理系なおねえさんはアリですか?―内田麻理香が聞いた理系な女性の理系な人生―

第8回 新年&ご無沙汰特別編 サイエンスコミュニケーター 内田麻理香さん

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研究は面白かったけど,モラトリアム進学

編:そしてそのまま博士まで進学したということですね。修士までの進学は一般的になりつつありますが,博士進学は,よっぽど研究に面白みを見出した人じゃないとなかなかできないと思います。そのあたり,どうだったんでしょう?

内田:実は,自分が「理系?」という自信はずーっとなかったんですよね。もともとガンダムが動機で理系に来たくらいですし(笑⁠⁠。周りの優秀な人たちを見ていると,理系センスはないことは痛いほどわかるし,一方で文系の友人を見ていてもかなうわけがない,と悩んでしまう。自分がどこに進んだらいいのかわからない,という状態のダメなモラトリアム進学だったと思います。

編:とはいえ,研究には魅力を感じていたと。

内田:ええ。研究って,ほとんどがうまくいかない試行錯誤の連続だけど,その中でほんの少しだけご褒美がある。そんなところにはまりましたね。

編:研究室生活はどんな感じでした?

内田:微量分析をやっていたので,いろんなことが実験結果のノイズになっちゃう。建物に人気が少ない休日・夜中を狙って実験していましたね。

編:となると,結構自由なことができますよね。ムフフ。

内田:クリーンルームを使っていたので,クリーンルームでクリーンスーツのまま仮眠をとったり,と。実験するのにもかかわらず,マニキュアしたままで,研究室にあったアセトンでマニキュアを落としたり……とか。これ,怒られそうな話ですね(笑⁠⁠。

編:ではフィクションということで。しかしクリーンスーツのままで,って……。

よっぽど眠くないとできません

よっぽど眠くないとできません

家庭に入って,科学への見方が変わった

編:その後,博士課程を中退されるわけですね。

内田:はい。自分が理系なのか? 文系なのか? というのはずっと迷っていたのですが,やはり無理だと感じて。途中で併行して弁理士を目指して受験勉強をしていたこともありました。

編:おお,弁理士を目指していた時期もあったんですね。

内田:弁理士は技術のことを法律の文章で表現する,ということで文系と理系の間にある仕事でひょっとしたら私にもできるかも? と考えたんです。でも,これも諸々の家族の事情で諦めました。

編:研究生活から急に家庭生活に入ると,全く世界が違いませんか?

内田:違いますねえ。何もしなければ「引きこもり上等!」の世界ですし。あと,⁠科学が好き」と言いつつも,今まで教科書や実験室を通してしか科学に親しんでいなかったわけですが。でも,家庭という環境にどっぷり浸かることで「料理や掃除の中にも科学はあるじゃないか」と,ようやく気づきました。それは自分の中での科学に対する感覚が変わった大きなきっかけですね。

編:具体的にはどういうことでしょう?

内田:それまで,お勉強ばかりしていたせいか,自分にとっては一連の家事がきつかったんですね。でも,そこに科学の要素を見いだすと,楽しく感じる。このように自分にとって苦手な家事と科学を組み合わせたネタ,意外と面白いんじゃないかということで作ったのが『カソウケン(家庭科学総合研究所⁠⁠』です。

編:じゃあ,あれは単純に趣味の延長だったのですね。それにしてはかなりきれいな作りになっていますが。参考文献なんかもしっかり記載されていますし。

内田:ありがとうございます,そこは凝り性なので,いったん始めるとなると「既存のサイトとかぶらないように」と徹底リサーチしたり,デザインの入門書を参考にしたり,と。まさに趣味の延長なのに何をそこまで,という感じですが。

編:まさにそこでも⁠ハマッた⁠わけですね。

そして,糸井重里さんが主宰しているサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』にメールしてみたら,連載を一緒にすることになり,さらに本(⁠⁠カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ⁠⁠)も出ることになったと。ものすごくトントン拍子じゃないですか!

内田:いや,トントン拍子というのは結果があってこそですし,今の私のしょぼい状況では……うーん。とはいえ,いろんな出会いに恵まれてラッキーだった,とはつくづく感謝しています。

編:まず『ほぼ日』にメールを送ってみるという行動力がすごいです。

内田:あれは,夜中につれづれでネットサーフィンしていたときに「ほぼ日と一緒に何かしたい人はメール下さい」というページを見つけて,メールしてみたんですね。そしたら1時間くらいでお返事があり「このWebサイト,ほんとにお一人で作ってるんですか?」⁠何書きますか?」⁠じゃ,再来週から連載ということで」というびっくりの展開で。あ,これは確かにトントン拍子,ですね。

『カソウケン(家庭科学総合研究所)
へようこそ』⁠講談社)

『カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ』(講談社)

編:この「きっかけ」を聞いたとき,驚いたんですよ私。てっきり,もともとサイエンスコミュニケーションに近いお仕事をされていたとか,マスメディアとつながりのある方だと思っていたので。

内田:いえいえ,研究一色の生活を経て,家庭でしこしことサイト制作に励む生活を送っていました。

編:意外ですねえ。

著者プロフィール

内田麻理香(うちだまりか)

サイエンスコミュニケーター。東京大学工学部広報室特任研究員/東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程1年。身近な科学を伝えるために各種媒体で活動中。

URLhttp://www.kasoken.com/