「Ruby biz Grand prix 2017」各賞受賞者が決定! グランプリは2社が受賞

2017年12月14日、帝国ホテル(東京都千代田区)にて「Ruby biz Grand prix 2017」の表彰式が行われました。

Ruby biz Grand prixは、プログラミング言語Rubyを活用したサービス・商品でビズネスにおいてイノベーションを起こした事例を表彰するグランプリです。審査員長にはまつもとゆきひろ氏を迎え、表彰状には島根県の重要無形文化財「石州和紙」が使われるなど、島根県づくしの大賞となっています。審査委員は以下の方々です(敬称略⁠⁠。

審査委員長

Rubyアソシエーション 理事長
まつもとゆきひろ

審査委員

株式会社オープンソース活用研究所 代表取締役所長
寺田 雄一

Ruby アソシエーション 評議員 楽天株式会社 執行役員
森 正弥

日経 BP社 情報技術メディア発行人補佐
中村 建助

日本郵政株式会社 執行役
正村 勉

Ruby アソシエーション 理事 クックパッド株式会社
笹田 耕一

開催は今年で3回目となりますが、過去のグランプリ受賞事例は次のとおりでした。

2016年

Misoca:株式会社Misoca
ハコベル:ラクスル株式会社

2015年

Treasure Data Service / Fluentd / embulk:トレジャーデータ株式会社
ユビレジ/フリックオーダー:株式会社ユビレジ

2016年のグランプリ受賞者による講演

受賞者発表に先立って、Ruby biz Grand prix 2016のグランプリ受賞者、⁠株)MISOCA 取締役の松本哲氏のプレゼンテーションが行われました。

松本哲氏
松本哲氏

松本氏によると、グランプリの受賞はMisocaの知名度向上に寄与したほか、エンジニア採用に関する対外的なメッセージになったと言います。実際、受賞後の1年で多くの求職者に恵まれたそう。また獲得した賞金は、開発合宿の費用に使ったとのことでした。

受賞事例発表、表彰式へ

国内からノミネートされた29事例から、グランプリ、特別賞、FinTech賞、ソーシャルイノベーション賞が発表されました。受賞企業の代表者によるプレゼンテーションも同時に行われました。

ソーシャルイノベーション賞

社会的意義の高い問題解決への取り組みを評価された4事例が受賞しました。

いこーよ:アクトインディ株式会社

アクトインディ(株⁠⁠ 代表取締役 下元敬道氏
アクトインディ(株) 代表取締役 下元敬道氏

いこーよは、親子でお出かけできる遊び場、ファミリー向けイベントなどの情報が集まるポータルサイトです。下元敬道氏によると、⁠Rubyで0から作ったサービスだが、先人が作ったgem(ライブラリ)と、Rubyが可能にするスピーディな開発によって、現在は月間500万人の親子が利用するサービスにまで成長させることができた」とのこと。

全国タクシー:JapanTaxi株式会社

JapanTaxi⁠株⁠取締役 CTO 岩田和宏氏
JapanTaxi(株)取締役 CTO 岩田和宏氏

全国タクシーは、全国4万超のタクシーに対応したタクシーの料金検索・配車・予約アプリ。現在は400万DLを突破しています。アプリのバックエンドにはもともとVisual Studio 2012を使用していたそうですが、さまざまな技術的負債を抱えており、これを10ヵ月かけてRuby on Railsに移行したそうです。

SmartHR:株式会社SmartHR

⁠株⁠SmartHR 副社長 兼 CPO 内藤研介氏
(株)SmartHR 副社長 兼 CPO 内藤研介氏

SmartHRは社会保険・雇用保険の手続き自動化を目指す企業向けの人事労務ソフトです。複雑な保険の仕様に追従できているのは、Rubyの持つ柔軟性のおかげだと強調されました。株式会社SmartHRはgemの公開や技術イベントへの出展にも力を入れているそうです。

Job-Hub:株式会社パソナテック

⁠株⁠パソナテック Job-Hub事業部 マネージャー 鈴木真志氏
(株)パソナテック Job-Hub事業部 マネージャー 鈴木真志氏

Job-Hubはクラウドソーシング、アウトソーシングなどのサービスからなる、働き方改革のためのプラットフォーム。鈴木真志氏は、これからもRubyのパフォーマンスを最大限活かしてサービスの開発を続けると意気込みが語られました。

Fintech賞

最先端のIT技術と金融を組み合わせた2社が受賞しました。

Coincheck:コインチェック株式会社

コインチェック(株⁠⁠ 代表取締役社長 和田晃一良氏
コインチェック(株) 代表取締役社長 和田晃一良氏

仮想通貨取引所Coincheckは、お笑いタレント出川哲朗さんをCMに起用したことでも話題になりました。本サービスの開発はRubyとオープンソースコミュニティなくしては語れないと、和田晃一良氏がRubyへの感謝を述べました。

URIHO:株式会社トラスト&グロース

⁠株⁠トラスト&グロース 代表取締役 石井俊之氏
(株)トラスト&グロース 代表取締役 石井俊之氏

URIHOは取引先からの未払いを防ぐ、取引代金を保証するサービスです。石井俊之氏からは、本グランプリの価値がさらに上がるようサービスの発展に努めると、力強く表明されました。

