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第8回 IMJモバイルDirection本部本部長 川畑隆幸氏に訊く(後編)―これまでの強みが一気に弱みに転じる過渡期を生き抜く

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プロジェクト終了後は,臨場感ある体験談を全体共有

こうして1つのプロジェクトが終わると,そのプロジェクトのオーナーが『プロダクトニュース』という形でIMJグループ全体にメールを発信するのだそうです。こんなことやりましたとか,ここに苦労しましたとか,誰が関わったとか。読むのは身内のみなので,内容もけっこう赤裸々な生の声が書かれていて,ものすごい臨場感が伝わってくるのだとか。

新人の初々しいコメントも微笑ましく,みんなで応援する雰囲気があるそう。マネジメント層が新人を投入したところで,現場が受け入れ拒否状態では,本人も尻込みしてしまって効果も半減。IMJグループが現場で育成することを実現できている背景には,新人を応援する風土があることも大きいのではないかと思いました。

「それやらないと生き残れないよ」という死活問題

さて,これまでフィーチャーフォン(これまでの携帯電話,いわゆるガラケー)を強みにしてきたIMJモバイルですが,スマートフォンが台頭し,事業の軸足もより広い意味での「モバイル」にシフトしています。転換期まっただ中のIMJモバイルで,社員の中長期的キャリアをどう受け止めているのか伺ってみました。

川畑さん「これまでずっとフィーチャーフォン専門にやってきた社員にしてみれば,今からフィーチャーフォン以外のものをゼロから学び直すのは,なかなかハードルが高い話ではあります。ただ,そこは『それやらないと生き残れないよ』っていう話なんですよね。本人たちにしてみれば,年齢とか関係なく純粋に死活問題です。やらざるをえない状況なんだろうなって思っています」

目をそらさず,問題の大きさを適切に捉えることの重要性を考えさせられたお話でした。問題が大きいほど直視して受け止めるのはつらいから,どうしても問題を過小評価したり,先延ばしにしやすくなる。でも,それこそ⁠死活問題⁠級の問題に直面しているなら,早期に腹をくくって策を練り,動き出したほうがいい。と言葉で言うのはたやすいですが,なかなか難しいものですよね……。

市場の変化によって,自分の強みが一気に弱みに転じる

実際フィーチャーフォンを強みにやってこられた社員の皆さんは,この転換期をどんなふうに受け止めているんでしょうか。

川畑さん「何かのデバイスに特化した高い専門性は,ある転換期に来たとき,ものすごい弱みになるって理解してくれていると思います。デバイスに対応する知識だけではダメなんだなと,頭が切り替わってきている。デバイスは,あくまで消費者とクライアントのデジタルマーケティングを支援するための1個のツールに過ぎないので,クライアントのやりたいことができるんだったら,フィーチャーフォンでもスマートフォンでもPCでもタブレットでも構わないって思えるかと。

また,今はとくにフィーチャーフォン専門でやってきた人の転換期と言えますが,PCサイトをやってきた人も今後こうした転換期に直面するだろうと思います。言い方に語弊があるかもしれないけれど,作るだけだったら安くできるところはたくさんありますので(笑)⁠それ以外の価値を出していかないと」

自分の専門性が強みになることもあれば,一気に弱みに転じることもある。⁠それができる」「それしかできない」は紙一重。市場の状況によって一変してしまうのは,恐ろしいことだけれど現実です。変化の激しい業界で仕事をする上では,これを前提に自分のキャリアを捉えていくことが欠かせない。それだけに,時勢が変わっても価値を持ちつづける普遍性高い能力を並行して養っていくことが必要不可欠と言えます。

「クライアントとより多く話すこと」が,自分の学ぶ方法論

最後に,川畑さんご自身が何かを学ぶときのスタンスや方法論について伺いました。

川畑さん「結局,興味だと思います。興味本位でないと私は学べない人なので(笑)⁠あと,クライアントから学ぶことはとても多いです。クライアントや消費者とより多く話すことが,自分にとっては一番の学びだと思っています。そこで気づいたことの細部・各論を改めて勉強しているだけで,そういう意味ではクライアントが疑問に思わないことは学んでいないかもしれないですね(笑)⁠

デジタルマーケティングの分野で,お客さんのより良い相談相手でありたいという前編のお話が,ここに通じていますね。そういう想いが根底にあるから,お客さんの話を聴く中で,より深く専門的なサポートをするために必要な知識・スキルが具体化され,自然新しいことを吸収していく,そういう好循環がまわっているように思いました。

実際作ってみる,とにかくやってみるのが学習スタンス

また,⁠本読めない人なんですよ」と苦笑する川畑さんの学び方も,非常に刺激的なお話。

川畑さん「Webで情報収集したり,テクニカルなことは技術書を読んだりもしますが,実際に手を動かして作ってみるほうが多いですね。エンジニアではないので,そんな深くまでものを作れるわけじゃないですが,たとえばFacebookが来るぞって言われたときは自分でFacebookにページを作って,5,000円くらいいいやと思って広告を出してみたり。スマートフォンサイトってどんな感じなんだろうと思ったら,ライブラリをWebからダウンロードして自分のサイトをコーディングしてみたり。

それで,できないことが出てきて初めて本を開いてみます。よく一緒に仕事をするエンジニアからは,⁠説明書を読まずにプラモデルを作るタイプ』って言われます(笑)⁠まずはやってみる,手をつけてみるっていうのが私なりのスタンスかなと思います。さすがにすべてにそのやり方は通用しませんけど。

自分でやってみると,自分の技術レベルではどうにもならない限界を知ることもできます。ここから先はエンジニアの仕事だって境目もわかるので,実際にやってみる価値は大きいですね」

本を読まなきゃとか,まずは座学で知識から固めなきゃとか頭でっかちに考えず,まずはやってみる。やってみることで,自分の不足している知識やスキルが具体的になり,それがわかるようになりたいと思うから技術書にも手が伸び,読めば頭にも入ってくる。自分に合う学習スタイルを確立していることの強さを実感させられるお話でした。皆さんも,自分はどういうやり方が一番身になるのか,ゼロから考え直してみてもよいかもしれません。

いかがでしたでしょうか。今年もさまざまな学びの場を紹介していきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします!

著者プロフィール

林真理子(はやしまりこ)

株式会社イマジカデジタルスケープ トレーニングディレクター。1996年より一貫してクリエイティブ職のキャリア支援事業に従事。デジタルハリウッドやエン・ジャパンを経て,2005年より現職。Webに関わる実務者を対象に,クライアントの社員研修や個人向け講座の企画コーディネート,カリキュラム設計,教材開発,講座運営,評価などのインストラクショナルデザインを手がける。日本キャリア開発協会認定CDA,日本MBTI 協会認定MBTI 認定 ユーザー。

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