Webクリエイティブ職の学び場研究

第10回 NHN Japan執行役員/CTO 池邉智洋氏に訊く(後編)―個人も組織も,”なんでもあり”の多様性の中で強くなる

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うっかりすると,エンジニアとして評価の高い人を“マネージャー”にしてしまう

では,中長期的にみたWebクリエイティブ職のキャリアパスについては,どんなふうにお考えでしょうか。

池邉さん「Webエンジニアがマネジメント職にいくかいかないかという話でいうと,キャリアパスは二本立てで考えています。マネージャーを志向する人もいれば,エンジニアとして技術方面とかサービスの企画方面で伸びていきたいという人もいると思うので。

いろいろこれまでの紆余曲折はあって,エンジニアとして評価の高い人に印をつけるような感じで⁠マネージャー⁠という名前が使われていた時期もあったんです。人事制度との兼ね合いもあって,うっかりするとそういうことをやってしまいがちなんですが,そうすると一緒に雑用もふってきてしまう。

“マネージャー⁠って偉そうなイメージがあるのが良くないなと思っていて,実際は半分くらい雑用だと思うんですよね(笑)⁠ものを作る上では,割と本質ではないいろんな仕事が世の中にはあると思っていて,そんなのは,ばりばりコードが書ける人がやるより,そういうのを苦と思わずちゃんときれいにできる人がマネージャーに向いていると思っています。

ですから,研鑽を積んだエンジニアは,単に⁠すごいエンジニア⁠でいいんじゃないかという気がしています。技術が優れているなら,人を束ねるより自分で書いて一騎で突っ込んだほうが効率いいと思いますし,あんまりマネージャーの数を増やしてもしょうがないかなとも思っています。

ただ,もちろんマネージャーも1つの大事な⁠役割⁠で,大変なことも多いので,給与とか待遇面でマネージャーが一番悪いとか,そんなことはないと思いますけど(笑)⁠

現在も,ライブドアの前身,オン・ザ・エッヂ時代からお勤めのエンジニアが多く所属されているのだとか。技術者のキャリアに対して理解があることの表れだなぁと思いました。

新しい海外のサービスに飛びついて,にやにやしているようじゃダメ

最後に,池邉さんご自身についてお話を伺いました。この業界に入って,擦れたなぁと吐露する池邉さんが最近気をつけていることとは。

池邉さん「Webエンジニアって,インターネットとかWebのことに詳しいから,詳しいだけにいろんなサービスを斜めから見ちゃう癖がある気がしています。楽しい楽しくないじゃなくて,実装としてイケてるイケてないとか。我々が提供しているのって,生活必需品ではなくて,人が楽しいと思うコンテンツとか,人をハッピーにするものなのに,いきなり斜めから物事をみる癖がつくのはよくないかなと。なので最近は意識して,ひと通り世の中で流行っている俗っぽいものに触れるようにしています。

たとえば,ソーシャルゲームとかも,Web業界の人って「いかがなものか」論みたいなのを展開しがちなんですけど(笑)⁠そういう入りはいかんかなぁと思って,とりあえず全力で課金してみようとか。で,やってみるとやっぱり,ちゃんと面白い部分があるわけです。

Webエンジニアって,流行りのものをやっているように見えて,意外と実際のところWebの何が流行っているのか理解している人が少ない気がしています。新しい海外のサービスに飛びついて,にやにやしているようじゃダメで,⁠自分には理解できないけど身のまわりで流行っているもの⁠に目を向けていかないと。そこには,ちゃんと流行っている理由があるはずなので」⁠

これは,耳が痛い人も少なくないのでは。こういう問題意識って,池邉さんの中でどんなふうに芽生えてきたんでしょうね?

池邉さん「昔は僕も,海外のサービスに早く飛びつかなきゃ!みたいなのがあったんです。でも,実際にはエンジニアが飛びついたサービスの10分の1くらいしか世の中に定着しないじゃないですか。⁠これはすごい(キリッ⁠とかブログにあっても。そこに使う時間がだんだん無駄な気がしてきて,それよりはもっとテレビとか見たほうがいいんじゃないかと。

それでいうと,この業界入って良くも悪くも擦れたなぁと思っていて(笑)⁠インターネットに対して。最初の頃は,IRCとかも⁠リアルタイムで言ったことが届いて,リアルタイムに返ってくる⁠とか,ものすごいなぁと感動を覚えました。今となっては当然ですけど,当時の僕には全然普通じゃなかった。なので,あんまり擦れるのも良くないかなと,1ユーザとして使うことを意識しだしました。

それに,割とソースコードの出来と,流行る流行らないとの相関性は低いなと思っていまして。もちろん,ある程度の規模を超えると,スケールしないとか技術上の課題が出てきて詰まることはあるんですけど,最初のスタートアップでいうと,実はそんなに関係ないことが多い。だからといってコードがどうでもいいとは思わないですけど,前線でコードを書いているエンジニアが割と目をそむけがちな事実にちゃんと目を向けて考えていったほうが,個人的なキャリアの観点からみても有効かなと思っています」⁠

サービスリリースから間もないうちは興奮ぎみに使うんだけど,みんなが使い出すと反動で一気に気持ちが冷めてきたり。妙に玄人的に捉えて粗探ししてしまったり。自分には理解できないけど,世の中が楽しんでいるものを,低俗なものと位置づけてしまったり。そういう無意識に振り回されてしまうと,いろんな可能性が見えなくなってしまいますよね。

人間の微妙な心の作用が働いていて難しいものだなぁと思いますが,⁠なんで流行っているんだろう」と自問自答して関心を高めながらまずは使ってみたり,純粋な気持ちで楽しんでみようと意識を持ち直すと,インターネットに出会った頃の童心?を取り戻して仕事にも向き合えるかもしれません。

著者プロフィール

林真理子(はやしまりこ)

株式会社イマジカデジタルスケープ トレーニングディレクター。1996年より一貫してクリエイティブ職のキャリア支援事業に従事。デジタルハリウッドやエン・ジャパンを経て,2005年より現職。Webに関わる実務者を対象に,クライアントの社員研修や個人向け講座の企画コーディネート,カリキュラム設計,教材開発,講座運営,評価などのインストラクショナルデザインを手がける。日本キャリア開発協会認定CDA,日本MBTI 協会認定MBTI 認定 ユーザー。

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