理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第4回 ロジカルシンキング・ロジカルコミュニケーション 日本科学未来館 岡野麻衣子さん

この記事を読むのに必要な時間:およそ 6.5 分

研究者からいきなりインタープリター(解説員)

博士課程の途中から,日本科学未来館に非常勤で働き始めたというのは冒頭の通り。研究者と解説員,仕事の内容は大きく異なるように思えるのですが…

――そこまで研究を熱心にされていて,いきなり未来館にいくという発想はあまり思いつかないのですが。研究職に就くというご希望はなかったんですか?

岡野「同じ研究室や研究室系列の企業であったり,やっぱり就職先が限られてしまいますよね。そうするとまたあまり変わらない生活になるんじゃないかと思ったんです。研究室にずっといると人間関係も考え方もすごく狭くなってしまうじゃないですか。研究室のメンバーとは,飲みに行っても⁠タンパク質がどうの…⁠といつも同じ話になってしまう(笑⁠⁠」

――ちょうどそんなことを考えているときに,タイミング良く毛利さんがテレビに出てきたと。

岡野「はい。それに,感動したことも大きかったのですが,研究することの意味について考えていた時期でもあったので。母親に⁠大学では何の研究をしているの?⁠と聞かれたので,説明しました。そうしたら⁠何を言っているのか専門すぎて全然わからない!⁠とばっさりと言われて。逆にすんなり理解されても,それは研究としてどうなんだろう,とも思いますが」

――説明はなかなか難しいですよね,特に自分の専門分野だと。

岡野「そうなんですよね,研究室や学会内って普通の人が聞いてもわからないことをやっていて,その中で発表し合う。私の場合は,どうしても自己満足に陥りがちでした」

――⁠普通⁠の感覚がわからなくなってきますからね。

岡野「うちの教授は⁠海外では科研費を申請するときにマンガを描くんだ。マンガのようにどれだけわかりやすく説得するかが重要なんだ。それでないと自分達の実験費はとれないんだ⁠と言っていました」

――それはごもっともですね。私の担当教員は⁠どんな専門家でも,専門外のことはわからない。だから中学生に説明するつもりで⁠がモットーでした。わかりやすく説明しなければ,研究の必要性がわかってもらえませんものね。

岡野「私はそれを聞いたときから,研究というのは,きちんと報告書を出して,その報告書がどういう形であれ社会に浸透しないと意味はないという考えを持つようになりました。ですので,科学の現場=研究をきちんと社会に伝えるという意味で,未来館はすごく魅力的に思えたんです」

専門分野だからこそ,見えていないこと

こうして,学生時代から未来館で働き始めた岡野さん。非常勤から常勤のインタープリターを経て,現在は運営業務室で全体の調整を行っています。

――学生時代の専攻は,今,現場でどのように活かされていますか?

岡野「……ないんですよ(笑⁠⁠。展示物を解説する立場になると,いかに一般の人にわかりやすく説明できるかが重要。そういった場合,逆に専門でなかったインタープリターのほうがわかりやすく説明できるんです」

――具体的な例を挙げると?

岡野「お客さまから⁠ゲノムって何ですか?⁠と聞かれたときに,研究生活でゲノムと遺伝子を区別して使うことなんてほとんどなかったので⁠私,説明できない!⁠となっちゃって」

――生物が分野外の私だからその二つをきちんと説明しろと言われると難しいかと思ったのですが,ご専門だからこそ,というのはあるんでしょうね。

岡野「お客さまが必要としているのは,言葉の定義だということが,そこでわかりました。ゲノム,遺伝子,DNA,染色体…全部を一緒くたにして考えていて,専門分野ではそれで通じるのかもしれないけど,そこをきちんと理解してもらえない限り,一般の方には興味を持ってもらえない」

――なるほど,言葉の定義って大事なんですねえ。いま,お話を聞きながら自分に近い分野として⁠エネルギー⁠⁠仕事⁠の説明を考えていたんですが。定義を言っても仕方ないのかな,と思ったらそうではないと。

岡野「生命科学は特にそうなんですよ。だから私も高校のときに⁠染色体ってなんなの?⁠⁠なんでヒストンに巻かれてるの?⁠とかということを疑問に思ったのかなと。イメージができないんですよね。知っていることを言うだけじゃいけないんだ,と気付いたこの体験は,自分の中ではとても大きかったです」

――なるほど。岡野さんは大学4年まで納得いかない思いをされていたからこそ,その過程が活きているのかもしれませんね

岡野さんオススメ展示 その1:有人潜水調査船「しんかい6500」
水深6,500mまで潜ることができる潜水調査船で,現在運航中の有人潜水調査船のなかでは世界で一番深く潜ることが可能。では,なぜ「6,500m」なのでしょうか?世界一を目指したからでしょうか?その理由は未来館で聞いてみよう!

岡野さんオススメ展示 その1:有人潜水調査船「しんかい6500」

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/