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第4回 クックパッド技術部部長 井原正博氏に訊く(後編)―エンジニアの力をもっと活かしたい

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「ちょっと無理じゃね?」レベルの目標を立てる

前回に引き続き,クックパッド技術部長の井原正博さんにお話を伺います。前回は,採用段階で「強い個」を集めることへの並々ならぬこだわりを伺いましたが,その「強い個」がきちんと成果を出している状態にするために,どのような取り組みをされているのでしょうか。

クックパッド技術部長の井原正博氏

クックパッド技術部長の井原正博氏

日々改善を図ったり,新しいものを吸収するといったことは,放っておいても勝手にやっていくし,定期的に場を設けて何かを勉強するといったこともないそう。しかし,半年に1回の目標設定では,個々人が普段の思考の枠組みから解放された頭で目標を考えられるよう,こんな仕掛けが。

井原さん「期の頭には,目標を1個だけ立てるんですね。半年間にやることはいろいろあると思うんですけど,そんなものは皆やるに決まっているので,目標に入れる意味がない。ここで立てる目標は,⁠おぉ,それはちょっと半年でやるの無理じゃね?⁠ぐらいの目標。⁠井原さん,それ,やめておいたほうがいいんじゃないですか?⁠っていうレベルの目標を立てるようにしています。それは,18ヵ月後にどうなっていたいかってところから逆算して,じゃあこの半年でここまで行っておかないとねっていう目標を立てるんです。

楽天の三木谷さんですかね,⁠月まで行こうと思わないとロケットは作れない⁠って。そうなんですよね,大島まで行こうと思ったら,船でいいじゃんで終わってしまう。積み上げでやっていくと,やっぱり積み上げの延長線上のものしかできないんですよ。月まで行こうと思うから,パラダイムシフトが起こる。どうやったらできるんだろうって考えに及んで,新しい技術を見つけてくるとか,やり方をまったく変えてみるといった動きが出てくる。そういう個々の判断とか意志決定の変化みたいなものが,会社を動かしていくと思うんですよね。なので,それがやりやすい目標設定にしているつもりです」

「結果として,達成しないこともありますよ」と苦笑する井原さん。それでも,100を目指したときの80点と,80を目指したときの80点では,同じ80点でも成り立ちやアウトプットが全然違うので,今のやり方がいいかなと思っているとのこと。これはぜひ部分的にでも取り入れてみては?

 クックパッド流の目標設定

期初に立てる目標は1つだけ(それ以外の仕事も皆当たり前にやることが前提)
長期(18ヵ月)の目標を立てた上で,逆算して短期(6ヶ月)の目標を立てる
期間内にぎりぎり達成するか,無理じゃないかレベルの目標を立てる
目標は本人が立てる

思考のフレームワークを共有する

また,目標をこれと定め,それを実現するための思考のフレームワークを社内で共有している点も興味深いところ。前編で紹介した「やりたいこと」⁠得意なこと」⁠やるべきこと」の3つの輪もそうですし,サービスを組み立てるのにも「EOGS」⁠Emotion Oriented Goal Setting)というフレームワークをワークシートに落とし込み,ユーザの欲求に基づいたゴール設定とその実現方法を考えるステップを共有しています。

※EOGSについてご興味のある方は,クックパッド採用説明会などに足を運んでみては。

井原さん「こうしたフレームワークを一個作ると,その仕組みを全社員に適用していけます。皆コピーして使えるので,そこのコストはほぼゼロになりますよね。これが一人の頭の中だけにあると,全員に言ってまわらなきゃいけない。仕組みを作ってコピーを無料にするっていうのは,プログラムでも紙でも同じ。サービス開発でも同じです。⁠クックパッド』の中で起きていること,たとえばユーザさんがすごい手間をかけて自分たちでやっていることを見つけてきて,それをシステムとしてもっと簡単にできるようにするだけで,すごく使われる機能が生まれます。それと同じだと思うんですよね」

さすがのエンジニア脳。では,こうした思考のフレームワークは,どのように作っているのか。外から学びを得ることが多いのでしょうか。

井原さん「⁠Good to Great(邦題:ビジョナリー・カンパニー)⁠はすごい参考にしていると思います。⁠100年続く企業,100年ユーザさんに幸せを届けられる企業を作る⁠っていうのは,そういうところから引っ張ってきています。あと,GoogleとかFacebook,37signalsとかはものづくりの考え方がすごい似ている,まぁ似ているのか影響を受けてそうなっているのかはあれですけど,何社か真似しているところはありますね。

これも,あるものを上手に使うっていう考え方の1つですね。料理でもそうですけど,ゼロからの創作ってあんまりないですからね。やっぱり今までの叡智の上の積み上げで新しいものを作っていくものなので」

自分たちの創作活動は,今までの叡智の上にある。それをわきまえた上で上手に使うというのはとても大切に感じます。そのとき,ただ使いまわすのではなく,自分たちの理念のもとに新しいものを創造していく姿勢を学びたいですね。

言葉で促すより,自然に挑戦できる環境を作ること

大規模なサービスを運営する中でも,スタッフが臆せずチャレンジしやすい環境づくりもなされています。2ヵ月ほど前に導入したのが,普段使っているプログラムから切り離して,プラグインのような形で新しい技術を追加し,試行できる仕組みとのこと。導入後の変化は?

井原さん「この仕組みを入れて,明らかに開発は活性化したと思います。実際,ユーザにまで公開できていないものでも,スタッフにまで出しているものの数がすごい増えました。やってもいいんだよ,もっとがんがんやっていいんだよっていうのを,仕組みとして保障してあげたというか,そういう環境づくりはしています。

口でこう,やってもいいんだよとか,もっとこうやろうぜっていうのは簡単で,言えば終わりなんですけど,そうじゃなくて,普段いる環境の中に,普通にそれが組み込まれている状態,意識しなくてもそういうチャレンジが起きている環境を作るのが,マネジメントだったり,組織を作るってことなんじゃないかなっていうふうに思いますね」

うーむ,深い。こうした思想に基づいて,⁠強い個」がきちんと成果を出している状態を作り出そうとしているんですね。

著者プロフィール

林真理子(はやしまりこ)

株式会社イマジカデジタルスケープ トレーニングディレクター。1996年より一貫してクリエイティブ職のキャリア支援事業に従事。デジタルハリウッドやエン・ジャパンを経て,2005年より現職。Webに関わる実務者を対象に,クライアントの社員研修や個人向け講座の企画コーディネート,カリキュラム設計,教材開発,講座運営,評価などのインストラクショナルデザインを手がける。日本キャリア開発協会認定CDA,日本MBTI 協会認定MBTI 認定 ユーザー。

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