実践!GTD~一歩先の仕事管理

第10回Somedayリストと「自然に計画するためのモデル」ついて

これから使うGTDについて

前回までは、GTDの各ステップの詳細や、実践例について紹介してきました。今回は、視点をもう少し先に見据えてのGTDの使い方を見ていきます。

もう少し先というと、いろいろ思い浮かぶことがあるかと思います。GTDを使うようになって落ち着いたら、GTDはお役目御免になるのか? また、GTDを仕事管理をするためだけに行うのでは、時間がかかって割が合わない、他には役立たないのか?――つまるところ、GTDの一粒で二度おいしい部分についてさぐっていこうというわけです。今回はそのうちの一つ、⁠仕事が落ち着いた時にどうしたらいいのか」についてお話します。

仕事が落ち着いたら何するの?

GTDを使い始めたら、いろいろな過程を経て、以前よりも仕事を円滑に進ませることができるようになります。そうなると、今度は時間が余ってきます。今までは仕事ばかりに追われてしまい、せっかくの休日も寝て過ごすことも多かったかもしれません。それが手持ち無沙汰な時間があったり、何かしようかな、と思ったりします。

また、GTDを使わなくても、次のようなことを体験することもあるでしょう。多忙を極めた仕事が終わり、いきなり自由になりました。昨日は24時間闘っていたのに、今日はいきなりフリーダムです。一体何をすればいいのでしょう? 忙しい時には、あれやろうこれやろう、とあんなにも考えていたのに、仕事から解放されてしまった途端に、その頃思いついたことが思いつかなくて、悔しい思いをした人も少なくないと思います。

Somedayリストの登場

ところで、今までの連載では、GTDではSomedayリストを用意しましょうと説明してきました。そうです、あのSomedayリストです。Somedayリストは『いつかリスト』で、今は実行できないあんなことやこんなことを、とりあえず書いておくためのリストです。そのSomedayリストは、見返していますか? Somedayリストは忙しいとほったらかしのリストで、どうしてこんなものが必要なのかと、ちょっと疑問に思っている人もいるかもしれません。

仕事が落ち着いて、時間に余裕ができるようになってきた――この時こそが、ようやくSomedayリストの登場です! 時間に余裕があるということは、今やっている以外にも何かできることがあるということです。その何かは、どこから用意すればいいのでしょう? 既に、昔のあなたが用意しているではありませんか。Somedayリストです。

Somedayリストのレビュー:
  • 頻度:1ヶ月~3ヶ月に1回確認
  • 状況:時間が余って新しいことをしたい時
  • 行動:不要な項目は削除・実行に移したい場合はProjectリストに移す等

Somedayリストは時間があったらやりたいことを思い出すリストなので、見返しの頻度は週単位ではなく、1ヶ月から3ヶ月に一回程度で問題ないでしょう。もちろん、それ以外にも、見直したいと思った時点で見返すのもOKです。Somedayリストから本当にやりたいことを、Projectリストに書き写し、具体的にどうするかを考えます。

さあ、これでSomedayリストの使い方がわかりましたね。こうして、余った時間を、昔自分がしたかったと思ったことに費やせるようにできるわけです。めでたしめでたし――とはいかないのが、世の常です。

Somedayリストには、今時間がなくて、手につかなかったものが沢山あります。しかし、できない理由は他にもあるのです。それは、どういうことをしたらいいのかわからないからです。

仮に「海でバカンスを」というようなSomedayリストの項目があったとしても、具体的に自分がどうしたいかは決まっていなかったりします。

海といってもどんな海? カリブ海? 日本海? 大西洋? それともインド洋? あるいは五島列島や屋久島を考えているの? バカンスといってもどんなことをして満足ができるの? これでは、したいことが決まっているとは言い切れません。

「海でバカンスを」なら、まだ具体的に決められるかもしれません。それでは「人生設計を立てよう」ではどうでしょうか?

