理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第3回 絵が好き,生き物が好き サイエンス・イラストレーター 菊谷詩子さん

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今回の⁠理系なおねえさん⁠は,サイエンス・イラストレーターの菊谷詩子さん。幼い頃からとにかく絵を描くことと,生き物が好きだったという菊谷さんは,その2つを見事に融合させた職業に就いています。海外では一般的ですが,日本ではまだ珍しいサイエンス・イラストレーターの世界に,どのようにして踏み入れたのでしょうか。

菊谷詩子(きくたにうたこ)学生時代の専攻:動物学。幼少期を東アフリカのケニア,タンザニアで過ごしたことをきっかけに野生動物に興味を抱くようになる。帰国後,東京大学理学部生物学科動物学コース(旧東京大学理学部動物学科)に進学。修士号を取得後,米カリフォルニア大学サンタクルーズ校(当時※)へ留学,サイエンス・イラストレーションを専攻。アメリカ自然史博物館でのインターン期間を経てニューヨークを中心に活動。2001年以降は日本で教科書,図鑑,博物館の展示等のイラストを制作している。⁠※現在はカリフォルニア州立大学モントレー校で専攻が可能)

菊谷詩子(きくたにうたこ)

日本ではまだ珍しい科学絵専門のイラストレーター

さっそくインタビュー開始!と,思ったものの,資料として持ってきていただいたイラストレーションファイルに思わず見入ってしまうのでした。⁠わー」とか「ほー」としか言えないインタビュアー……。

――サイエンス系の文章だと,絵が入ると入らないとでは全然違いますねえ。数千字の文章が,一枚の絵で表現できてしまうという説得力があります。

菊谷「特に生物系はそうですね。⁠内田が見入っている絵を指して)……それはワイオミング州にあるビッグホーン盆地の復元ですね」

――日本だと,サイエンス・イラストレーターの方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

菊谷「自ら名乗っている方はあまり多くないです。どこまで広げるのかは本人の自由なので。例えば恐竜の絵を専門に描かれている方は,自分のことを⁠恐竜画家⁠⁠復元画家”,植物の絵を描かれている方だと⁠ボタニカルアーティスト⁠とおっしゃっていたりします。」

――「この分野!」と決めてイラストを描かれている方の割合ってどのくらいになるのでしょうか?

菊谷「特定の分野を専門的に,半分研究者として描かれている方のほうが多いですね。私は特定のものではなく,生き物全般に惹かれてこの世界に入ってきたので,広くカバーしているほうだと思います」

ビッグホーン盆地の復元のイラスト。内田も思わず見入ってしまう……

ビッグホーン盆地の復元のイラスト。内田も思わず見入ってしまう……

サイエンスライターですら最近になってようやく社会に浸透してきたかも? という程度の日本では,サイエンス・イラストレーターの認知はまだまだこれから。菊谷さんがこの道に入ったきっかけも,この職業の存在を知ったことからだそうです。

――絵を描くことは小さい頃からお好きだったんですか?

菊谷「はい。絵の道に進みたくて美大予備校にも通ってみたのですが,自分には無理だと思ってあきらめました」

――そこで,もう1つの関心事だった生き物の道に進学するわけですね。美大と東大の理学部,この2つの間で迷うというのは端から見ると贅沢で羨ましい悩み! 本当に両方がお好きだったんですね。

菊谷「ですので,絵といっても元から好きだった植物や動物の絵ばっかり描いていました。けれども,美大となるともっと違うことが求められるじゃないですか。自分の内面と向き合うような。そういうところが私には無理かも,と思ったんです」

――サイエンス・イラストレーターですと,純粋に菊谷さんが好きな生き物を描けますもんね。

菊谷「大学在学中に,こういった職業があるということ,そしてそれを教えてくれる学校の存在を知ったことが,この道に入ったきっかけですね。⁠画家⁠というと遠い存在でしたが⁠生き物が好きだということと組み合わせられるんだったら自分に合っているのでは⁠と思えたんです」

――なるほど。自分の「2つの好き」を組み合わせた,ぴったりの職業ですね。生き物好きも昔からですか?

菊谷「はい。アフリカで過ごした小学校時代の影響が大きいです」

豊かで楽しかったアフリカ生活

実はご両親の仕事の関係で,小学校の5年間をタンザニアとケニアで過ごしたという菊谷さん。

――アフリカでの生活,というと私にはまったく想像がつかないのですが……

菊谷「断水1週間は当たり前,みたいな(笑)⁠日本でいう普通の生活とは程遠い暮らしでした。母はないものづくしで家事がやりにくくて苦労していたみたいですけど,私は楽しかったですね。動物好きの子供にとっては天国でしたよ,まわりが全てサファリパークですから」

――確かに! ということは,アフリカに行く前から動物好きだったんですね。

菊谷「好きといってもアリを捕まえて飼ったり,犬や鳥を飼ったり。普通の子どももやっていますよね。私はそれが未だに好きなだけです」

――いえいえ,興味を持ち続けるということは,難しいですよ。これは理科離れの話に繋がりますが,途中で興味が薄れてしまうということも大きいと思います。人によりますが,小学校に入った時点,または中学校に入った時点で学校教育によって断絶が起こるんですよね。

菊谷「そう考えてみると理科好きになるきっかけに恵まれていたかもしれません。タンザニア時代に補習校で来ていた(当時タンザニアには日本人学校がなかった)理科の先生は色んなものを作って見せてくれましたし,ケニアの日本人学校でも理科の先生がとても頑張って実験をしてくれました。薬品を混ぜて気体が出たりするのを実際に見ると,楽しくって」

――今,小学校だと文系の先生が理科を兼任すること多いですよね。実験する機会も減っているとか。

菊谷「やっぱり先生自身が理科を好きだっていう気持ちが伝わらないと,なかなか教わる側にも面白さがわからないですよね」

――ところで,小学校のときずっとアフリカにいて,中学で日本に戻るとなると,カルチャーショックが大きそうですが……。

菊谷「自分の常識が通用しないことが辛かったですね。日本人学校には通っていましたが,どうしても補えないところはあって。例えば,⁠日直ってなんだろう?⁠とか。あと,世代的にちょうど日本に帰って来た当時は校内暴力の嵐でしたから,そのギャップが……(苦笑)⁠

――アフリカでのんびりと過ごした日々を思うと……ですよね。

菊谷「最初は途方に暮れていました。普通じゃない環境を経験してきたので,その後どうやって普通に生きていくかすごく悩んだんです」

アフリカでの日々は,さまざまな生き物を描く上でとても役に立っているとのこと

アフリカでの日々は,さまざまな生き物を描く上でとても役に立っているとのこと

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/

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