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キーパーソンが見るWeb業界

第6回 「アクセシビリティ」とは?(後編)

前回に引き続き,NPO法人しゃらくにてさまざまな活動を行っている小嶋新氏をゲストに迎え,Webアクセシビリティについて語っていただきました。

日本における「アクセシビリティ」

――「複数の情報経路の準備」「情報を永続的に出しておくこと」など,アクセシビリティの本質から,グローバライゼーションなどの話にまで広がりました。では,ここ日本における「アクセシビリティ」の動向はどうなっているのでしょうか?

阿部氏:この「アクセシビリティ」という言葉が日本で認知され始めたのはいつ頃からでしょうか。

森田氏:1999年にWCAG1.0が勧告されていますから,その頃からWeb制作者の間では流通していた概念です。 2004年に「JIS-X-8341-3:高齢者・障害者等配慮設計指針」が制定されたことがまず大きなインパクトだったのだと思います。官公庁や企業にとっては,W3C策定の仕様よりもJIS規格票のほうが,それを重要視する根拠にもなるのですから。

また,同年開催された「アックゼロヨン」のキックオフイベントも,アクセシビリティをひとつのブームにしたきっかけだったと思います。アクセシビリティをビジネスに取り入れやすくなったのも,これ以降です。

小嶋氏:たしかに,そのころから行政が入るようになってきたと覚えています。一方で,当時は,障がい者から動くということはほとんどなくて,障がい者側からのアプローチが増えてきたのは最近になってからではないでしょうか。

阿部氏:TV番組などでも障がい者を主人公にしたドラマが放映されたり,また,家電などもUDのコンセプトを採り入れたものが増えてきました。

森田氏:ただ,先ほども述べたとおり,UDとアクセシビリティは異なります。UDはできるだけ多くの人が使えるようにしておくデザインで,アクセシビリティはできるだけ多くの人がそれに到達できるようにしておくこと,といえばいいでしょうか。

UDされたモノは誰が扱ってもその形状は同じなのですが,アクセシビリティが確保されたモノは,ユーザが自分に最も良い形状で扱うことができるということです。これは複数の到達経路があるとも言い換えることができます。狭義ではマウスだけでなくキーボードでも,映像だけでなくテキストでも,PCだけでなくケータイでも,といったようなことも含みます。もちろんその前提として,「情報がそこにあり」かつ「永続的に参照できる」ので,アクセシビリティが確保されているという状態が望まれるわけですが。

長谷川氏:今の話は,生のデータを用意しておくことが大事という理解で良いでしょうか。つまり,たとえばインデックスに関しては情報の受け手側で用意しておく,ということです。

森田氏:そうですね。受け手側にとっては自分用インデックスが作れるかどうかが重要なわけです。これはセマンティックWebにも近いともいえるかもしれません。

阿部氏:なるほど。どのようにして情報をユーザに伝えるか,また,誰でも情報が引き出せるのかという点が,アクセシビリティでは重要になるのですね。

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アクセシビリティとビジネス

――アクセシビリティの本質について,明確に解説していただきました。今,森田氏が話したことは,アクセシビリティの核心をついているのではないでしょうか。

さて,少し話の方向を変えて,今度はビジネスとしてのアクセシビリティというテーマで話を進めていただきました。

阿部氏:アクセシビリティの考え方については,とても明確になったかと思います。ワンパクではアクセシビリティに特化した取り組みは今まであまりやってきませんでしたが,情報への到達経路の確保といった概念から捉えていくと,アクセシビリティの考え方を活かせるシーンは幅広いと感じました。

ところで,ビジネスという切り口から見た場合のアクセシビリティはどうでしょうか?

森田氏:アクセシビリティを確保するというのは,Webサイトの運用と同じく,PDCAサイクルの考え方を前提とする必要があります。Webサイトは公開してからが始まりだとよくいわれますが,これはアクセシビリティに関しても同様で,公開後は運用とともに改善をしていかなければなりません。単に維持するのではなく向上させていかなければ,アクセシビリティは相対的に低下してしまうものだと考えるのが妥当です。

ところが,Webサイト構築案件,とくにアクセシビリティが要求仕様に含まれやすいコーポレートサイト構築案件であっても,プロジェクトスタート時ではアクセシビリティという項目は必須の扱いで予算も付いているのに,リリース後の保守運用のフェーズになると項目と予算がなくなってしまっている場合があります。こうなると,公開後は向上どころか維持もままならない場合も多く,どんどん情報を入手しづらいサイトになっていくわけですから,これは非常に問題だと思います。

長谷川氏:これは人間中心設計において定義されています。それがISO 13407です。これは,人間中心設計の必要性を求めたうえで,使用状況の理解,ユーザの要求事項の明示,設計による解決策の作成,要求事項に基づく設計の評価といった4つのステップを一連のプロセスとして,構築から運用まで改善しながら回していくものです。

森田氏:つまり,アクセシビリティの確保を継続するには,こういう改善活動を一連のプロセスとして回していく考え方が大事なのですが,一方で,通常の制作や運用と比べてコストが高くなるという問題があります。これはWeb制作者やWeb担当者にアクセシビリティの専門家が少ないということが1つの原因です。加えて,発注側にコストがかさむという意識があまりなく,結果として予算が付きづらい状況が生まれています。

小嶋氏:たしかに行政などの公益法人のWebサイトを制作する際もスタート時はアクセシビリティへの対応を都度求められ,その予算も確保されることも多いのですが,リリース後は予算が付くこともなかなかありません。すると,リリース後に担当者が入れ替わり,アクセシビリティのノウハウが伝承されず,徐々に低下するということはよくあります。

森田氏:それと,ビジネス機会の創出がうまくできていない理由というのもあると思っていて,アクセシビリティの啓蒙のされ方が,本質的な議論などではなく,たとえば「alt属性を付ける」など,各論に話を持っていかれがちだということに起因するようにも感じます。その結果,世間の認知は往々にしてアクセシビリティ=チェックリストで終わってしまい,それ以上のビジネス構築ができないともいえるのではないでしょうか。

スクリーンリーダーが読み上げられるようにalt属性を付けるという呼びかけではなく,alt属性を収集してビジュアライズするサービスを構築するなどして,このサービスに捕捉されたいからalt属性を付けるというアプローチもあるのではないでしょうか。 Webの新しい技術やトレンドを使って将来的な広がりを感じさせるような手法での啓蒙機会も増えてほしいと願っています。

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