価値を生むために知っておくべき,フルフラッシュサイト制作のあらすじ

第5回 写真,イラスト,映像,サウンド― 素材制作のアプローチ ―

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時間軸や動作環境の理解が前提に

連載第5回目となる今回は,フルフラッシュサイト制作において,それぞれの準備段階から注意が必要になると著者が考えている「素材」についてお話してみたいと思います。

写真,イラスト,映像,サウンド,テキストetc…,Webサイト制作にはさまざまな表現手法が素材という形で使用されます。今回はそのなかでも,フルフラッシュサイトならではの演出によって真価を発揮する表現素材という意味で,写真,イラスト,映像,サウンドの4つをテーマに取りあげてみました。もちろんこれらはあくまで素材ですから,その一つひとつで完成というわけではありません。

HTMLベースのWebサイトと異なり,フルフラッシュサイトは時間軸のなかで演出効果を発揮することが多いと言えます。したがって素材の制作にあたっては,それぞれの素材が有機的に絡み合った状態をあらかじめ考慮したディレクションが必要になると言えるでしょう。また,パフォーマンスにも考慮して各素材を最適化するという点も大切になると考えています。

これらを前提として踏まえつつ,以下では各素材の制作現場で特に留意すべき事項を具体的に掘り下げて述べていきたいと思います。

静止画で捉えない共通認識を(写真・イラスト編)

まずは写真やイラストといった素材が時間軸のなかで演出効果を発揮するという点について,今回は便宜上,無数に考えられる演出のなかから若干具体例を搾ることでわかりやすくご説明してみたいと思います。ここでは一例として「Webサイト上に仮想の展示住宅を構築する」という企画をベースに進めてみます。

住宅を訪れているような演出効果を与えるため,今回は「ユーザーが部屋の内観写真を360度のパノラマでシームレスに見渡せる」という演出を考えてみましょう。この演出に従った場合,内観写真の撮影方法はユーザーの目線を考えると,部屋の中心から撮影する方向だけを360度横方向に回転させて,内観をもれなく収められるよう複数のカットを撮影するのが効果的な撮影のひとつかと思います。

これは,実際のページ上で撮影した複数のカットを一枚の写真のように繋げるという制作を前提にした撮影です。これによってユーザーは,自らの操作で撮影した軌跡をなぞるように視点を自由に回転させ,部屋の内観写真を360度もれなく閲覧することができるというわけです。これは平面上の限界を超えて完成する,極めてフルフラッシュサイト的な演出手法のひとつと言えるのではないでしょうか。

しかし,一枚の写真として評価するならば,まったく別のアングルから撮影したほうがより美しい構図が存在するかもしれません。雑誌などのメディアで仕事をしているプロのカメラマンやアート・ディレクターであればなおさらのこと,「"一枚の絵"としてはこちらの撮りかたのほうが良い」と,撮影時に異議を唱えられることは決して珍しくないでしょう。実のところ,その指摘は正しいとも言えます。

ただし,それはグラフィック的発想を出発点にしたアプローチです。これに対してフルフラッシュサイト制作者は,独自の演出効果をベースにした素材の撮影手法をあらかじめ素材制作担当者に周知させる必要があるではないでしょうか。イラストについても同様です。キャラクターに画面上で動きをつけるのであれば,コマで素材を制作してもらう必要があるでしょう。

写真もイラストも制作や納品の時点では静止画ですが,フルフラッシュサイトでは必ずしも静止画として扱うとは限りません。そういった最終のアウトプットイメージを共有しておくことが,より高いクオリティに繋がると考えています。

綺麗な映像は良いけれど…(映像編)

クオリティの高い綺麗な映像を撮るべきなのはもちろん,映像の制作ではユーザーの動作環境にも注意を払う必要があります。昨今フルフラッシュサイトの可能性が広がってきた背景にはブロードバンド化の進展やユーザーが使用するPCスペックの向上といった環境変化があることは,連載第1回目の冒頭でお話しました。ただ,映像が満載されたWebサイトを誰でもどこでもスムーズに再現できるほどの環境になったかと言えば,残念ながら現状では不十分でしょう。

どれほど美しく,かつ訴求内容が的を射た映像でも,ユーザー側で適切に再現できなければクライアントやユーザーの要望を満たす効果は望めません。このため,フルフラッシュサイトで扱う映像はターゲットとなるユーザーの回線状況やPCスペックに応じて,最適化することが重要であると考えています。

まず,静止画像に比べファイル容量が大きくなりがちな映像だけに,Webサイトでの使用にあたっては回線状況に著しく影響される点を充分考慮する必要があるでしょう。ユーザーの回線状況次第ではローディングに時間がかかり過ぎてしまい,ユーザーが待ちきれず,全く見てもらえない可能性があります。これは"相対的"にファイル容量が大き過ぎるという状態と言えます。

パフォーマンスについても同様です。映像の再生速度に想定ユーザー層のPCスペックが追いついていないという状況であれば,再生時のコマ落ちなどが発生するでしょう。しかし,「商品を機敏に動かす映像で訴求効果に繋げよう」というコンセプトであれば,コマ落ちなどを避けるために適切な再生速度を考える必要があるのではないかと,著者は考えています。

