たのしいインフラの歩き方

[表紙]たのしいインフラの歩き方

紙版発売
電子版発売

A5判/672ページ

定価3,520円(本体3,200円+税10%)

ISBN 978-4-7741-7603-1

電子版

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この本の概要

ITの根幹を支えるインフラを切り盛りするには、いつ・どこで・なにを・どのようにしていくべきか?

アプリケーションエンジニアからインフラエンジニアに転身し、小規模なスタートアップから大規模まで幅広い経験を積んだ著者が、十数年で培ったノウハウを集大成。インフラに向き合うための心構え、ネットワーク設計などの基礎知識、最新のクラウド活用法はもちろんのこと、組織の規模別に求められること、引っ越しやコスト削減などのイベントに対処するための考え方など実践的な知識を1冊に詰め込みました。

こんな方におすすめ

  • インフラの担当をまかされたエンジニア
  • インフラエンジニアを目指す方
  • 経営者

著者の一言

私の名前は外道父,ドリコムというIT企業に所属するインフラエンジニアです。

インフラエンジニアという人種は,業種に関わらず多くの企業にとって重要な役割を担いますが,彼らがいったい何をして飯を食っているか,イメージが湧くでしょうか?

所属企業によって違いはあれど,大雑把には,インターネット/イントラネット/データセンターと場所を問わず,ハードウェア/ネットワーク/OS/ミドルウェアあたりまで幅広く扱い,不定期に深夜作業や肉体労働を伴う,縁の下の便利屋と言えるでしょう。

これでもまだイメージは湧かないかもしれません。そして,「なにかとにかく大変そうな職種だ」と思うかもしれません。自分自身,そう思っていた時代がありました。私がアプリケーションエンジニアだった当時,そこにいた唯一のインフラエンジニアに,こう問われたことがあります。

「ねぇ,インフラやってみない? 楽しいよ!」

それに対し,私は半分ひきつりながら即答しました。

「い,いや,つまンなさそうだからイイッス」

思い返せばその時,インフラとは何なのかすらよくわからずに返事をしています。なんという愚かなことをしたのでしょう! 聞くだけはタダなのに,興味がないどころか嫌悪感を抱いています。そんな私も,今では立派なインフラエンジニアとして組織を支えています。

私がアプリケーションエンジニアからインフラエンジニアに移り変わった経緯は,決して前向きなものではありません。先輩の下でアプリを開発するところから始まり,いつしか1つのサービスを1人で作って運用するようになり,サーバの調達から設置まで行い,多くのトラブルを乗り越えた頃には,広範囲の知識と自信が身についていました。ちょうどその頃,組織の規模が拡大し,インフラの専門家を増やす必要が出てきたため,当時インフラを見ることができた数少ない人員のうち,私が担当することになったのです。それ以来,ずっとインフラを軸に活動しています。「自分が希望した」というよりは,「必要に応じて,淡々と技術力を身につけた」という感触が強くあります。

誤解がないように書いておきますが,今現在,私自身はインフラエンジニアという職種を楽しんでやっています。インフラを軸にしてから9年以上も続いているのは,まちがいなく楽しいからなのですが,人にインフラエンジニアについて語る時はまず,こう言います。

「サービスを作るほうが確実に楽しいよ。目に見えるから」
「インフラをやるにしても,その上で動くアプリケーションを知ってからがいいよ」

私は今でもたまに社内ツールを作ったり,スクリプトを書いたりしますが,ハッキリ言って,コーディングは深夜でも楽しく,夢中に取り組んでしまいます。しかし,インフラ構築なんて,深夜やってる=解決しなくてイライラしていることがほとんどです。楽しんでいる時間は,圧倒的にサービス作成のほうが長いのです。

インフラで苦しいのは,携わる機会が少なく,知識と経験を得難いところです。楽しい楽しい新規サービスに関わる人数は,1人か,せいぜい数人。そもそも,「少人数での構築と運用が可能になっているべきである」という考え方もあります。一方で,少人数でありながら,最も重要な責任を負っています。サービスは,企画/デザイン/アプリケーション/カスタマーサポート/インフラなど,すべてがそろってなんぼですが,土台となるインフラがダメならサービスの良し悪し以前の問題です。さらに,費用面でも利益を圧迫する可能性を秘めているという,なかなか重い役割となっています。

それでも,「インフラに取り組む価値がある」と自信を持って言えるメリットが3つあります。1つ目は,知識が広範囲にわたるため,飽きないこと。2つ目は,まっさらな新しい技術に挑戦できる機会が多いこと。そして3つ目は,希少価値のあるエンジニアになれることです。

どの分野のエンジニアでも,自分の武器をより深く掘り下げたり,近しい技術をかじったり,より浅く広く知識を拡げることは欠かせません。そこで,これから長くインフラに携わるであろう方のスタートダッシュのために,インフラ方面の知識・経験に不安を抱いている方の心のスキマを埋めるために,ITに携わるすべての方々のために,少しでも役立てていただければという想いから,私がドリコムという組織にて十数年で培った経験を共有させていただきます。

私は,ドリコムという会社がまだ,ネズミが出現する1軒のボロ屋を根城にしたクソベンチャーだった頃に参画しました。未熟だった自分は,幸運にも,会社の成長とともに機会にまみれて叩き上げられました。その成長過程とともに,泥まみれから清楚なエンジニアリングまでを思い起こし,かつ時代に合わせた形で,ツマらなく見えるインフラをできるだけ楽しく見えるよう,ここに記録します。

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責任重大,膨大な必須知識,不定期の深夜作業や肉体労働――そんな苦しさを上回るインフラの魅力とは?
Webサービスが華々しい実績とともに紹介されるのをよく目にしますが,その裏側で大きな問題が起きることはめずらしくありません。

著者プロフィール

齊藤雄介(外道父)(さいとうゆうすけ)

株式会社ドリコムに在籍14年目のインフラエンジニア。
大学からパソコンに触れ始め,機械工学部に所属。趣味でWebアプリケーション作成を続け,1年が過ぎるころに,ベンチャー企業であるドリコムにアルバイトとして参加。エンジニアリングが楽しすぎて,その夏には退学&就職。
ドリコムではアプリケーションエンジニアとして約5年を過ごし,手がけたサービスの多くで単独での開発・運用を経験。組織事情からインフラエンジニアに転身し,データセンターの構築,ミドルウェアの研究・運用,アプリケーションのリファクタリング,人材育成から,サービス品質のレビューまで,さまざまな仕事をこなす。
学生が十数人というベンチャー企業から,社員が数百人の大企業になるまでの14年という長い期間,技術的にも経営的にも荒波を乗り越え続け,泥臭いエンジニアリングから,近代的なシステムづくりまで,組織の成長と時代に合わせて,技術力を磨き続けてきた。
一度構築したシステムはできるだけ手がかからないように仕上げ,息子と戯れる時間を確保することが,仕事と家庭を両立する秘訣である。

ブログ:http://blog.father.gedow.net
Twitter:@GedowFather