キーパーソンが見るWeb業界

第5回広がりが具現化してきた2008→2009のWeb(後編)

前回に引き続き、イメージソースでさまざまな広告やプロモーションを手掛ける小泉望聖氏を交えて、2008年の振り返りから2009年の展望・動向予測についてお話しいただきました。

Webからの広がり

――これまでの話から、2008年は、Web業界の質の向上、さらに技術的進化によるフィールドの拡大が加速してきたと言えるでしょう。実際、どういった事例や案件があったのか、4人が手掛けたプロジェクトや経験についてお聞きしました。

小泉氏:今、技術的進化、サービスの広がりなどが上がりましたが、広がりで見ると、私たちイメージソースとしても、広がりがあった年でした。とくにWebだけに閉じないプロジェクトが増えています。その1つが、カジュアルブランド「ディーゼル」が、2008年4月にオープンした、アジア最大級となる旗艦店「DIESEL GINZA(ディーゼルギンザ⁠⁠」の店舗設計に関するものです。ここでは、店内にタッチパネル式のミラーを設置し、来店したお客様が、自分自身が試着した様子をさまざまな角度からチェックができるようにしています。この撮影機能を付けた「インタラクティブミラー」など、単なるメディアではない、新しい形の展開だと思います。こういったインストアメディアあるいはデジタルサイネージは、これからどんどん増えていくと思います。

これはお客様の利便性はもちろんなのですが、店舗を出しているディーゼルにとっても大きなメリットになります。私たちの考え方の1つとして、話題の最大化というものがあります。つまり、プロジェクトのPRまでを意識して展開していく、という考え方です。

最近で言えば、渋谷で実施した、Flashによる「振動力発電」の実証実験も、その考え方に則ったプロジェクトの1つです。

森田氏:さすがというか、まさにWebだけに閉じないプロジェクトの展開ですね。bAでも、Webだけに閉じないプロジェクトはたくさんあって、たとえば、Webをきっかけとした企業ガバナンスの設計であったり、グローバル展開における文化や商圏の違いに対する調整といった部分です。これらもWebだけに閉じずに広がりを意識してきた結果だと考えています。ただ、こういった部分は、雑誌やオンラインメディアなどを通じては出せないことも多くて、世間一般には見えづらいというのが難しいですね。

それでも、今お話しいただいたイメージソースさんの事例のように、Webを切り口として、Web⁠サイト⁠デザインではない⁠Webデザイン⁠を実践されている方々が、Web業界の間口を広げてくれていると思いますし、そういう意味ではありがとうございますというか(笑⁠⁠。

長谷川氏:広がりの話題から少し戻ってしまうのですが、先ほど小泉さんがおっしゃった「追い切れなくなってきた年」というのはその通りだと思っています。

たとえば、イメージソースさんが店舗設計に展開する、bAさんがサイトデザインだけではなくコミュニケーション戦略にまでまでコミットする、ワンパクさんが広告まで積極的に関わっていく、コンセントであればプロダクト設計にまで関わる、というようにWebを軸に、それぞれの会社が企業のよりコアな分野まで関わるようになってきています。これは、これまでWebが「Web部門」として切り出されていたものが、それぞれの企業の実業に、より関わってきたということを示しています。この4社はとくにWebの黎明期から関わってきたことで、さまざまなことを学んでくることができました。

今後は「よりWebのこと」「それぞれの専門分野のこと」の両方を知っている必要が出てくると思います。

森田氏:そうですね。そして現状にとどまらず、僕たちはこれからもっと仕事の範囲とか規模とかを良くしていくべきだと思っています。それは、たとえばデザインの質だけではなくてビジネス的な面も含めてで、そのためにクライアントがやりたいことに対する、きちんとした⁠適正な⁠値付けという面をもっと強化していく必要があると思っています。⁠このぐらいの規模であればこのぐらいの予算が必要です」といったことを、受発注双方の共通認識として持てるぐらい透明にできれば、もっとクオリティを高めるとかそういうことに貴重なお金や時間を投資できるようになれるだろうと考えています。これは僕やbAだけで考えるのではなく、業界全体で考えていきたいです。

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2009年の展望

――Webからの広がり、Web業界の改善というお話がありました。最後に、2009年の展望についてお話しいただきました。

阿部氏:では、最後に2009年の展望について話し合いましょう。2008年良くなってきたところもありますが、やはり今回の金融ショックは大きかったですね。仕事として見た場合、今後は厳しくなってくると言えます。

日本の場合、自動車産業のように輸出に頼っているところは非常に大変でしょうし、それに輪を掛けて東京以外の地方産業が厳しいようですね。

森田氏:予算という面では、多くの企業が新規プロジェクトの凍結をすでに決めているようです。そのため、これまで継続的に行ってきたものは引き続きやるものの、新規扱いのものについては一端ストップという状況が予想されます。そういうことから、おそらく2009年は上期よりも、下期のほうが厳しくなりそうです。

