AI活用⁠導入の前に⁠業務を「設計」していますか?

生成AIへの注目が高まり、⁠生成AIで業務効率化を実現したい」という需要が高まっています。しかし、導入したにもかかわらず「思ったような成果が出ない」という声が後を絶ちません。その原因の多くは、一体どこにあるのでしょうか。その原因は生成AIそのものではなく、実は生成AI導入以前の業務設計が上手くできていないことにあるかもしれません。

システム導入の「目的化」という罠

上述したような生成AIに対する需要の高まりから「AIを使った業務改善がしたい」という曖昧な指示が経営陣から出されるケースが増えています。しかし、AIの導入そのものがゴールになると、期待した効果は得られません。かつてのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ブームでも同様の問題がありました。

例えば、高額なシステムを導入したものの現場では使いづらいという理由で、結局エクセルに戻ってしまう事例が多数存在しました。あるいは、日々のメンテナンスが煩雑で、かえって担当者の負担が増えてしまったという事例もよく聞く内容です。これらに共通するNGポイントは、⁠既存の業務を改善することなくそのまま自動化しようとした」ことです。このように業務の流れを見直さないままツールを導入しても、根本的な改善にはつながりません。こうした考え方がシステム導入そのものを目的化させ、本来目指すべき業務全体の最適化を見失わせてしまうのです。

図1 業務は「点」ではなく「線」で考える

業務全体を最適化するためには、業務を正しく捉える必要があります。そして、これを実施するためには、3つの視点が欠かせません。それぞれの視点について簡単に解説します。現場の作業一つひとつを詳細に把握するのが、虫の目⁠、自分がどのような流れの中にいて、どの方向に向かうべきかを把握するのが魚の目⁠、そして高い位置から俯瞰して全体像を把握するのが鳥の目です。

AI導入においてよくある失敗は、⁠虫の目」だけで業務を見てしまうことです。業務とは、複数の処理や判断がつながった「線」で成り立っています。その中の1つの「点」だけを自動化しても、前後の処理が人の手に残れば、全体の効率はほとんど変わりません。たとえば、受発注業務全体の中で請求書の作成だけをAIで自動化したとしても、その前後の処理や確認作業が人の手に残れば、業務全体の効率はあまり変わらないのです。

また、担当者が長年対応してきた業務には、マニュアルには書かれていない「暗黙知」が多く存在します。担当者同士の阿吽の呼吸で成り立っている処理を、そのまま機械に置き換えることはできません。だからこそ、AI導入の前に「魚の目」で業務の流れを、⁠鳥の目」で全体像を把握し、どこに課題があるのかを明らかにする業務設計が不可欠なのです。

業務設計がもたらす3つの効果

業務設計が不可欠な理由は、次の3つの効果が得られる点にあります。

第1に、本当に解決すべき課題が明確になります。現場の声をヒアリングし、業務の流れを整理することで、AIを導入すべきポイントと、むしろ人が担うべき領域を見極めることができます。

第2に、導入後の運用がスムーズになります。業務の全体像を把握したうえでAIを組み込めば、現場の混乱を最小限に抑え、スピーディーに定着させることが可能です。

第3に、継続的な業務改善の土台ができます。業務設計は一度で終わるものではありません。業務の変化に応じて再設計を繰り返すことで、AIと人の最適な役割分担を常に更新し続けることができます。

AI活用の第1歩は「業務を知ること」

どれほど優れたAIも、業務に合った使い方をしなければ効果を発揮できません。現段階では生成AIやシステムも万能ではなく、それぞれに想定された利用ケースがあります。自分たちの業務に合わせてフルカスタマイズすると、多額の改修費用がかかるだけでなく、そのシステム本来の強みを消してしまう可能性もあるのです。

繰り返しますが、AIの導入を急ぐ前に、まず自社の業務プロセスを整理し、課題を明らかにする。そのひと手間がAI活用が成功するかどうかの成否を分けます。業務設計という土台づくりから始めることで、AIは単なる流行ではなく、持続的な成果を生み出す戦略的なパートナーとなるのです。

業務設計を体系的に学べる1冊業務設計の教科書

本記事で解説した業務設計の重要性をより深く理解し、実践につなげたい方におすすめしたいのが業務設計の教科書です。本書は、DXやAI導入の前に取り組みたい業務プロセスの設計や改善を体系的に学べる実用書です。近年、システム・AI導入やDX推進が目的化し、現場の非効率が温存されたままプロジェクトが進行してしまうケースが増加しています。本書は、デジタル技術を真の成果につなげるための土台、すなわち業務プロセスの構造化と再設計を体系的に解説しています。本書の特徴は大きく3つあります。

1つ目は、業務設計の基礎から継続的改善までを体系的に学べる点です。業務改善を単発の取り組みで終わらせず、組織能力として定着させるための道筋を、理論と本質的な思考法に基づいて解説しています。

2つ目は、現場主導で進める実践的なWORKINGシートを収録している点です。業務部門とシステム部門が共通認識を持ちながら、全体最適な業務プロセスを構築する方法を詳述しています。

3つ目は、架空の中堅メーカー『高山技研』のDXプロジェクトを舞台にしたストーリーで、理論の実践と定着を追体験できる点です。

「技術ありき」ではなく「業務ありき」の視点で業務変革、業務プロセスの見直しを進めたい方にとって、確かな指針となる1冊です。