Re:PoIC~ライフハッカーのためのPoIC入門

第4回 GTDとPoIC~相補完する思考

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GTDとはなにか

GTDとは,デビッド・アレン氏がその著書Getting Things Done: The Art of Stress-Free Productivity (「仕事を成し遂げる技術―ストレスなく生産性を発揮する方法)(2002年)の中で提唱した仕事のやり方で,その頭文字を取って「GTD」と呼ばれています。

この仕事のやり方は,ナレッジワーカーを中心にまたたく間に広がりました。GTDを取り上げたWebサイトやブログは多岐に渡り,それぞれがGTDを仕事術や時間管理術,エネルギーとストレスの管理法などと,独自に解釈していることも特徴的で,GTDは多様な解釈を許容するようです。

GTDの手順は単純で,まず「頭の中の気になることをすべて書き出す」,次いで「然るべき決められた手順に従って仕事を分類し,実行する」,そして「それを定期的に繰り返す」という3つだけです。

然るべき決められた手順とは,その「気になること」が,必要なことか,資料か,二分以内に終わるものか,複雑な手順を要するか,他人に任せられるか,実行する日時が決まっているか,いつかやればいいのか,をまず検討します。そして,これに該当しないものは「次にやってしまうリスト」に書き入れ,複雑な手順を要するもの(プロジェクト)は単純な動作(タスク)にまで分解し,それぞれいつやるべきかを再び検討していくというものです。

こうして手順を記すと,一見複雑そうに見えますが,原理的には書き出した「気になること」ひとつにつき,同じ手順のフィルタリングを一度かけるということを,書き出したことがなくなるまで機械的に繰り返すだけです。そして初回以後は,やることが出来たらとりあえず記録しておいて,定期的にまとめてフィルタリングする時間を持つようにします。

こうした手順を踏むと,毎日の「次にやるべきこと」のリストが出来上がります。そして,そのリストを見ながら,今やることに集中することで,やるべきことを覚えておくことや,次に何をやればいいのかを考える無駄な時間をなくし,ストレスから解放された脳を,創造的なことに使うことで生産性を向上させる,というのがGTDの一般的な認識です。

くわしくは,gihyo.jpの連載「GTDでお仕事カイゼン!」ITmedia Biz.ID:Getting Things Done(GTD)まとめなどを参考にして下さい。

GTDの問題点

それぞれの分野で秀でた人は,暗黙知と呼ばれる言葉では言い表すことができない領域の知識を持っています。これは,勘やコツと呼ばれる個人的な知識の領域で,明確に語れる類いのものではありません。

GTDは,こうした暗黙知的な「仕事のやり方」を一般化,標準化し,マニュアル化したものです。GTDが破綻しやすく,またリカバリーしやすいのは,それが最大公約数的な「手順」だからです。だからこそ,GTDは多様な解釈を許すのだと思います。しかし,あくまでも最大公約数的であって,万能の手順ではありません。

大抵1日はスケジュール通りには進みません。新規の仕事や緊急の仕事,あるいは友人から頼まれた仕事や遊びの誘い,電話やメールなど,どこからか不意に邪魔が入ることになります。

そこで,事前に作成しておいた「次にやることリスト」と照らし合わせながら,今やるべきことを進め,それ以外のことはすべて後回しにし,後に「然るべき決められた手順」に従って,スケジュールに組み入れるかどうかを検討します。その結果,この時間帯にはリストに書いてあること以外してはならず,メールや電話は後でまとめて片付ける,というような「時間割」が形作られていきます。

つまり,GTDが管理しているのは,時間や生産性ではなく「行動」なのです。自分と周囲の人間の行動を管理する技術,とも言えます。GTDのスケジュール管理やデータ管理はすべて,「今日やること以外はやらない」為にあります。

身も蓋もない言い方をすれば,GTDは基本的に行動を制限し,禁止することで生産性を上げる方法です。学校で「授業中によそ見をしてはいけません」と叱られていたことを,より高度に洗練させたものに他なりません。ただし,教師・チャイム・カリキュラムのすべてを自分で用意しなければならず,その部分に対しては比較的自由度が高く,自分の好きなツールを使用することができるため,GTDは高い人気を博しているのだと思います。

様々なGTD実践者が,様々にGTDを解釈していますが,僕の中では上記のように,GTDは「自分を学校にする方法」です。僕がGTDに挫折した理由のひとつとして,こうした行動を制限されること,しかも自分自身で,というよりはGTDという手順によって自分の行動が制限されていることが嫌になってきた,ということがあげられると思います。

GTDでは,「レビュー」という定期的な「気になること」の見直しと,手順のフィルタリングの時間を確保することを重視しますが,これは学校で言うところの「予習と復習」に相当します。僕の場合,この予習と復習を絶対にやらなければならないというストレスが,次第にGTDを続けることを苦痛なものにしていきました。これは,僕がGTDを使いこなしていなかったこと,自分がGTDの上位に立っていなかったことが原因です。しっかりとした目的意識を持たずにGTDを実践していた為に,GTDという,手順に過ぎないものに,逆に使われてしまっていた結果です。

また別の問題として,GTD的思考は,ややもすると,すべての問題を自分の責任として捉えてしまう傾向があるのではないか,ということがあげられます。

GTDの手順の中では,自分を取り巻くフレーム(大枠)を疑うという余地がありません。それは,フレームの歪みを前提として働くことに繋がります。やって来る仕事を,とにかく次々と処理することに専念してしまい,自分のストレスの原因が,実はフレームの歪みにあり,それを正せばストレスはなくなるかも知れない,という可能性に目をつぶってしまうことにもなりかねません。

例えば,自分が忙しいのは無能な営業や,部下の力量や状況を顧みずに仕事を発注する,上司のせいかもしれないにも関わらず,自分の仕事のやり方が悪い,効率が悪い,あるいは自分の能力不足のせいだと考えてしまいかねないということです。

さらには,Maybe/Someday(いつかやる/そのうちやるかもしれないことのリスト)の中のプロジェクトを,実行可能なタスクに分解していく過程で,失われていくものが出てきてしまうという問題があります。

例えば,空を飛びたいという夢=プロジェクトを,実現可能なタスクに分解し,結局パラグライダーの免許を取ることになった時,僕にはそこで何かが失われているような気がしてなりません。

ずいぶんとネガティブなことを書きましたが,GTD的な仕事の処理方法が,役に立つ技術だということは間違いありません。そうした意味で,GTDは,救急救命のABCDに例えることが出来ると思います。救急救命のABCDとは,緊急時に,気道確保(Airway)・人工呼吸(Breathing)・心マッサージ(Circulation)・除細動(Defibrillation)という判断の手順を踏まえて治療にあたることです。

GTDは大変有効な手段ですが,蘇生した人間にずっと救急医療を続けるわけではないように,たまにはGTDのワークフローから離れて,非GTD的思考を巡らせる必要があるのではないでしょうか。僕がGTDに挫折し,PoICを見つけた時,おそらくその非GTD的な考え方を直感的に感じていたのだと思います。

著者プロフィール

野ざらし亭(のざらしてい)

「Blog:野ざらし亭」亭主。他人のアイデアに相乗りする自称知的ヒッチハイカー。現在 はPoICの荷台に厄介になっている。

Blog:野ざらし亭
URLhttp://scribbler.cocolog-nifty.com/

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