウェアの価値とはどういうもの,といったことが,短い時間ながら活発に議論されました。


今回,初めて横浜赤レンガ倉庫で開催されたイベントに参加しました。赤レンガの建物の中に,味わい深いホールがあり,また,建物の外には,クリスマスツリー。すごく雰囲気のいい会場でした。

来年も,⁠Enterprise User's Meeting」は開催される予定だそうです。参加することで得られるものも多いといえますが,講演者はオープンに募集されています。このイベントでユーザや企業の具体的な取り組みを話すことができるのです。みなさんも,来年は講演にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

著者プロフィール

赤井誠(あかいまこと)

日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)に入社後,ソフトウェアR&D,事業企画,マーケティング部門を歴任。2003年からLinuxビジネス立ち上げのリーダーとなり,日本HPをLinux No.1ベンダーに導く。また,x86サーバーを活用したハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)を立ち上げ,HPC No.1ベンダーに導く。2011年4月 MKTインターナショナル株式会社を起業し,現職。
キャリアデベロップメントカウンセラー

著作・翻訳:
『マックで飛び込むインターネット』(翔泳社) の執筆以降,ライター活動も実施中。『リーダーにカリスマ性はいらない』,『MySQLクックブック』『JBoss (開発者ノートシリーズ) 』(オライリー・ジャパン)など多数。