Ubuntu Weekly Recipe

第477回 Debian 9 "Stretch"がやってきた!

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今回はUbuntuの母である「Debian」の新しいリリース「Debian 9 "Stretch"」について紹介します。

DebianとUbuntuのただならない関係

Debian Projectはフリーソフトウェアで構成されたオペレーティングシステムを作るための個人の集団であり,OSとしてのDebianはその成果物です。1993年8月のプロジェクト発足から20年以上の長きにわたって品質の高いOSをリリースし続けている,Linuxディストリビューション界の重鎮です※1)⁠Debianから派生したディストリビューションも多く,たとえば1999年にはDebian派生ディストリビューションとしてはもっとも初期の部類になるCorel LinuxLibranetがリリースされています※2)⁠この2つはどちらも「かんたんにLinuxデスクトップをインストールできる」ことに主眼を置いた商用ディストリビューションであることも興味深いですね。

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本連載の第431回では,1994年の1月に公開された初期のテスト版「Debian 0.91」をインストールする方法を紹介しています。Debian Project草創期の遺風を感じ取りたいならぜひチャレンジしてください。
※2
Linuxディストリビューションの系譜についてはLinux Distribution Timelineが作っている画像Wikipedaにアップロードされた16.12版を参考にしました。これを見ると,Corel Linuxなどがリリースされた1999年の時点で,Debianよりは後発のRed Hatはすでに数多くの派生ディストリビューションが存在していたようです。たとえばVine Linuxの1.0はCorel Linuxよりも前の1999年3月にリリースされています。

本連載のメインテーマであるUbuntuもまた「かんたんにLinuxデスクトップをインストールできる」ことを目標のひとつに据えた,Deiban派生のLinuxディストリビューションです。Debianの開発者でもあったMark Shuttleworthが,市販のPCにインストールされるOSの「もうひとつの選択肢」として,よりユーザーにとって使いやすく,インストールの手間が少なく,最新のソフトウェアを揃えたディストリビューションを作るためにたちあげたOSです。Ubuntuは単にDebianから分離したわけではなく,Debianと成果を交換できるような開発フローを構築しています。Linuxディストリビューションのキモとも言うべきパッケージングシステムはDebianと同じdpkg/APTを採用し,Ubuntuによる変更点は原則としてDebianのソースパッケージに対するパッチとしてアーカイブしています※3)⁠Ubuntu側は半年のリリースのたびに,Debianの最新のパッケージリポジトリーをもとにリベースし,Ubuntu独自のパッチを適用しなおし,バイナリパッケージを再構築しています。このためDebianの開発版との差分が小さくなり,Debianの開発者が容易にUbuntu独自のパッチを取り込めるようになっています※4)⁠

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残念ながらあくまで原則であって,⁠例外」も多いのが実情です。
※4
残念ながらあくまで理想であって,⁠例外」も多いのが実情です。

Debianは「選択の自由」も重要視しています。同じような機能を提供する異なるフリーソフトウェアについて,⁠どちらかを採用する」のではなく「どちらか好きなほうを選択できるようにする」わけです。ただし重要なコンポーネントについては「何も選択しなかったとき」のために「標準の状態」ことを考えておく必要があります。UbuntuもまたDebianの成果物を流用している以上,⁠選択できる」状況にはなっています。ただし対象ユーザー層とリリースの頻度を勘案して,Ubuntuはより広範囲のコンポーネントについて「標準の状態」を決め打ちし,その「標準の状態」を前提としてインストーラーや設定ツールを作りこんでいます。この違いが多くの人にとってUbuntuが「かんたん」と感じる理由のひとつであり,人によってはUbuntuが「使いにくい」と感じる原因でもあります。

言い換えると,いろいろとカスタマイズして標準設定から変えたいタイプの人であれば,UbuntuよりもDebianのほうが性に合うかもしれません。もちろん「Deiban系」以外も考慮に入れれば,さらにたくさんの選択肢が存在します。

