ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第4回 盗作しても著作権侵害にはならない?-「アイデア」と「表現」の分かれ目

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「表現」「アイデア」の境界

(2)
私が経営する学習塾では,短時間で問題が解ける独自の数学の解法を編み出すことに力を入れており,生徒に配布するテキストの問題解説の中でも,そのような解法がフルに使われています。ところが,最近,何人かの講師が独立して新たに塾を立ち上げ,私の塾で使用していた解法を使ったテキストを生徒に配っていることが判明しました。採録されている問題は,私の塾で使っているものとは異なりますが,これって著作権的にはどうなのでしょうか?
(3)
A社が発売を開始したスケジュール管理ソフトが非常に使いやすいと評判になったので,自社でもそれを参考に新しいソフトウェアを試作しました。開発者の感触は良かったのですが,上司に製品化の許可を取ろうとしたら,⁠これはA社の著作権を侵害するからダメなんじゃないか?」とストップをかけられています。確かに,当社の試作品とA社のものとでは,表示画面の構成や入力項目等に共通するところはあるのですが,具体的な画面のレイアウトやアイコンの形状,背景画像等は当社が独自に作成したものです。それでもA社の著作権に引っかかってしまうのでしょうか?

上に挙げたような,自然科学・社会科学系の論文・解説書や,ビジネスソフトウェアのユーザーインターフェイスをはじめとする機能的な創作物(他には地図や設計図など)の類似性をめぐってトラブルになる事例は,決して少なくありません。

小説や音楽等とは異なり,これらの創作物の場合,性質上表現方法に一定の枠がはめられることから,そもそも「著作物」としての創作性を欠く,とされることも多いのですが,利用する側としては,僅かでも表現の方法に選択の余地が認められるものであれば,一応は,言語,あるいは美術,図形といったジャンルに属する「著作物」として保護される可能性があると考えるのが無難です。

しかし,実際にこれらの創作物に関するトラブルが裁判所に持ち込まれた場合の裁判所の反応は,決して著作者に優しいものではありません。

例えば,数理科学論文の著作権侵害の有無が争点になった事例では,

数学に関する著作物の著作権者は,そこで提示した命題の解明過程及びこれを説明するために使用した方程式については,著作権法上の保護を受けることができないものと解するのが相当である。一般に,科学についての出版の目的は,それに含まれる実用的知見を一般に伝達し,他の学者等をして,これを更に展開する機会を与えるところにあるが,この展開が著作権侵害となるとすれば,右の目的は達せられないことになり,科学に属する学問分野である数学に関しても,その著作物に表現された,方程式の展開を含む命題の解明過程などを前提にして,更にそれを発展させることができないことになる。このような解明過程は,その著作物の思想(アイデア)そのものであると考えられ,命題の解明過程の表現形式に創作性が認められる場合に,そこに著作権法上の権利を主張することは別としても解明過程そのものは著作権法上の著作物に該当しないものと解される。

大阪高裁平成6年2月25日判決

として,原告(控訴人)の主張を退けていますし,ビジネスソフトウェアの表示画面の類似性が実際に問題となった事例でも,

既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない(注:翻案についても同趣旨)

東京地裁平成14年9月5日判決

として,画面構成や入力項目の配置等が共通していることを認めつつも,原告の著作権侵害等の主張を退けています。

たとえ学術論文やビジネスソフトの表示画面の話であっても,オリジナルを創作した著作者であれば,書かれている内容やデザインコンセプトが共通性した「著作物」が出てきたら,⁠盗作だ!」⁠盗用だ!」と声を上げたくなることも多いことでしょう。

しかし,数理科学論文に関する判決が指摘しているように,この種の「著作物」について,⁠表現」の背後にある「アイデア」にまで著作権による制約を及ぼしてしまうと,本来想定されていた以上の⁠弊害⁠(学説の独占や,本来特許等,別の権利で保護すべき技術思想の独占等)をもたらす恐れがあることは否定できません。

そこで,この種の「著作物」においては,内容的にある程度共通性が認められる場合でも具体的な「表現」が異なっていれば著作権侵害が否定される,という結論が導かれやすくなります。

上に挙げた例でいえば,(2)については,⁠解法」というアイデアが共通していても,それをあてはめる問題が異なれば,テキストに記載される具体的な「表現」は当然に異なってくるでしょうから,テキストそのものについて著作権侵害を主張することは難しい,ということになりそうですし,(3)についても,表示画面が寸分違わず同じものになっている(デッドコピーされている)場合ででもなければ,上司の方の心配は杞憂に終わりそうです(実際,上記東京地裁判決では,侵害が成立するのは「デッドコピー」等のごく限られた場合のみである,という趣旨のことも述べられています)⁠

それでは,⁠表現」に様々な選択肢がある文学,芸術といったジャンルの「著作物」についてはどのように考えるべきでしょうか?

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。

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