2005年9月28日、イギリスの学術誌『The Royal Society』のWebサイトで、世界中の海洋学者にとって衝撃的な論文と写真が公開されました。これまで誰も見たことがなかったダイオウイカ(giant squid/学名:Architeuthis)の生きた姿を、国立科学博物館の窪寺恒巳さんら日本の調査チームが初めて撮影に成功したのです。
世界で最も巨大な無脊椎動物(the world's largest invertebrate)であるダイオウイカは、ときたま死骸が海岸に打ち上げられたり、死にかけた状態で漁網にかかることはありましたが、深海に棲息していることもあってその生態は謎に包まれていました。数多くの科学者やカメラマンが生きたダイオウイカの姿を追い求め、撮影を試みたものの、いずれも失敗に終わっています。
AP通信(The Associated Press)が配信した記事のリードを見てみましょう。
Scientists Get First Photos of Rare Giant Squid in Wild
TOKYO (AP)-- When a nearly 20-foot long tentacle was hauled aboard his research ship, Tsunemi Kubodera knew he had something big. Then it began sucking on his hands. But what came next excited him most-- hundreds of photos of a purplish-red sea monster doing battle 3,000 feet deep.
今回の撮影成功について、窪寺さんはAP通信の取材に対し「We were very lucky」と答えています。しかし単なる偶然によるものではなく、長年に渡る地道な調査と研究が千載一遇の“lucky”をもたらしたのは明らかです。科学者にとって最高の名誉とも言うべき「一番乗り」を果たした要因はどこにあったのでしょうか。
イカの体は海水より重く、ダイオウイカのような巨大なイカが深海で泳ぎまわるには大きなエネルギーが必要です。ダイオウイカは浮力を得るために、体の組織に液胞(pockets of ammonia solution)と呼ばれるアンモニアが入った浮袋のような細胞があり、筋肉の密度もそれほど高くないので、あまり活発な生き物ではないと考えられていました。しかし今回の撮影で触腕をふりほどこうとして暴れるほどアクティブであることや、触腕も意外と丈夫で、器用に巻き付けたりできることがわかったそうです。これならマッコウクジラとも、結構いい勝負ができるのかもしれませんね。
This encounter was part of an ongoing and broader research program by the authors on the biomass and composition of large meso- and bathypelagic cephalopods of Japanese waters. We look forward to further insights from such research.