概要
世界大学ランキング1位のオックスフォード大学で日本人初の博士号取得した比較教育学・国際教育学の人気教授の集大成
VUCAの時代,グローバルに通用する力を磨くには?
世界のエリートに共通する「学びの型」を,世界大学ランキング1位のオックスフォード大学において日本人ではじめて博士号を取得した比較教育学・国際教育学の人気教授が集大成。
五感をフルに発揮してのインプット×アウトプットで学びの成果を最大化する方法を教えます。
こんな方におすすめ
- 試験対策にとどまらない本質的な学力を身につけたい方
- 国際社会でも通じる基礎を身につけたい人
著者から一言
「学びの呼吸」が日本人を変える
「授業が難しくてわかりません」
「論文がうまく書けません」
「なにを学びたいのか,わかりません」
私は20年以上にわたって大学で教えていますが,毎年のように学生からこうした相談を受けます。学生たちは就活やクラブ活動,アルバイト,友達や恋人との関係でも悩むことが多いですが,「学問」をすることになると,頭が混乱して思考停止してしまうのでしょう。
つまらない,つらい,しんどい,面倒くさい,やりたくない……
「学ぶ」と聞くと,すぐ学校の「勉強」をイメージしてしまう方も多いのではないでしょうか。日本の子どもたちは,物心ついたころから受験勉強に追われ,「いつもいい成績をとらなければならない」「希望する学校に絶対合格しなければ」など,強いプレッシャーのなかに置かれています。こうした記憶が大人になっても強く印象に残っているため,勉強が嫌いになっているのです。また,従来の日本では,ただ知識を「詰め込み」,試験で1つの答えを出す人材育成が中心でした。だから,日本人はどんなに素晴らしく楽しいことでも,「学ぶ」という言葉が出てくると,とたんに拒絶反応を起こしてしまいます。ですが,これは本来の「学び」のあり方を知らない状態なのです。「学ぶ」ことが,人生のあらゆる営みの基礎になっている,にもかかわらず……。
学び方を変えれば,学びは楽しくなる ~比較教育学との出会い
私は日本の大学を卒業した後,米国のニューヨーク大学に留学し,異文化間教育やコミュニケーション学を専攻しました。その後は英国の名門,オックスフォード大学教育学大学院に留学し,日本人で初の教育学博士取得者になりました。現在は,東京外国語大学で20年以上にわたって,日本人学生と30か国以上の国々からやってくる留学生を教えています。また,2015年にはユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの客員教授として,世界の最新の教育政策について研究する機会を持ちました。
私が学ぶことが「楽しい」と感じたのは,長期にわたる海外留学の経験の中で,さまざまなバックグラウンドをもった世界のエリート学生や研究者たちといっしょに学ぶ経験をしたころからです。そして,オックスフォード大学で比較教育学との出会ったことが,「どうしたら学びが楽しくなるのだろうか?」と考えはじめるきっかけになりました。
比較教育学は,自国と他国の教育に関するさまざまな現象や問題を比較しながら分析し,共通点や相違点を発見する学問です。世界で共通する教育の営みがわかる一方で,国によって特殊性が見られる場合は,なぜそうなるのか,理由を明らかにします。
私にとって,オックスフォード大学の比較教育学の授業は学び方がとても斬新で,すべてが驚きの連続でした。たとえば,ある学生が「わたしの国ではいじめの問題は制度改革で対処しています」とどんどん自分の意見を述べます。その内容や話し方がわかりやすく,まわりの人たちは最後まで真剣に聞き入っています。聞き手を飽きさせない伝え方に長けているのでしょう。
また,オックスフォード大学では教授が一方的に話す授業は少なく,学生同士のディスカッションが基本で,みんなが自分で積極的に知識を取り込んでいきます。1人の学生が自分の意見を言うと,どこからともなくそれに反論する声が上がり,またそれに別の意見が重なる。比較教育学が,教科書だけではなく,実際の学びの雰囲気の中で心身に染みわたる感覚でした。