どこから手をつけたらいいのか、わかりません。私もさっぱりどうやったらいいのか、わかりません。

しかし、GTDはそんな状況にも対応できるための考え方を、⁠仕事を成し遂げる技術』で既に紹介しています。それは、⁠自然に計画するためのモデル」です。

自然に計画するためのモデル

自分のしたいことがあっても、あまりに漠然としていたり、大きな内容すぎて、手をつけられないようなことがあります。これを、具体的なプロジェクトにするための考え方として、GTDは「自然に計画するためのモデル」を提供しています。ここではその内容を簡単に紹介します。

自然に計画するための5つのステップ

計画というと、ものすごく緻密な計画が必要と思いますが、数年~数十年の大規模プロジェクトならともかく、私たちが生活で頻繁に接するプロジェクトでは、もうちょっと手軽な計画でも問題ありません。また、ある流れに沿って考えると、考えやすい順番というものがあります。GTDの「自然に計画するためのモデル」は、この二つができるようにまとめられたステップです。

「自然に計画するためのモデル」は5つのステップから構成されます。

  1. 目的と原則を定義する
  2. 結果を思い描く
  3. ブレインストーミングする
  4. 整理する
  5. 次の行動を明らかにする

つまり、⁠どうして、何を、どんな風に、どこから始めようとするのか?」について考えるわけです。今回は、⁠友人と秋の味覚を堪能する」というSomeday項目を、⁠自然に計画するためのモデル」で展開しながら説明していきます。

次の図は、⁠友人と秋の味覚を堪能する」というSomeday項目を、⁠自然に計画するためのモデル」を使って展開した例です。

「自然に計画するためのモデル」の具体的展開例
「自然に計画するためのモデル」の具体的展開例

1.目的と原則を定義する

自然に計画するためには、まずそのことの目的と原則を決めます。目的は端的に言えば、それを何のためにするのか、ということです。原則は、これだけははずせない、ということです。原則は自分で意識して考えなくても決まっていることがあります。それをこのステップで、明確に理解しておきます。

例えば、⁠友人と秋の味覚を堪能する」では、目的は友人と楽しみたい、秋においしいものを食べたい、というのがしたい理由があるでしょう。次に原則についてです。目的を鑑みると、そもそも友人と一緒に楽しまないことには、意味がないことがわかります。つまり、⁠友人がいる」ということが原則に当たります。次に、楽しむにしても今回の目的はおいしいものを食べることです。最悪、秋においしいものじゃなくても、とにかくおいしい物を食べさえすればいい、という原則でもありです。

目的と原則は密接に関わっているため、同じタイミングで考える必要があります。この例のように、目的=原則ということもありますが、そうではないこともあります。自分がどうしてそれをしているかわからなくなった時にも、⁠そもそも自分は何をしたかったんだろうか?」と、自分自身に訊ねてみるのも、よいかもしれません。

2.結果を思い描く

目的と原則が明確になった所で、ようやく結果をイメージします。結果とは、マラソンで言うところの、ゴールテープはどこにあるか、です。テレビショッピングなどでよくされている、商品を使ったらどのような状態に変化するのか、というところをイメージするのがここの役割です。

例えば、⁠友人と秋の味覚を堪能する」で、目的・原則は、友人がいることと、おいしい物を食べることと決めたとします。ここから結果を膨らませていきます。友人がいるわけですが、一緒にいる友人は具体的には誰ですか? 堪能している場所はどこですか? どこかの山や川や村ですか、それともどこかのレストランですか? あるいはハイキングをしての楽しいひと時ですか? 友人と何を食べておいしいと言っていますか? 栗ですか? 柿ですか? それともお肉ですか? そこでは何を着ていますか? 山や川にいるならカジュアルな姿ですか? レストランだったら正装ですか?

