ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識

第7回 保護期間延長論争の陰にある現実

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著作権は消えても権利は残る?

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長年にわたり国民的人気を誇っているキャラクター「M」の著作権が保護期間満了によって消滅した,というニュースを見かけたY社宣伝部所属のCさんは,⁠M」を一部改変した自社オリジナルキャラクターを新たに製作することを思いつきました。

しかし,広告代理店Z社に打診したところ,同社の担当者は,⁠○○○(Mの創作者の著作権を管理するプロダクション)が怒るからやめておいた方がいいですよ」と難色を示しました。 法務部に相談に来たCさんは,パブリックドメイン』になっている著作物を使うのがなぜいけないんだ,代理店を替えてでもこの話を進めたい」と憤っているのですが…。

一般的な解説書等では,著作権の保護期間が満了した著作物は「パブリックドメイン」⁠公共財)となり,誰でも自由に利用することができるようになる,とされています。

しかし,現実はそう単純なものではありません。

まず,著作権法上は,著作者の死後も「著作者人格権第5回参照)の侵害となるべき行為」を禁止する,という規定が設けられています。

著作物を公衆に提供し,又は提示する者は,その著作物の著作者が存しなくなった後においても,著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし,その行為の性質及び程度,社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は,この限りでない。

第60条(著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護)

上の条文を見る限り,著作者人格権侵害行為が禁止される期間に制限はありませんから,理屈の上では著作権保護期間の満了後(著作者の死後50年経過後)も,著作物の利用行為に何らかのペナルティが課される可能性があります。

違反した場合に差し止め等を行うことができる請求権者が限られていること(時間的制限なく請求権を行使できるのは二親等以内の親族に限られる)や,ただし書きの存在ゆえ,実際上の制約は大きくない,という見解もありますが,上記規定に違反した場合は,著作者の遺族による差止等の請求を受ける可能性があり,しかも,場合によっては刑事罰まで受ける可能性があることを考えると,著作物が「パブリックドメイン」になったからといって,迂闊に改変等を加えることは憚られます。

また,ここでもう一つ気をつけなければいけないのは,知的財産を保護しているのは「著作権」だけではない,ということです。

例えば,(2)の事例で,⁠M」の著作権者,あるいは著作権者からライセンスを受けて「M」を使用している会社が,⁠M」のデザインを商標登録していた場合には,商標権の効力により,⁠M」と類似したマークの使用は禁止されることになりますし,⁠M」がY社の同業者のイメージキャラクターとして長年使用されているような場合であれば,不正競争防止法上の問題も出てきます。

個人が趣味として楽しむ場合であればともかく,営利事業者が事業の一環として用いる場合には,⁠パブリックドメイン」になったコンテンツといえども気安く使用することはなかなか難しい,ということになります。

商標権は,権利者が一定期間,営業上の「標識」として特定の商標を使用することにより付加される無形のブランドや信用を保護する権利ですから,権利者が使用し続ける間は無制限に更新し続けることが可能です。また,著作物として誰もが利用できる状態にあるとしても,それを用いることによって,第三者が手がけている事業との混同が生じてしまうのであれば,実質的にも,使用が制約されるのはやむを得ない,ということになると思われます。

なお,保護期間が満了した後であっても,依然としてそれまでの著作権を管理していた会社や団体が,原画や記録媒体(映画のフィルムなど)を管理している場合があります。

デジタル化が進んだ現代では,原画等によらなくても,質の高い複製物を製作することが比較的容易になっていますが,それでも,商業的な利用を行おうとする場合等には,従来の管理主体にアクセスして「著作物を使わせてもらう」必要に迫られることが決して少なくありません。

こうしてみてくると,企業の担当者にとって,パブリックドメイン』になったから自由に使える」という一般的な解説も,実務上はあまり救いにならないことが分かります。

「著作権」だけで世の中が動いているわけではない,という当たり前の現実を,ここではしっかり押さえておく必要があります。

なお,著作権の保護期間が満了した「ピーターラビット」を商品のデザインとして使っていた会社が,「パブリックドメインになった後も,従来の著作権者が依然として著作権表示を付して著作物を管理しているため,自社の商品の小売店での取扱いが拒否される等の不利益を被った」として提訴した事件がありました。確かに,⁠パブリックドメイン」になっているかどうかを当の権利者以外の一般人(事業者)が知ることは困難ですから,⁠著作権が切れているにもかかわらず『著作権表示』⁠©マーク)を付し続けるなんてとんでもない」という当事者の思いは良く分かります。
しかし,結果として,裁判所は「元・著作権者側に著作権に基づく差止請求権がないこと」こそ確認したものの,それ以外の主張・請求(⁠著作権表示」が品質誤認表示にあたる等)を認めておらず(大阪高裁平成19年10月2日)⁠このような状況に直面した会社が⁠人々の誤解⁠にどう対処すべきか,という課題は,依然として残されたままとなっています。

保護期間をめぐる制度設計に求められるもの

さて,ここまで,⁠著作権の保護期間」に関するルールと実務の現実をご紹介してきました。

これはあくまで,⁠使う側の実務的視点⁠からの見方に過ぎず,他にも様々な見方,捉え方はあると思います。⁠著作者の人格的利益も含めた)⁠権利」を何よりも優先する立場をとるのであれば,

「⁠パブリックドメイン』になったからといって,気安く使えるなんて考える方がおかしい。著作者(著作権者)の利益保護のために少々の不利益は甘受せよ」

という意見が出てきても不思議ではありませんし,特に営利的事業で他人の著作物を活用しようとするユーザーにとっては,これも傾聴に値する意見というべきなのかもしれません。

ただ,⁠著作物」の多くが,何かしらかの形で人々の目に触れ,利用されることを前提とされているものであることを考えれば,ユーザーの側にも一定の配慮をした上で制度設計しないと,創作の目的自体が達成されないということにもなりかねないのも事実です(倉庫の奥に眠っていた写真の話などは,まさにその際たるものでしょう)⁠

仮に今後,著作権の保護期間に関して何らかの改正が行われるのであれば,改正によってよりルールが複雑化しないようにする,とか,⁠保護期間内にあるかどうか分からないために利用できない著作物」を少しでも減らせるような方策を整える,といった配慮をしていただきたいものだ,と,一実務担当者としてはささやかに願う次第です。

著者プロフィール

企業法務戦士F-JEY(きぎょうほうむせんし・えふじぇい)

199×年,都内某企業入社。以来,法務部署で禄を食む日々を送る。ここ数年はもっぱら知的財産絡みの仕事に従事。最近,周りから「そろそろ飽きただろう」と言われることも多いが,技術もビジネススキームも日々進化するこの世界,当分お腹いっぱいにはなりそうもない。

2005年以降,ブログ「企業法務戦士の雑感」をささやかに更新中。