[祝!ダイオウイカ動画撮影成功]日本人が世界で初めて撮った「モンスター」─この手に“The First”の称号を~世界を驚かせる日本人科学者たち

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意外とアクティブなダイオウイカ

窪寺さんたちがダイオウイカの撮影に成功したとき,海の中ではどのようなことがおこっていたのでしょうか? 撮影間隔は30秒ごとですが,これらをつなぎ合わせることで,まるで動画のストップモーションのように動きが再現されます。

最初にエサのスルメイカに食いついたダイオウイカは,エサを食べ終わった後,一度カメラの視界からフレームアウトします。その間どこかに逃げていたわけではなく,実は触腕の1本が疑似餌の先についていた釣り針に引っかかって,抜けなくなったのを引っ張り回していたため,カメラの視界の外に離れていたのでした。

実際に撮影されたダイオウイカの映像。触腕を丸めてエサを抱え込み,真ん中にある口に運んでいます。これは,ボールのように包み込むためラッピングwrappingと呼ばれています

実際に撮影されたダイオウイカの映像。触腕を丸めてエサを抱え込み,真ん中にある口に運んでいます。これは,ボールのように包み込むためラッピング(<span styl

8.5分後にカメラのフレームに再び入ってきたダイオウイカは,引っ張り回すのをやめ,今度はほかの腕を使って引っかかったところを外そうとします。この後,何度か同じような行動をとったあと,とうとう引っかかった触腕が切れてしまい,ダイオウイカは逃げていきます。ダイオウイカが逃げた後のゆるんだ糸と,疑似餌の針に残った触腕もしっかり写真に残っています。この触腕を引き上げてDNA鑑定をしたところ,まさしくダイオウイカの組織であることがわかりました。

イカの体は海水より重く,ダイオウイカのような巨大なイカが深海で泳ぎまわるには大きなエネルギーが必要です。ダイオウイカは浮力を得るために,体の組織に液胞pockets of ammonia solutionと呼ばれるアンモニアが入った浮袋のような細胞があり,筋肉の密度もそれほど高くないので,あまり活発な生き物ではないと考えられていました。しかし今回の撮影で触腕をふりほどこうとして暴れるほどアクティブであることや,触腕も意外と丈夫で,器用に巻き付けたりできることがわかったそうです。これならマッコウクジラとも,結構いい勝負ができるのかもしれませんね。

世界の反響,日本の反響

こうして撮影された世界初の写真は,冒頭に紹介したとおり窪寺さんによって英国の学術誌に論文として掲載され,大きな反響をもって迎えられました。もちろん世界初なので,世界レベルで発表すべきことですが,おそらく日本の学会誌に日本語で載せても,それほど大きな話題にはならなかったのではないか,と窪寺さんは振り返ります。

一方,海外で大きく発表されたものには,日本のメディアは飛びつきます。同じ内容でも日本で発表された方が低く見られる傾向があるようです。今回も,BBCやCNNなど海外の蒼々たるメディアが取材に押し寄せ,その後追い,あるいは再配信のような形で日本のメディアにも取り上げられたというのが実際のところです。

実際,撮影から英国誌(のインターネット記事)で発表されるまで1年弱くらいかかっていますが,その間ほかの研究者にも秘密だったので,よけいに驚かれたそうです。そのころちょうど(2006年1月28日まで)国立科学博物館で開催されている「パール展-その輝きのすべて-」という特別展の責任者として,開幕日を迎えたその日に発表があったため,窪寺さん自身も大変だったそうです。

もう一点,イカ(あるいはタコなどの軟体動物)についての一般的な印象が,日本と欧米では大きく違うというのも窪寺さんが指摘する点です。日本では,イカ,タコというとまず食べ物という発想になって,たとえば「ダイオウイカの足はにぎり寿司何人前?」という質問がまず出てきますが,これに対して欧米では昔からクラーケンKrakenという伝説の怪物を筆頭に,巨大なイカ,タコは「海の魔獣」というイメージを持っています。このあたりの認識の違いが,マスコミの報道や取材にも大きく表れると言います。

日本のある新聞記事などは,窪寺さんの撮影した写真に「ダイオウイカもお食事中」などと脳天気な見出しをつけていますが,海外メディアでは「Sea Monster」⁠Legend of the Deep sea」⁠Predetor」などとおどろおどろしい見出しが並びます。

ダイオウイカはまだ小物?

今後ももちろん調査を続けるという窪寺さん。英国学術誌に載せた論文「First-ever observations of a live giant squid in the wild⁠⁠-Tsunemi Kubodera, Kyoichi Mori,『The Royal Society』では次のように結んでいます。

This encounter was part of an ongoing and broader research program by the authors on the biomass and composition of large meso- and bathypelagic cephalopods of Japanese waters. <中略> We look forward to further insights from such research.

※bathypelagic cephalopods=深海浮遊性 頭足類

さらに深海に潜むと言われているまだ見たことのない巨大イカの発見を目ざし,これからも頑張ってください。⁠英語野郎』も応援しています。

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