いかした「タコ」の彼女

そんなDebian Projectが2017年6月に2年ごしの新しいリリースDebian 9 "Stretch"をリリースしました。

  • 今回のリリースでは10種類のコンピューターアーキテクチャーを正式サポート:AMD64/Intel 64のamd64IA-32のi386ARM向けとして32bit EABI ARMのarmelHard Float ABIなarmhfAArch64のarm64IBM z Systemsなどがターゲットのs390x64bit版PowerPCのppc64el(32bit版のpowerpcはサポート対象から削除)⁠MIPS向けとして32bitビッグエンディアンのmipsリトルエンディアンのmipsel今回新規に追加された64bit向けmips64el
  • Debian 9へのアップグレードによってMySQLのパッケージがMariaDBに置き換わります。MySQL 5.5もしくは5.6を使っていた場合,自動的にMariaDB 10.1に変わります。またDebian 9でmysql-serverパッケージをインストールしたら,MariaDBがインストールされることになります。一応sid(unstable)ではMySQLパッケージ(MySQL 5.7)はメンテナンスされ続けます。ちなみにUbuntuの場合は,事情が異なります。
  • Firefoxの商標とロゴに関する「問題」が解消し,Iceweasel(とIcedove)の名前やロゴはFirefox(とThunderbird)へと戻ります。といっても一部のリソースファイルが置き換わるだけなので,ただブラウザーとして使っているだけのユーザーには影響しないでしょう。商標関連の詳細はLWN.netDebianのチケットがわかりやすいです。ちなみにDebianのFirefoxパッケージはFirefox ESRを採用しています。
  • リリースアナウンスに載っているメジャーなデスクトップ環境だとGNOME 3.22,KDE Frameworks 5.28/Plasma 5.8/Applications 16.08(PIMのみ16.04)⁠MATE 1.16,Xfce 4.12などを用意しています。昨年末のTransition Freezeから今年初めのFull Freezeあたりの最新版がだいたい出揃っている感じです。
  • これまでgnupg2パッケージとして提供していたGnuPGの「modern(2.1)⁠ブランチが,gnupgパッケージ/usr/bin/gpgとして提供されるようになりました。新しいGnuPGでは,楕円曲線暗号などの新しい方式に加えて,古くて弱くなった機能の削除など多くの変更が行われています。どうしても古い「classic(1.4)⁠ブランチが必要な場合はgnupg1パッケージを使ってください。ちなみにUbuntuは以前より「stable(2.0)⁠に移行済みで,16.10の時点で「modern(2.1)⁠に移行しました。modernとclassicの違いについてはメンテナーの解説が参考になるでしょう。
  • Xorgサーバーをrootではなく一般ユーザーで起動できるようになりました。ただし特定の条件下ではroot権限が必要になります。
  • 32bit UEFI環境から64bitカーネルを使ってインストールできるようになりました。さらにLiveイメージでもUEFIブートが可能になっています※5)⁠
  • ネットワークインターフェース名がファームウェアやBIOSなどのハードウェアの情報をもとに命名されるようになりました。
※5
残念ながら通常のインストーラーも含めて,いずれのケースでもSecure Bootには未対応です。ただし将来的なポイントリリースでの対応が予定されています。

DebianはUbuntuとは違って,毎回きちんと目立った注意点を網羅しているリリースノートをサポートアーキテクチャーごとに用意しています。日本語にも翻訳されていますし,上記以外にも使用にあたっての注意事項が記載されていますので,アップグレードの際はもちろんのこと新規インストール時にも一通り読んでおくと良いでしょう。

著者プロフィール

柴田充也(しばたみつや)

Ubuntu Japanese Team Member株式会社 創夢所属。数年前にLaunchpad上でStellariumの翻訳をしたことがきっかけで,Ubuntuの翻訳にも関わるようになりました。

コメント

  • root パスワード

    インストールのときrootパスワードを入れると、userがsudoerに登録されず、またrootアカウントもロックされていて、ソフトのインストールができず、ニッチもサッチもいかなくなりました。
    もちろん設定ファイルの変更もできませんでした。

    Commented : #1  白川 利昭 (2017/06/30, 13:25)

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