ある日の休み時間に,クラスメートたちに「どうしてそんなに楽しそうに勉強ができるのか」と質問してみました。すると,「自身の考えをみんなに話せるから」「教科書ではなく生きた知識を得られるのがうれしいから」そして「自分の学び方に自信があるから」といった答えが返ってきたことを今でも鮮明にお覚えています。
じつは,私自身も日本にいたときはそのような「学び」の楽しさを知らずにいました。日本の受け身型の教育が苦手で,けっして勉強がよくできる優等生タイプではありません(今もです)。学校の成績は平均レベルで,好きだったスポーツやバンド活動以外は勉強嫌いの「ちょい悪生徒」でした。
ですので,私は日本の勉強,すなわち「学び」が退屈でつまらないと感じる人の気持ちがわかります。学生は高校までの暗記型の学習に慣れているので,大学に入ると「どこがわからないのか?」「どこでつまずいているのか?」がよくわかります。かつての自分ように同じ学びのポイントで悩んでいる人たちに「それはこのように学んだらいいですよ」とアドバイスをして,「なるほど,このような学び方があるんだ!」と思ってもらえたとき,比較教育学を専門としていてよかったとうれしく思います。
同時に,こう考えました。
「日本の教育とは違った学習の仕方,世界で認められている学び方を,みんなが身につければいいのになあ。そうすれば,楽しんで,積極的に学べる!」
学びは「呼吸」
世界大学トップランキング校の学生や,優秀なビジネスパーソンには,何らかの「学び方」や「日常の習慣」「心構え」のようなものがあるのではないか。改めて整理してみると,グローバル人材を目指す人がまず身につけるべき学び方やスキルは,じつはとても身近なところにあることがわかりました。それは,大きく分けて4つのポイントに整理できます。
①五感をフルに発揮して「自己鍛錬」を心がける
②学びにおける「毎日の成長」を強く意識する
③人との「絆」を大切にする
④グローバルな感覚を身につける努力をする
これらは,日本でも優れた人物が昔から大切にしてきた学び方ではないかと思います。
そして,その共通点の1つ1つは,能力や経験に関係なく,ちょっとした工夫と習慣次第でマネできるものばかりでした。そのエッセンスをひと言でいえば,「学びの呼吸」をマスターするということです。
私たち人間は,「呼吸」をしなければ生きていくことができません。普段,意識することはほとんどありませんが,呼吸は「吸う息」と「吐く息」が常にワンセットです。「学び」も呼吸と同じようなものです。すなわち,知識を空気に例えるなら,知識を獲得すること(インプット),そして,得た知識を外に出すこと(アウトプット)が,いつもワンセットでなければならないのです。
本書では,前述の4つのポイントを次の9つのエッセンスに分類して,具体的にどのような学び方で身につけるのかをまとめています。
- 観察する
- 傾聴する
- 思考する
- 模倣する
- 記述する
- 意見する
- 質問する
- 批判する
- パフォーマンスする
「学びの呼吸」で積極的に学習するようになる
私の比較教育学ゼミでは,常に「学びの呼吸」を意識した取り組みを心がけています。そうすることで,単に教科書の知識を講義形式で教えるよりも,学生たちが積極的に学習に取り組むようになりました。
たとえば,記憶しておかなければならない大切なポイントについては,「この知識をレポートではなく,ロールプレーで表現してみてください」と指示します。本書のなかでくわしく説明しますが,ロールプレーとはあるシチュエーションを想定して役割を演じる,つまり芝居形式で発表し,学びを深めていく方法です。教室にいる全員,知識が頭の中だけではなく,全身に染み込むように伝わり,記憶されていきます。
