DX特需の影に潜む⁠SIビジネスの危機とは

「DX特需が続く限り、弊社の業績は大丈夫!」

と思っているSIerは多いかもしれません。実際、DXに伴うとされる需要は留まることを知らず、IDC Japanは、2025年のIT市場規模を26兆6412億円と、前年から8.2%も増加すると予測しています[1]

しかし、この現状にあぐらをかいてはいけません。SIビジネスが今の「人月」収益モデルのままでは、遠からず存続が危うくなる――新著システムインテグレーション革命がまず描くのは、そんな未来予想です。

AIによって覆された、SIビジネスの大前提

「SIビジネスが危うい」と警告されるのは、今に始まった話ではありません。しかしこれまでとの違いは、大前提の「人月」ビジネスが、AIによって崩れ去ろうとしているという事実です。

これまでのSIerは、大規模なウォーターフォール開発を採用し、開発から運用までを一括して請け負うシステム開発などで成り立っていました。これらは多数の人員を必要とするため、そのための労働力=「人月」こそがSIerの収益を支えてきたのです。その後、クラウドが広く普及し、アジャイル開発、DevOps、クラウドネイティブなどの新技術や手法が普及するたび変革を迫られてきたSIerですが、人月を前提としたビジネスそのものが消えることはありませんでした。

しかし、2022年10月に登場したChatGPTやその後に続くAIサービスは、状況を一変させています。人間のコードを補完するだけに留まらず、要件定義からデプロイ、保守運用までAIが共創し、時には自動化する――こんな夢物語が現実になりつつある今、単純な労働力を提供する人月収益モデルそのものが、機能しなくなってきているのです。

もちろん、この変化は今すぐに起きるわけではありません。短期的には、従来の分業体制を維持し、それぞれの作業にAIを取り入れる流れが進んでいます。しかし、多くの作業をAIで代替できるうえ、AIに任せるほうが効率的に終わる現状においては、従来と同じ仕事量・単価での受注は、望めなくなってくるでしょう。

内製化の加速が示唆するSIerの終焉

ITビジネスの前提にAIが据えられるようになると、中長期的には、自社システムの内製化が一般的になってくると考えられます。

いまのITシステムは外注が基本で、DXといいつつ「⁠アナログ業務を、デジタルで代替する=デジタル化」を外注で進める企業も少なくありません。しかしDXで真に目指すべきは、⁠⁠ITを自社のコアに据え、ビジネスモデルや業務の仕組みを変革する」取り組みです。そして、AIをうまく使えば、自社IT人材の不足を補い、コアとなるITを外に任せずに内製で作ることも、不可能ではありません。内製化需要は以前から存在していましたが、AIの普及により、この動きは加速します。にもかかわらず、従来の人月ビジネスに固執していては、⁠DX需要そのものは変わらずあるのに、仕事が頼まれることはない」――そんな未来が訪れてしまうかもしれません。

だからこそ、今、静観している場合ではないのです。不可逆な時代の変化の中で、生き残る道筋を探らねばなりません。その唯一の道は、アジャイル開発、DevOps、クラウドネイティブ、AI駆動開発といったモダンITの前提を身に付けること、さらに、クライアントに先んじてAIを活用し「社会課題の解決をリードするイノベーター、クライアント企業の課題をともに解決する共創するパートナー」へと移行することです。

  • あらためて、SIerが向き合うべきDXとはなにか?
  • レガシーIT介護事業、内製化支援事,etc 未来が変わる5つの事業シナリオ
  • AI駆動開発を自社に浸透するための5ステップ

「SIerはもういらない」といわれる前に。SIer自身の変革を、本書から始めましょう。

村瀬光(むらせひかる)

令和元年入社。2025年現在は書籍第4編集部所属。ビジネス系、デザイン系を中心に企画・編集を担当。
𝕏: @cunlaiguang