春の星座13

13うみへび座

海蛇座

学 名
Hydra(略号 Hya)
英語名
The Water Snake
設 置
古代ギリシア
面 積
1303平方度

天体観測の見どころ

1星雲星団の観察

全天一の広さを持つ星座の割には、双眼鏡、望遠鏡の対象となる星雲星団はそれほど多くありません。しかしながら、散開星団(M48)、球状星団(M68)、系外銀河(M83)、惑星状星雲(NGC3242=木星状星雲)と、種類が異なる天体が分布しており、またどの天体も個性的で楽しめる観察対象です。

M48散開星団(=NGC2548)

  • 位置(分点2000.0)赤経08h13.8m,赤緯-05°48’ 視直径54’,等級5.8,星数80

うみへび座の西端、いっかくじゅう座との境界に近い位置にある大型の散開星団です。1771年にメシエが発見しましたが、赤緯を誤って記載したために、ながらく行方不明の天体となっていました。しかし、周辺の星の配置の記録から1934年に初めて3.5°南にあるNGC2548がM48である指摘がなされ、現在ではこの説が受け入れられています。

視直径は満月の2倍もあるとても大きな散開星団で、暗夜では肉眼でも存在が分かります。双眼鏡ではさらに素晴らしく、粒ぞろいの微光星がひしめき合う様子が分かります。望遠鏡では低倍率での観察がお勧めです。

M68球状星団(=NGC4590)

  • 位置(分点2000.0)赤経12h39.5m,赤緯-26°45’ 視直径12’,等級7.7,集中度(高1-低12)10

うみへび座の尾の位置にある、春には少ない球状星団の一つです。円盤状に密集していて、それが薄く均一に広がっており、なんだかぼんやりとした丸い星雲のように見えます。球状星団としては密集している割に中心部の集光があまりありません。こういった意味では球状星団の中ではユニークな部類に入るでしょう。

M83銀河(=NGC5236)

  • 位置(分点2000.0)赤経13h37.0m,赤緯-29°52’ 視直径15.5’x 13.0’,等級7.6,型SAB
右はウイリアム・ラッセルによるM83銀河のスケッチ。48インチ口径の望遠鏡を使ってスケッチされたもので、3本の腕が描かれています。(出典28)

系外銀河の観察対象として天体写真の被写体として、全天でも屈指の素晴らしい対象天体です。うみへび座の尾の先でケンタウルス座との境界に近いところに位置し、やや南に低いのが難点ですが、月のない春の夜にはぜひ観察しておきましょう。眼視的にはかなり明るい中心核が分かり、その周囲に淡い円盤が広がっています。口径10cmくらいからこの銀河が棒渦巻銀河であることが何とか分かります。

渦巻銀河の腕の存在は現在では常識となっていますが、M83は写真で撮影される以前にウイリアム・ラッセル(英)によりスケッチで渦状構造が初めて認められた銀河です。

NGC3242惑星状星雲 木星状星雲(Ghost of Jupiter)

  • 位置(分点2000.0)赤経10h24.8m,赤緯-18°38’ 視直径16”
  • 写真等級8.6,視等級7.8,中心星等級12.1

うみへび座のおなかの付近にある惑星状星雲としては大型の天体です。輝きが強いので月夜にもよく耐え、小望遠鏡でも一見にじんだ恒星状に楽に観察できます。眼視的にはとりとめもない繭のような緑色をした楕円形です。標準的な惑星状星雲は、酸素の出す緑色でこのように見えます。人の眼は緑色に感度が高いため、多くの惑星状星雲はデータ上の数値よりも明るく観察することができます。このNGC3242は、大きさと形状が似ていることから18世紀の天文学者ウィリアム・ヘンリー・スミスが、「木星そっくりだ」と評し、「木星状星雲」の愛称があります。海外では「Ghost of Jupiter(木星の亡霊)」と呼ばれていたのが日本にはこのように伝わったのでしょう。写真ではさらに中心星の存在や、内部の複雑な構造が分かります。

2重星の観察

F星(=HIP 42835)

  • 位置(分点2000.0)赤経08h43.7m,赤緯-07°14’
  • 主星4.7等,伴星8.2等,位置角310°,離角78.8”(2015年),スペクトルG1Ib

離角が大きく開いて愛らしい色合いの美しい、ぜひ望遠鏡を向けたい重星です。小望遠鏡向きの観察対象で、主星は明るい黄白色で伴星は際立って美しい青い色のペアです。

ε星

  • 位置(分点2000.0)赤経08h46.8m,赤緯+06°25’
  • 主星3.5等,伴星6.7等,位置角311°,離角2.9”(2020年),スペクトルF8V

かなり近接した重星で、光度差もあるため分離できるか挑戦してみたい重星です。黄白色の主星と薄紫色の伴星のペアです。この重星は、周期589年で公転する連星系となっており、現在は最も離角の小さな時期となっていますが、離角は大きく変化しない軌道となっています。

主星はさらに3.5等と5.0等の恒星で成る非常に近接した連星系です。2014年の離角はわずか0.4”ですから、この離角と光度差ではアマチュアには太刀打ちできません。

θ星

  • 位置(分点2000.0)赤経09h14.4m,赤緯+02°19’
  • 主星3.9等,伴星9.9等,位置角248°,離角20.9”(2019年),スペクトルB9.5V

離角は十分開いていますが、およそ6等もの光度差のある観察対象です。黄色の主星の傍らを注意深く探すと、消え入りそうな伴星を見つけられます。

τ1星

  • 位置(分点2000.0)赤経09h29.1m,赤緯-02°46’
  • 主星4.6等,伴星7.3等,位置角4°,離角67.5”(2016年),スペクトルF6V+K0

離角が広く光度差のある対象です。F星とよく似た印象があります。薄い黄色の主星と薄桃色の伴星のペアです。

N星(=HIP 56280)

  • 位置(分点2000.0)赤経11h32.3m,赤緯-29°16’
  • 主星5.6等,伴星5.7等,位置角210°,離角9.6”(2016年),スペクトルF8V+F8V

仲良く並んだ双子のようなペアです。このような対象は他にもありますが、どれも仲良しの兄弟のようで愛らしく観察できます。両星ともオレンジ色のペアです。

HN69星(=HIP 66398)

  • 位置(分点2000.0)赤経13h36.8m,赤緯-26°30’
  • 主星5.7等,伴星6.6等,位置角190°,離角10.2”(2015年),スペクトルA7III

重星として典型的なタイプでしょう。まずまずの離角があり、主星伴星とも黄白色です。ぜひ一度見ておきたい重星です。

54番星(=HIP 72197)

  • 位置(分点2000.0)赤経14h46.0m,赤緯-25°27’
  • 主星5.1等,伴星7.3等,位置角122°,離角8.1”(2015年),スペクトルF2V

この重星も重星の見本のような素晴らしい観察対象です。見て楽しく美しい黄色の主星と赤みがかった伴星のペアです。