開発現場を変える「デザインコラボレーション」いう戦略

現代のプロダクト開発の現場において、⁠デザイン」という言葉の意味合いは大きく変化しつつあります。かつては、デザイナーがPhotoshopやIllustratorで見た目を整え、完成したデータをエンジニアに渡して終わり……という一方通行のプロセスが一般的でした。しかし、アジャイル開発が主流となり、ユーザーのフィードバックを即座に反映させるスピード感が求められる現在、デザインはもはやデザイナー単独の作業ではなくなっています。

企画職、エンジニア、そしてデザイナーが職域を越えて緊密に連携し、1つのプロダクトを作り上げていく。このデザインコラボレーションこそが、成功するプロダクト開発の鍵を握っているのです。

デザインの現場に立ちはだかる「壁」

とはいえ、理想的なコラボレーションを実現するのは容易ではありません。現場では日々、コミュニケーションの齟齬や作業の非効率さといった課題が発生しています。

たとえば、デザインデータの管理。プロジェクトが長期化するにつれてファイルが乱立し、⁠どれが最新のデザインデータなのか分からない」⁠修正したはずの内容が反映されていない」といった混乱は、もはやありふれた風景かもしれません。こうした混乱から発生する小さなタイムロスの積み重ねが、チーム全体の生産性を大きく下げてしまいます。

あるいは、デザイナーとエンジニアの間にある言葉の壁。静止画のデザインカンプだけでは、デザイナーが意図した細かな挙動やアニメーションは伝わりません。⁠ふわっと表示させて」といった感覚的な言葉が技術的な仕様と噛み合わず手戻りが発生してしまうなど、身に覚えのある方もいらっしゃるでしょう。これは個人のスキル不足というよりも、共通言語やルールの欠如に起因する構造的な問題です。

ツール導入だけでは解決しない!

こうした課題を解決するためには、単に新しいツールを導入するだけでは不十分です。ツールをどう使いこなし、どんなルールで運用するかという「戦略」が必要なのです。

多くのチームがFigmaのようなツールを導入していますが、その機能を最大限に活かしきれている現場はまだ少ないのが実情です。目の前の作業に追われ、斧の刃を研ぐ時間を惜しんで、切れ味の悪い斧で木を切り続ける「木こりのジレンマ」に陥ってしまっているチームも多いかもしれません。

もしあなたが、チームの生産性を高め、職種の壁を越えたスムーズな連携を実現したいと考えているなら、ツールとしてのFigmaの使い方だけでなく、それを核としたチームビルディングやワークフローの設計そのものを見直す時期に来ているのかもしれません。

現場の知見をもとに「戦略」を身に付ける

そんな課題意識を持つリーダーやデザイナー、エンジニアの方々にぜひ手にとっていただきたい1冊が、Figmaではじめるデザインコラボレーションです。

本書は単なるFigmaの機能解説書ではありません。Figmaを「プロダクト開発のためのコラボレーションプラットフォーム」として捉え、チーム全体の生産性を最大化するための実践的なノウハウが凝縮された1冊です。

本書ではまず、コラボレーションの基礎となる「ファイル設計」について、誰もが迷わずにデータにアクセスできるディレクトリ構造や、プロジェクト管理を円滑にするサムネイルの活用法などが解説されます。これにより、⁠最新ファイルが不明」という問題を解決する糸口が見つかるはずです。

また、アイデア出しのフェーズにおいて、オンラインホワイトボードツールであるFigJamを活用し、チームメンバーの意見を引き出しながら合意形成を図る手法も紹介されています。デザイナーだけでなく、企画職やエンジニアも巻き込んだ議論の進め方は、チームの一体感を高めるために役立つことでしょう。

注目すべきは、エンジニアとの連携に焦点を当てた第4章です。実装を見据えたデザインデータの作り方や、Figmaの新機能である「Dev Mode」を活用したハンドオフの最適化など、デザイナーとエンジニアの摩擦を減らし、開発スピードを加速させるための具体的なテクニックが満載です。

さらに、最終章ではデザインシステムをチームの「共有財産」として運用していくための方法論も。デザイントークンの管理やコンポーネントの定義、ノンデザイナーにも分かりやすいガイドラインの整備など、デザインシステムを持続可能なものにするためのヒントが得られます。

本書は、デザイナーが自身のスキルを高めるためだけでなく、エンジニアやプロダクトマネージャーとともに読み、チーム全体の共通認識を作るための教科書として最適です。Figmaというツールを通して、より高品質なプロダクトを、より速く、そして楽しく創り上げていく。そんな理想的な開発チームへの第一歩を、本書とともに踏み出してみてはいかがでしょうか。