瀬山士郎先生の 数学よもやま話

第4回 18歳までに学ぶべき数学

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かつて,名著「数学入門(上下)⁠岩波新書)の前書きで故遠山啓は『20世紀後半の世界に活動する日本人に必要な数学として,私は一応「微分方程式まで」という線を引いてみた。たしかに微分方程式までの知識が日本人の常識になったら,それはすばらしいことであろうと思う』と書いた。こんな理想を語れた時代があった。残念ながら21世紀に入ったいま,日本人の数学の常識はこの理想には程遠いと言わねばならない。様々な事情で高校数学を中断せざるを得なかった少年,少女たちも多い。彼らにそれでも数学を学ぶことをあきらめずに続けてもらうための,必要最小限の数学の数学知識とは何だろうか。数学教育の専門家や教育の実務にあたる人と一緒に考え,討議の結果,2次式の理解を一つの目標としてみたいという結論に達した。

2次方程式の解の公式は一時中学校数学から削除されてしまったが,ここには,記号運用と内容の理解という数学理解のもっとも基礎的な知識が詰まっている。自分が考えていることを記号で表現し,それを数学規則に従って変形し,自分の思考内容を外部に取り出して反省的,批判的な目で眺めることを可能にすること。これは数学理解のためには欠かせない技量である。

また,2次関数は,線形性だけではとらえきれない多くの自然現象のモデルとしてとても重要である。さらに2次関数はその局所的な分析をとおして,微小変化における線形性と結びつき,微分学という多くの自然科学の基礎として最も重要な数学に直接に繋がっている。たとえば,2次関数の平方完成という記号運用上の技術は,視点を広げてみれば,関数のテイラー展開という高度な数学に直結していると言ってもよい。これを2変数2次関数にまで広げることができれば,その射程は格段に広がるだろう。多くの少女,少年たちが2次式を理解してくれることを切望している。

著者プロフィール

瀬山士郎(せやましろう)

1946年群馬県生まれ。1970年東京教育大学大学院理学研究科終了。専門は位相幾何学,グラフ理論。

1970年群馬大学教員となり,2011年定年退職。群馬大学名誉教授。数学教育協議会会員。

主な著書に「バナッハ・タルスキの密室」(日本評論社,2013年)「読む数学」(角川ソフィア文庫,2014年)「はじめての現代数学」(ハヤカワ文庫,2009年)「幾何物語」(ちくま学芸文庫,2007年)「無限と連続の数学」(東京図書,2005年)「トポロジー:柔らかい幾何学」(日本評論社,2003年)「計算のひみつー考え方の練習帳」(さ・え・ら書房,2004年)「数学 想像力の科学」(岩波書店,2014年)などがある。

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