誰と誰とが、どこで、何をしているのか? そこでどんな風にしているのか? いつ行っているのか?――そんな質問をしてパーツを決め、さらにそこから具体的に肉付けをします。ある瞬間の幸せな風景を、よりリアルに思い描きましょう。

3.ブレインストーミングする

結果を思い描いた後は、それをネタとしてブレインストーミングします。今まではゴール状態の部分しか詳しくは確認できていませんでした。しかし、ブレインストーミングで膨らませるのは、ゴールもそうですが、ゴールに至るまでの全ての過程においてです。ここで、全ての過程においてイメージを膨らませ、ゴールまでの道筋をより具体的にできるように、考えるためのパーツを準備します。

結果を思い描くことが、マラソンで言うところのゴールを決めるなら、ブレインストーミングは、ゴールまでの道のりを決めるための判断材料を集めることです。そして、実際に決めるのは次のステップです。

例えば、⁠友人と秋の味覚を堪能する」で、結果を決めたところで、それを実施するための準備する方法などを考えていきます。山や川に行くと決まったら、どの山や川に行くのか? 歩いて行くのか? その際にはどんな物が必要なのか? そういえば靴はあったのか? どこから歩き始めるのか? そもそも歩くのか、車で向かうのか? いろいろ考えることがあります。レストランに行くにしても、どのレストランに行くのか? 行くのが決まっていないなら何を食べたいのか? どのお店なら予算に会うのか? 参加者は何人? 日付は決まったの? ……というふうに考えを広げていきます。

4.整理する

ゴール状態に行き着くまでの道のりを決めるべく、ブレインストーミングした後は、実際に道のりを決めるために、ブレインストーミングした情報を整理します。整理する作業自体は、情報がたんまりあると、自然と実行されます。最終的に行いたいことは、GTDの処理ステップと同じです。つまり、各情報について、それが不要か必要か、必要ならば行動が必要なものかそうでないものか等の判断作業を行います。

数あるゴールへの複数の道のりのうち、進むべき道のりを一つに決めるのがこの作業にあたります。

例えば、⁠友人と秋の味覚を堪能する」では、ブレインストーミングした中で、山や川に行くという結果に決めた場合、車もしくは電車で行くのかを決めたり、服装を決めたり、実施日を決めたり、途中で寄る店を決めたりします。

5.次の行動を明らかにする

情報を整理し、ゴールへの道のりが決まったら、次の行動を明らかにします。次の行動とは、GTDのNextActionと同じことです。自然に計画するこのモデルが終了した後、最初に行うべき行動が決まることになります。

例えば、⁠友人と秋の味覚を堪能する」で、計画を立てましたが、そもそもまだ友人が参加できるかどうかが、わかっていません。そこで、次の行動は、一緒に遊びに行きたいと思っている友人に声をかけて、行けるかどうかを確認することにしました。

次の行動が決まったところで、⁠自然に計画するためのモデル」はこれにて終了です。

この「自然に計画するためのモデル」は、Somedayリストの項目をProjectリストに移す際に実行したり、Projectにしたけれども曖昧な場合に、⁠自然に計画するためのモデル」を実施すること自体を、NextActionにしたりすることで、利用すると良いでしょう。

デ・ジャヴ?

ところで、この「自然に計画するためのモデル」ですが、なんだか似た話を聞いたことがありませんか。夢を実現するには、ビジョンとイメージが必要だとか、夢は具体的にだとか、いろいろ言われています。⁠自然に計画するためのモデル」って他に言われている内容とほぼ似ています。似ているどころか、むしろ同じです。それもそのはず、もともとGTDは、今までうまくいっていた人たちのやり方を、わかりやすくまとめたものです。ですから、成功している人の話と一緒になって当然なのです。

GTDは新しい手法ではありません。あらゆる成功本や夢実現方法、仕事術などで語られている、共通項目を抜き出してまとめたものが、GTDです。しかし、まとまっているからといって、自分自身が納得できるかどうかは別の話です。

「自然に計画するためのモデル」も非常に抽象的で、このモデル自体が本当に数学の公式のように役立つものなのか、疑問に思えるかもしれません。しかし、何かの折を見て、振り返ってみてください。上司から考えるやり方を聞いた時、自分がすんなり行くやり方を考えた時、その時、この「自然に計画するためのモデル」と似たやり方をしていることに気づくかもしれません。徐々に、知識と納得をすり合わせてみてください。

実際、使用するにはどうなの?