クリティカルシンキングの授業では,学生をAとBのペアにして相互に批判させるタスクをとり入れています。対面形式で,Aさんには「教育についての自分の定義を述べてください」と指示し,次にBさんには「Aさんの意見になんでもいいので批判してください」と伝え,15分間やりとりしてもらいます。最初は戸惑い,照れくさそうにしている学生たちも,回数を重ねるたびに自然とコツをつかんで,楽しんで批判し合うようになります。その光景は,まるで生き物の「呼吸」のように,自然に繰り返すことで生命エネルギーを保っているかのようです。このタスクの背景には,欧米の大学では相互批判することによって2人の意見がスタート地点よりもさらに高いレベルに「止揚」(「合わさって昇る」というような意味)するという考えがあります。
また,クリティカルシンキングの心得として,ただ批判するだけではなく,「相手の眼をしっかり見る」「ジェスチャーを入れる」など非言語的な要素や,相手が答えに困ったときには「自分なりの対案もあわせて伝える」といった討論の規則,「ゲーム感覚で楽しむ」など心の持ち方についても教えます。これは,オックスフォード大学の伝統的な「チュートリアル」(討論型学習)をとり入れた教育法です。
学生たちは,私が比較教育学について説明するのをただ黙って聞いているのではなく,「学びの呼吸」を通じてどんな問題でも集中して考え,全身をもって理解を進めます。それまでちゃんと理解できていなかった複雑な知識もすっきり頭の中で整理され,かつ自分の考えに変えて,まわりに伝えるようになっていくのです。
しかも,授業が終わってしばらくした後で学生が研究室にやってきて,「まださっきのゼミの余韻が残っています」と興奮気味に言ってくれたりします。卒業生の中には,「先生の授業で学んだことを,今仕事で実践しています」と言ってくれる人もいます。教職に就いている者として,最もうれしいことです。
おかげさまで,現在私のゼミは大学院,学部,そして研究生を含めると最大100名の学生が所属する,東外大で最も大きな,人気のある学びの場になりました。私のゼミでは在学中に留学することを強く推奨していますが,それは世界の「学びの呼吸」を体験し,そして試してきてほしいからです。ゼミに入ってきたときは静かな学生も,卒業するころには見違えるように成長します。卒業生は,Googleなど国内外の大手企業をはじめ,官庁や国際機関,教師,海外の大学院に進学する方が多いです。大学の同僚たちからは「岡田さんのゼミには元気のある学生が多いですね!」と言われるのですが,その由縁でしょう。
学び方が人生を変える
こうした授業での実践を繰り返しながら,改めて確信しました。
今まで知らなかった「学びの呼吸」を知るから楽しい。
楽しいから,学ぶことへのモチベーションが上がる。
本書で取り上げるさまざまな「学びの呼吸」のエッセンスは,勉強だけでなく仕事や趣味などにも波及効果をもたらし,人生を豊かにします。何かを学ぶ時の「呼吸」を身につけると,幸福感を感じるのです。「こんなにも人の学びの姿勢が変わるのか……」と,じつは私自身がびっくりするぐらいです。
1人でも多くの読者の方に世界で通用する学び方を身につけてもらい,人生に楽しみを感じてほしい――そう考えてこの本を書くことにしました。本書は,私が留学時代から現在に至るまで30年かけて練り上げてきた「学び方」のスキルの集大成で,どれも私が常に意識して学生に伝えている内容です。自分でまとめた内容ですが,自身で常に参考にする「学び方」の教科書です。
本書で扱う「学びの呼吸」は,「勉強法」や「暗記法のテクニック」など受験対策ではありません。もっと深く,もっと汎用的で重要な学び方の極意を,比較教育学の観点から解説し,世界に通用する人材に必要な基本的な学びの姿勢を身につけていただくものです。
学びに優秀さは必要でありません。地頭の良し悪しも,運動神経や芸術的センスも関係ありません。それぞれが五感を活かした学び方の「型」を身につければいいのです。
そして,日常生活のなかで繰り返し練習することで,習慣になっていきます。そのとき,あなたの人生は大きく変わることを確信しています。