特別賞

審査員推薦の特別賞を3社が受賞しました。

esa:合同会社esa

esa 代表社員 深谷篤生氏
esa 代表社員 深谷篤生氏

esa「情報を育てる」という視点で作られた、Markdawn記法で書けるドキュメント共有ツール。2014年に個人の趣味として始まったツールでしたが、やがて会社化し、現在は3人で開発を行っているとのこと。ここまで続けてこれたのは、ひとえにRubyの楽しさあってこそと、深谷篤生氏が語りました。

Audiostock:株式会社クレオフーガ

⁠株⁠クレオフーガ 取締役CTO 山口真央氏
(株)クレオフーガ 取締役CTO 山口真央氏

Audiostockは、8万点以上の音素材を扱うマーケットプレイスです。最近はスマホゲームのBGMとして購入される法人が多いそう。プロダクトはすべてRubyで書かれており、山口真央氏は社内のエンジニアに感謝しつつ、受賞を喜んでいました。岡山県にオフィスを構えるクレオフーガですが、⁠Okayama.rb」⁠岡山Ruby, Ruby on Rails勉強会」⁠岡山Ruby会議」といったコミュニティにも日々助けられているとも述べられました。

Repro:Repro株式会社

Repro⁠株⁠CTO 橋立友宏氏
Repro(株)CTO 橋立友宏氏

Reproは、モバイルアプリにフォーカスしたグロースハックツール。非常にトラフィックの多いサービスですが、Rubyで開発した基盤で十分にさばけているとのこと。橋立友宏氏は、⁠パーフェクトRuby』⁠パーフェクト Ruby on Rails』の執筆者であり、またRubyはプログラマを志すきっかけになった言語とのことで、今回の受賞は感慨深いと述べられました。

グランプリ

今年のグランプリには2社が選ばれました。

コンピテンシークラウド:株式会社あしたのチーム

⁠株⁠あしたのチーム 代表取締役 高橋恭介氏(右)とプレゼンターのまつもとゆきひろ氏
(株)あしたのチーム 代表取締役 高橋恭介氏(右)とプレゼンターのまつもとゆきひろ氏

コンピテンシークラウドは、人事評価のためのクラウドサービス。⁠賃金を下げるために行われる人事評価から、生産性向上のための人事評価へ」をモットーにサービス展開されています。グランプリの受賞は「今年一番のサプライズ」と、驚きを隠せない様子の高橋恭介氏でした。

WOVN.io:株式会社ミニマル・テクノロジーズ

⁠株⁠ミニマル・テクノロジーズ 代表取締役社長 林鷹治氏(右)とまつもとゆきひろ氏
(株)ミニマル・テクノロジーズ 代表取締役社長 林鷹治氏(右)とまつもとゆきひろ氏

WOVN.ioは、Webサービスの多言語化を最短5分で行える開発ツール。最近はインバウンド分野、越境EC分野での利用が多いそうです。2014年に1人で立ち上げたプロジェクトでしたが、現在は1万を超える事業者が導入するまでに成長しました。ミニマル・テクノロジーズは今、12ヵ国から集まったRuby好きのエンジニアが働く会社になっています。

選考結果について――まつもとゆきひろ氏

表彰式の最後に、審査員長のまつもとゆきひろ氏からグランプリの総評が述べられました。

今回のグランプリについて語るまつもとゆきひろ氏
今回のグランプリについて語るまつもとゆきひろ氏

「今年の審査は例年以上に困難を極めた」と語るまつもとゆきひろ氏。たとえば審査員が持ち点を投票していき、得点の多い事例を選ぶしくみだと、平均的なもの、尖ったところのないものを評価してしまいます。それはグランプリの趣旨から外れるため、審査委員会の議論によって各賞を決定しているそうです。

ひと昔前は、Rubyを使ってビジネスをしているだけで目立ったものですが、今では珍しいことではなく、それゆえに、グランプリの評価も年々厳しいものになっているそうです。ただ使っているだけではなく、社会的なインパクトとコミュニティへの還元も考慮したうえでの、今回の審査結果とのことでした。

まつもとゆきひろ氏がスピーチの中で大きく取り上げたのは、⁠ハック」という言葉でした。

「ハックは世間的には悪いイメージを持った言葉ですが、本来は『一見不可能なことを可能なものにする』という意味合いのもの。他人のPCやネットワークへの侵入も、言ってしまえば挑戦なので、そういったイメージが先攻してしまっているんですね。このRuby biz Grand prixも、ある意味ハックです。ネット上では『島根県にパソコンなんてあるわけない』と言われてきた島根県ですが、今やこうやって『Rubyの県』になったのですから」

「本グランプリの受賞者も、みなさん日々ハックされています。それにRubyが使われているということに、非常に喜びを感じます。かつて不可能だったことを可能にした企業さんを、社会に対して宣言できたことがとてもうれしい。来年以降にも期待したいと思います」とグランプリを締められました。

受賞企業の代表者、審査委員会のメンバーで記念撮影
受賞企業の代表者、審査委員会のメンバーで記念撮影
受賞企業の代表者とまつもとゆきひろ氏
受賞企業の代表者とまつもとゆきひろ氏
※)
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」⁠2000年)の登場人物のセリフより

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