ただ,回線状況についてもパフォーマンスについても,適切さを考えるうえで明確な"しきい値"が存在しないのは悩ましいところでしょう。この種の課題でコンテンツの適切さを検証するという作業は,常に想定したユーザーが置かれている環境との相対的な関係性のうえで行う必要があるからです。

大切なのは判断基準をあくまでWebサイトの目的に絞ること。「この映像は多少画像が荒くても機敏に動作させて,より強く世界観に訴えるべき」とか,「この映像だけはローディングに時間がかかっても,大きく綺麗に表示させなければ商品のイメージを損なってしまう」という考え方は当然あるでしょう。

ファイル容量が極端に大きい場合や著作権の問題をクリアする為に,ストリーミングを使用するという設計も考えられます。こういった判断はパフォーマンスやクライアントの要望を踏まえながら,ときにはぎりぎりの判断で「適切さ」という落としどころを検証する局面が,フルフラッシュサイトの制作現場ではしばしば発生すると考えています。

このほかにも実際の撮影では,企画に応じて高解像度撮影に対応したビデオカメラを用意するなど,機材の選択を含めた撮影の前提についても考える必要があります。素材としての映像制作は,このように多角的な視点をWebサイトの目的と照らし合わせて進めていく必要があると考えています。

重なり合いや連続性を考えて(サウンド編)

最後はサウンドの捉え方についてお話していきます。サウンドには,主に世界観の体感を加速させる役割を持ったBGM,その役割を補完するようなSE(効果音),さらにはユーザーへ操作を案内する機能上の役割を持ったボタン音の3つがあります。これらのサウンドをフルフラッシュサイトで効果的に活用するためには,「そもそもBGMやボタン音が必要になるWebサイトなのか」といった議論からはじまり,それぞれ異なる役割を持ったサウンドが混在することによる問題も想定する必要があると考えています。

柔らかい印象を醸し出すBGMに突然硬質な効果音やボタン音が重なれば,結果的に世界観があやふやになってしまうといったデメリットが生まれてしまうかもしれません。逆に,ボタン音がBGMに溶け込み過ぎてしまうことでユーザーを案内するという本来の役割が薄れてしまうのも良くないでしょう。Webサイトに実装された状態を考え,このような重なり合いや連続性まで想定してサウンドを最適化する心掛けが,フルフラッシュサイト制作では特に大切になると思っています。

ちなみに,背景に流れる音としてのBGMについてもう若干補足すると,素材としてはファイル容量の関係上ループ状のBGMになることが多いと言えます。そこでただ,同じフレーズが繰り返されてしまうよりは,"ループ感のない"BGMにすることでよりリッチな印象を訴求できたりします。これもBGMの活用ではひとつのスパイスになるのではないかと思います。

もちろん,これまで著者が手がけたサイトのなかには,ループ状ではない特定の「テーマ曲」をBGMとして挿入した例もあります。ただし,そのテーマ曲はオリジナルトラックのままではWebサイトのバランスを崩してしまうため,イントロ部分やボーカルトラックを削って使用するなどの加工を施しました。これは,冒頭でお話した素材同士のバランスを考えるというところにも繋がってくるからです。

クリエイターの世界へ踏み込む

実際のところ,これまでフルフラッシュサイトを含むすべてのWebサイト制作現場を通して,素材の一つひとつをオーダーメイドで厳密に作り込むということはそれほど定着していなかったように思えます。しかし,昨今はWebサイトの価値に対する認識が高まれば高まるほど,その制作に費やすリソースとともに素材に対する要求の質は高まってきました。今後は紙媒体の雑誌や広告,あるいは映像作品並みに,個別の素材制作をプロフェッショナルなクリエイターたちに任せようとするWebサイト制作現場がますます増えていくのではないでしょうか。

プロのクリエイターは自分の仕事について強固な意思表示を行うもの。写真撮影の部分で述べたパノラマ的撮影手法を例にあげれば,いざ撮影現場に入ってから演出手法だけを説明する程度の意識では,「カメラマンの感性も考慮せず機械的に一通り撮影するだけなら,自分が撮影しなくても良いのでは?」などと,場合によっては感情面で思わぬ齟齬を招いてしまう可能性すらあると思っています。

素材制作の段階からWebサイトの目的を考慮するのは,発注時から「なぜこういった演出手法が必要なのか」という部分にまで踏み込んでクリエイター各位とコミュニケーションするためでもあります。そのためには,まずWebサイト制作者が,静止画,映像,サウンドといったジャンルの制作ノウハウについて正しい知識を持つことが大切になるのではないでしょうか。それがWebサイト制作者と各ジャンルで活躍するクリエイターの歩みよりや相互理解を深め,より質の高いフルフラッシュサイト制作に繋がると考えています。

著者プロフィール

齋藤順一(さいとうじゅんいち)

ARCHETYP代表。キノトロープ,ベースメントファクトリープロダクションを経て2007年5月株式会社アーキタイプを設立。

URLhttp://www.archetyp.jp/

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