Web業界で見たときに、企業間でのバッティングが今以上に発生するかもしれませんが、ただ、それはより高いクオリティを出す結果につながるなど、良い方向にも働くと思います。

長谷川氏:予算の凍結などはありますが、先ほど述べたように、Webに関わる分野は、広告・広報だけでなく、マーケティング、開発など広がっています。時代の流れとしては明らかにWeb分野の知見が必要とされています。ここで必要なことは、それぞれに分野に自分たちのやっていることがどう役立ち、どういった価値があるかの提示です。

森田氏:見方を変えればおもしろくなってきたとも言えます。これから、2008年まで以上に、ありとあらゆる部分を仕事にできる可能性があるからです。僕ら世代の経験から言えば、いわゆるITバブルの崩壊だって、なんだかんだで乗り越えてきているわけですし、今回も必ず越えられるはずです。逆に、緊張感を持った状況というのも良い刺激になるのではないでしょうか。

阿部氏:たしかに、馴れ合わず緊張してやるというのは大事ですね。ちなみにイメージソースさんの中ではどのような感じですか。

小泉氏:私たちの会社は、社員全員に言えるのですが、外に出て外部の方と接することが好きな人間が集まっています。それは創り上げるものに関しても同じで、何かを創るときにもコンテンツがどんな人にどのように触れられ、消費をされるのかということを気にしてます。先に取り上げていただいたweb plamoは、たくさんの人に見てもらえ、なおかつ消費耐久性のあるものを真っ先に考えました。それを突き詰めた結果、スタジオジブリと一緒にやろう、と決めたのです。

Webをやっているからこそ、長期に耐久性のあるもの、ずっと残るものをやりたかったという思いがあります。

阿部氏:おっしゃるとおり、とくにプロモーション系のプロジェクトでは3ヵ月や半年など、期間で区切られてしまうものが多いですね。ここは、創り手として非常に悩ましいところです。

それから、消費という点では、携帯以外のネットワークにつながるデバイスが格段に増えたこともあり、人の消費活動が変わってきていて、街とデバイスの関わり方も変わっているのを実感するようになりました。日本経済的には激しい状況の中ではありますが、そういう観点ではチャンスもあります。次のマーケットをどうするか、それをみんなが考える時期でもあります。

森田氏:マーケットを創る上でも、人を育てたり、有能な人と仕事をしていくことは大事ですね。一緒に未来を築けると感じる人と仕事をしたいです。そのためにも、僕の2009年は広報活動に力を入れようと思っています(笑⁠⁠。

――以上、2008年の振り返りから2009年の展望についてお話しいただきました。2008年後半からの不況は、Web業界にも大きな影響を与えています。この状況下をどう乗り越えていくのか、2009年はさらに激動の1年になりそうです。

また、今回の話もあったように厳しい状況だからこそできること、その先にある広がりが重要になると思います。読者の皆さんも、良い緊張感を保ちながら、広がりを意識していきましょう。

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株式会社ビジネス・アーキテクツ

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顧客企業の事業を支援するコミュニケーション戦略を提案・実施する国内最大規模のWebデザイン企業。顧客企業の経営課題を的確に捉え最新の情報技術を活用し、デザインという切り口から多面的なサービスを提供することにより、大企業の新事業立ち上げや事業の再編・再構築を支援。制作したWebサイトを通じて国内外のアワードを多数受賞している。

株式会社ワンパク

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リクルート「スゴイ地図」⁠L25.jp」⁠R25.jp⁠⁠、日本マクドナルド「メガマックショウ」などを手がけてきた中心メンバーがスピンアウトし、 2008年1月に新たに立ち上げたWeb制作をメインとしたクリエイティブプロダクション。HOTなアイディアとHOTな技術をベースにHOTなマインドを持ったHOTなメンバーでHOTなものづくりを行い、クライアントやエンドユーザの心をHOTにするため日々奮闘中。

株式会社コンセント

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「Web 時代の設計事務所」として2002年設立。ビジュアルコミュニケーション、情報アーキテクチャ(IA⁠⁠、テクノロジーを融合して、おもにWebや情報プロダクトを活用した問題解決を行っている。大規模コーポレートサイトの構築、サービスサイトの最適化、インタラクティブコンテンツの企画・制作、運用によるサイトの効果向上、Webサイトやサービスでのユーザ経験のデザイン、情報プロダクトのコンセプトモデルの企画など、活動は多方面にわたる。最近開設したコンセントブログにて活動実績など情報発信中。

株式会社イメージソース/ノングリット

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Web デザインとシステム開発を主軸の業務とし、最近では映像・グラフィック・インスタレーションデバイスの企画制作など、Web以外の制作業務も行っている。スタッフそれぞれの持つテイストと、クライアント側のテイストを引き立て、信頼感のある作品制作を目指している。国内外の広告賞、デザイン賞も数多く受賞。

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