「自然に計画するためのモデル」について紹介しましたが、実際に使用するのはどうでしょうか? 私も本に習って使用するようにしましたが、なかなかこの内容とおりに実施するのは難しいです。というのも、これらの5つのステップは、型に当てはめて使用するには抽象的で、具体的ではないからです。しかし、具体的にならないのも当然です。このモデルは私たちがイメージする力を存分に利用するからです。

とはいっても、イメージするためのとっかかりはあるはずです。私は「自然に計画するためのモデル」を実行するため、次のような質問を用意しています。

  • どうしてそれをしたいの?
  • それができたら、どんないいことがあるの?
  • 5W1H(What、Who、When、Which、Where、How)で最低限決めていることはあるの?
  • 最低限できればいいことって何かあるの?
  • 何ができれば終わりなの?
  • どんな風に進めようと思っているの?
  • 次に何をしたらいいの?

どんなプロジェクトについても実行してもいい

私たちはあらゆる所で、この「自然に計画するためのモデル」を実施しています。例えば、トランプの7ならべをするにしても、その計画は行っています。出せるけど出さないカードはどれか? 次に出せるカードはどれか? その順番はどうするのか?――手元のカードを他のプレイヤーより先になくす、という目的のもと、一度に出せるカードは一枚である原則に従い、他のプレイヤーが出せるカードを少なくさせるためにいずれかのカードは出さないで、自分自身は場に出せるカードを出していくというやり方をし、次のターンで自分が出せるカードを洗い出しておきます。

7ならべですら、⁠自然に計画するためのモデル」に則ってやり方を決めています。ただ、気づかないのは、それが、あまりに考える粒度が小さく、あまりに自然に考えているからです。

「自然に計画するためのモデル」はどんなプロジェクトについても、実行することができます。しかし、自分が対応できるよりはるかに大きなプロジェクトについて、⁠自然に計画するためのモデル」を実行するのは難しいです。

あんなに高いとこから大きく跳ぶスキージャンプ選手も、子供の頃は小さな台から飛べることからチャレンジしています。だから、小さなプロジェクトから「自然に計画するためのモデル」を使用するようにし、自然に考えられるように訓練するのが一番大事だと思います。

何度でも実行してもいい

「自然に計画するためのモデル」を実施したら、ゴールするまでに実行する内容を変える必要はないし、変えてはならない、と思ってしまうかもしれません。しかし、そんなことはありません。計画はもっともっと、柔軟に変更していってかまいません。

ゴールに到達するまでに、計画通りにうまくいくのは稀です。いろいろなことが起こります。しかし、いろいろなことが起こっても、どこに戻るべきかを示してくれるのが計画というものです。

GTDのレビューが、現状とGTDのリストとを一致させるのと同じように、現状と計画を一致させるように見直すように行ってください。

「自然に計画するためのモデル」を修得するには?

「自然に計画するためのモデル」は、身に付くと非常に便利なスキルです。しかし、どうやったらこのモデルを自然に実行できるようになるのでしょうか? それは、ことあるごとに実施することです。GTDに特効薬はありません。David Allenも何度も言うように、GTDは空手の型のようなものです。使えば使う程、強力な力になります。結局は実行することこそが、新たなパワーの源なのです。

機会は先ほども言及したとおり、プロジェクトが発生するタイミング等で実施するとよいでしょう。しかし、具体的なやり方はGTDでは決まっていないため、実行しにくいかもしれません。先ほど、⁠実際、使用するにはどうなの?」の見出しで、このモデルを実行するための質問を紹介しました。この質問を使って実施する具体的な方法を、自ブログのエントリ自然に計画するためのモデルを実践するには?で紹介しています。興味のある方はご覧ください。

次回は自己啓発にGTDは役立つか、について

今回は、Somedayリストの使い方について、そしてSomedayリスト項目を具体的にするための「自然に計画するためのモデル」について説明しました。⁠自然に計画するためのモデル」は一長一短に修得できるものではありませんが、実施するときっと役に立つと思います。

次回は、仕事を効率的に済ますだけのGTDが自己啓発になるか、について説明します。

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