著者の一言

本書は、旅行業界に就職しようとする学生や転職を考えている社会人向けに、旅行業界の解説書として企画されたものです。最近、学生から「旅行業界の仕事がわかりにくい」という声を聞くようになりました。旅行商品が店舗販売からオンライン販売にシフトして便利になった反面、旅行業の仕事が見えにくくなっていることが背景にあります。

他方、旅行業界で活躍する人からは「従来のやり方が通用しない」という声も聞かれます。訪日外国人が急増するなど、旅行業界は成長産業として期待される一方で、新しいビジネスモデルで参入する外国企業や異業種企業が入り乱れ、従来の正解が通用しない激動の時代に突入しているのです。

本書は、そうした荒波に揺れる旅行業界を見る目の解像度を上げ、航路を決める際の航海図のような役割を持ちます。その意味で、これから旅行業界を目指す人に複雑な業界を読み解く手がかりを示すことはもちろんで

すが、旅行業界で働く人にも自らの仕事を再発見し、生き抜く力を与えられるのではないかと期待しています。

本書の構成は、第1章から第5章で旅行業界の現状と旅行業務に必要な基本的な知識をおさえ、第6章と第7章では代表的な企業を類型ごとに紹介しています。第8章では成長著しいインバウンドビジネスを取り上げ、第9章では今後の旅行業界の課題と展望について説明します。特に重要だと思われる点は、図表を大きく用いている点も本書の特徴です。

著者2名の共通点は、旅行業界での実務経験を持つ大学教員であることです。本書では理解を深めるために、旅行業界で注目されている最先端の事例を多く取り上げています。しかし、事例の羅列にとどめず、長期的で体系化された観点からの解説も加えながら、実務と理論の相互作用による学びの深化を促すことを意識しています。また巻末には、観光を学べる大学、大学院、専門学校を紹介しています。本書が産業界と学術界のかけ橋となり、旅行業界の持続的発展に貢献できれば、これほど嬉しいことはありません。

それでは、出航の時間です。

鮫島 卓

鮫島卓(さめしまたく)

駒沢女子大学観光文化学部教授。鹿児島県生まれ。立教大学大学院博士前期課程修了(観光学)。大手旅行会社で海外・国内・訪日旅行のツアー企画のほか,経営企画,テーマパーク再生事業に従事。2018年より現職。専門は観光経済学,観光マーケティング。研究領域は,アグリツーリズモの集積と発展メカニズム,地場産業の観光によるイノベーション。文化庁有識者委員,旅と学びの協議会理事。世界80ヶ国訪問,「地球を遊び尽くす」がライフワーク。

秋山友志(あきやまともゆき)

横浜商科大学商学部観光マネジメント学科准教授,「自分と出会う旅工房」代表。神奈川県生まれ。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修士課程修了(MBA:経営学修士)。NPO職員,私立高校商業科の非常勤講師などを経て,大手旅行会社で法人団体営業(教育旅行)に従事。2012年に個人事業主として「自分と出会う旅工房」を開業。2013年より現職。研究領域は,観光まちづくり(特に着地型観光やまち歩き観光),観光教育,エコツーリズムなど。