理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第4回 ロジカルシンキング・ロジカルコミュニケーション 日本科学未来館 岡野麻衣子さん

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理系に求められるコミュニケーション能力

日本未来館のインタープリター採用条件は,理系大学の修士卒以上。今の理系のインタープリターに必要なのは,コミュニケーション能力だとか。

岡野「正直私は,コミュニケーション能力があったら,採用条件の学歴を満たさなくても良いのではと思っているんです」

――先ほどおっしゃったように,専門分野を知りすぎていると逆にコミュニケーションがとりにくくなってしまう傾向はありますよね。

岡野「常連のお客様からよく言われますよ,インタープリターは高飛車だと。⁠知ってて当然でしょう?⁠という目線で話している印象を与えてしまっているみたいなんです」

――と,言いますと?

岡野「例えばスーパーカミオカンデの展示を説明するときに,⁠(展示を指して)これが,スーパーカミオカンデです。ニュートリノを検出する装置です⁠と説明するよりも,⁠この装置をつくった小柴昌俊さんはアイスクリームが好きらしいですよ⁠と,⁠人⁠から入ると,ああそうなんだ,と聞いてもらえます」

――なるほど。いきなり⁠これが⁠と核心の専門のことを言われても,知らない人にはピンとこないですよね。

岡野「ええ。人によりけりでしょうけど,もともとわからないものなのに,これがそうなんだ,って言われても,相変わらずわからないですよね」

――⁠アイスクリームが好きらしい⁠というところから入るのはお上手ですね!

岡野「何度も解説にチャレンジしながらお客様と対話することが未来館で学んでいくスキルだと思いますね。何度も玉砕しますから。やっぱり怒られるんですよ,お客さまに。そんなんじゃわかんないよ!って」

――たくさんの方が1日にいらっしゃいますもんね。しかも,小学生から知識豊富な大人までと,年齢も知識もバラバラで。

岡野「はい,研究者の方も結構お見えになりますよ」

研究者にも他分野を知ってほしい

一般の方はもちろんのこと,研究者の方も積極的に他分野の展示を知って欲しいと言います。それにはこんなエピソードが。

岡野「一番最初に未来館の展示を見て驚いたのは,先端の科学技術の中で,知らない展示が多かったということです。恥ずかしながら,先ほどのスーパーカミオカンデの名前すら知りませんでした」

――岡野さんにとっては,分野が異なりますから,当然のことかもしれません。

岡野「研究生活を長く続けていると,自分達の分野が一番だと思ってしまう傾向がある。現に私もそうでした。でも,他の分野で何をやっているのかも知らないくせに,それは何ておこがましいことだろうと」

――専門どっぷりだと,良くも悪くも,まわりが見えなくなってしまいますものね。でもそこで⁠他の分野を知らない自分はおこがましい⁠と考える岡野さんは素敵ですね。

岡野「スーパーカミオカンデの開発にかける想いを聞いたときには,圧倒されて鳥肌が立ちました。いろんな分野の考え方を研究者は知るべきだと思いましたね。その研究者自身がどういう想いでこれを作っているのか,倫理観,歴史観,世界観…これを知ることはすごく大事だと思うのです」

――特に岡野さんの専攻されていた生命科学では,倫理観も重要になってきますね。

岡野「はい,ES細胞の研究だけに没頭していると,命や生を実験対象としてしか接しなくなることがあります。そこには必ず倫理的要素がないと怖いことになってしまう。研究者は,いろんな分野の考え方を知って,知的好奇心とタブーの線引きができないと」

――この⁠知的好奇心⁠⁠タブー⁠の線引きって,本当に難しい話で。でも,他分野の話を少しでも知るだけで,研究者自身もその線引きがうっすら見えてくるのかもしれませんね。

展示「スーパーカミオカンデの世界」
⁠謎の素粒子」ニュートリノを検出する装置,スーパーカミオカンデ。ここでは,スーパーカミオカンデのメイン部分,光電子増倍管の原寸大モデルを展示。さらに10分1モデルの中に入り,ニュートリノが与える反応現象によって生まれた光を体験することができる

展示「スーパーカミオカンデの世界」

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/