締切は縁切の母
ある本の仕事で、私は工作中に左手人差し指の先を二針縫う大ケガをしました。しかし、近づく締め切り。包帯を巻いた不自由な手で工作を続行し、左手は人差し指を使えない状態で痛みをこらえてキーボードを叩いて原稿を書き、10日ほどでなんとか納めました。
数日後、編集長からライター陣への一斉メールが!
「本当の締め切りまであと3週間。皆さんそろそろ急いでください」
……唖然。
本来、締め切りのサバ読みは事故(病気やケガなど)対策であって、遅れるライターのためではありません。それも3週間も。
ここは一斉送信ではなく個別連絡とし、「こちらもがんばって2週間、締め切りを引っ張りますので、ケガを早く治してください」と言えば、ウソも方便。恩を売れたチャンスでもあり、こちらもスッキリ仕事ができたわけです。
進行マネジメントとしては、最悪の大失敗ですね。私の側は締切には遅れませんでしたが、その時点でお仕事関係を打ち切らせていただきました。
「いつから始める」かでなく「いつ終わるか」が大事
原稿は、いつまでに終わらせるか。もちろん、トラブルや、書き手の能力による遅れなどを読むのは、リスク管理を考えれば当然です。しかし、マージンをとりすぎた、あいまいすぎる締切管理は、まじめにスケジュールを立てて行動する人ほどダメージが大きいものです。
実際には「締切をはっきり言わない人」も少なくありません。残念ながら、プロの編集者にもいます。このタイプは、まちがいなく「いつから始めるか」は明確、そして進捗の確認は執拗です。これを信用して、本当の締切よりかなり早く書かされてしまうのです。
しかし、原稿を早く仕上げると、自分の手元でデザインや構成の作業を何日も止めてしまったり、ほかの用件と重なったために進行を交渉しようとするとグズグズと言うばかり。そういう人と組むと、結局、まったく予定が立たなくなってしまいます(私もある人のグズグズ進行で、ボート免許の受講料10数万円をムダにしました)。
そういうタイプに対しては、いくら本当の最終締切を尋ねても、ノラクラと答えないのでムダです。一方的にこちらのスケジュールを伝え、そこで折り合いをとるしかありません。変な言い方ですが、それが唯一、締切に遅れず、自分の予定もこなす方法なのです。
そもそも「締切」って、どういうもの?
「原稿の締切とはなんぞや?」それをきちんと把握しておくことはとても大切です。基本的には「デザインや印刷など、次に仕事をする人が無理なくできる予定の最終日」なのですが、もちろんセーフティ・マージンが含まれています。さらにその先にも何段階か仕事があるわけですから、その合計マージンの量は数日以上あります。
といって、それを個人の都合で使い切っていいのでしょうか?
もちろん、否。それぞれの人が、さまざまな事情を抱え、予定があって生活していることを忘れてはいけません。前出のトラブル事例2つは、それを忘れ、締切をただの「節目」「便宜上の日程だけ」と勘違いしている人たちが起こしたものです。
意識的に締め切りを3日早めよう
指示された締切は、まず守るのが基本。そのうえで自分の環境や体調、ほかの仕事の状態などを考えて、セーフティ・マージンをとり、自分なりの締切日程を作りましょう。
拙著『文章を書くのがラクになる100の技』では、締め切り直前のパワーの源?を解明し、それを逆手に取って
- 「意識的に締め切りを3日早める」
- 「書けない原因を自覚し、取り除くことで書きやすくする」
- 「作り出した3日のゆとりで原稿をブラッシュアップする」
という戦略を提唱しています。
一度チャンスを逃すと次は1週間後、10日後になるといった取材先、資料入手もありえます。そういった難しい進行を迫られるときは、代替手段があるかどうかも確認しつつ、余裕のあるスケジュールを組みましょう。
「進捗を気にするより重要だけど、忘れがちなこと」とは?
原稿を書いているとき、数万字などという長文でない限り、「どこまで書いたのか?」はあまり重要ではありません。それよりもっと重要なこと、そして忘れがちなことがあります。それは
- 「材料=データや資料がきちんとそろっているか」
- 「材料に目を通し終わっているか」
です。なぜなら、本文に直接影響しないイメージ写真や、掲載するための略地図でもない限り、元となる資料がそろわなければ原稿が終わらないから、です。まずは、進捗を気にするより、「資料がそろったか?」を確認してみてください。
ほかの人の進行までも管理する担当になったら、進捗を尋ねるより「資料そろった?」と聞いてみてください。もしそろっていなくて、あなたがそれを手助けできるなら、ちょっとだけ手を貸してあげてください。進行担当が唯一、そして最大にできる手助けです。