競合との違いは“ヒト”あり! ホートンワークスジャパンの廣川氏が社長就任会見

「私のカラーがレッドからグリーンに変わった。信号機のグリーンのサインのように、これからは止まらずに突っ走る」―4月21日、ホートンワークスジャパン 執行役員社長である廣川裕司氏は、自身の社長就任会見の冒頭、集まった報道陣に向けてこう宣言しました。廣川氏といえば、米Red Hatの日本法人であるレッドハットの社長を9年間に渡って務め、Red Hat Enterprise LinuxやJBossなどのオープンソース技術を国内エンタープライズ市場に普及/拡大させた人物としても知られます。その実績を引っさげて、3月1日付けでホートンワークスジャパンのトップに就いた廣川氏ですが、レッドハットとは違う、もうひとつのオープンソース企業をどう大きくしようとしているのか。本稿では廣川氏の就任会見から見えてきたホートンワークスジャパンのビジネス戦略についてお伝えします。

ホートンワークスジャパン社長 廣川裕司氏
ホートンワークスジャパン社長 廣川裕司氏

“Hadoopだけのベンダ”からオープンソースの総合ベンダへ

ホートンワークスジャパンの親会社である米Hortonworksは2011年、Yahoo!でApache Hadoopを開発していたメンバーが中心となってスピンアウトしたベンチャー企業です。その後、Hadoopディストリビューション「Hortonworks Data Platform」を中心とするオープンソースプロダクトを展開しながら順調に成長を続け、2014年12月にはNASDAQ上場を果たしています。2015年には年間売上額が1億ドルを超え、⁠私の前職のRed Hatよりも速く、史上最速で年間100ミリオン企業となったオープンソース企業」⁠廣川氏)と着々とオープンソース企業としての存在感を強めています。

一方で、ここ1、2年、Hortonworksは注力する分野を「クラウド」⁠IoT」⁠ビッグデータ」の3つにフォーカスすると公言することが多く、単なるHaoopディストリビュータではなく、⁠オープンソースに特化したデータプラットフォーム企業」と称することが増えています。廣川氏も「HortonworksはすでにHadoopだけの会社ではない。現在のメインのプロダクトはHadoopを基盤にしたHDPと、データフローをオペレーションするHortonworks DataFlowの2本。この2つを軸に、エンタープライズでひろく採用されるデータプラットフォームとして成長させていきたい」としており、"Hadoopベンダからの脱却"がグローバル共通の目標であることは間違いなさそうです。余談ですが、毎年6月に米サンノゼで開催されるHortonwokrsの年次イベント「Hadoop Summit」は今年から名称が変更され、⁠DataWorks Summit」として行われます。

Hadoopベンダからの脱却は、現在のHadoopディストリビュータに共通する課題でもあるといえるかもしれません。とくにHortonwokrsはApache Hadoopプロジェクトの貢献コード行数が世界でもっとも多い企業でもあり、また、創業メンバーはじめ、社員には数多くのコミッターが在籍します。同社の経営トップはつねに「オープンソースは我々のすべて」と公言していますが、その一方で、数年前のようなビッグデータブームに牽引された"Hadoopブーム"は終息した気配を見せています。オープンソースをビジネスのコアにするということの難しさに、Hortonworksはいまあらためて直面する状況にあり、廣川氏の日本法人のトップ就任はそうしたビジネスの潮目の変化を読んだ登用と見ることができます。

5年後のビジョン

グローバルではスピーディな成長を遂げてきたHortonworksですが、2014年に設立された日本法人のホートンワークスジャパンは、まだお世辞にも大きいとはいえません。日本人社長として日本法人のオペレーションを任された廣川氏はどんな経営ビジョンを描いているのでしょうか。会見では「今後5年で日本市場で狙うこと」として

  • 日本でもっとも成長の速いソフトウェア企業になる
  • HDP、HDFを次世代データプラットフォームのデファクトスタンダードにする
  • 顧客/パートナーからもっとも信頼されるデータプラットフォームのリーダーになる

の3点が掲げられました。具体的な数値目標として廣川氏は「パートナー企業の数を現在の12社から、あと1、2年で50社までに増やしたい。とくにトップ7と言われるSIerとはすべて契約するつもり」という点を強調しています。パートナー施策はグローバルでも重要な強化ポイントですが、国内市場でのシェア拡大を狙うためには他国以上にパートナーとの密な協力関係が必要であり、ここはまさに廣川氏の過去に培ってきた手腕が問われるところでしょう。また、営業面においても「ハイタッチセールスで100社を超える。現在、グローバルでは10業種に渡ってエキスパートが存在するが、国内ではようやく6業種。できるだけ早い段階で10業種をカバーしたい」⁠廣川氏)としており、営業面での強化も同時に進められる予定です。

もうひとつの重要な国内市場強化のポイントはマーケティングです。ホートンワークスジャパンは昨年、マーケティングディレクターとしてシトリックス・システムズ・ジャパンや日本IBMでキャリアを積んできた北瀬公彦氏を迎えましたが、それ以来、HDPやHDFの知名度は大きく上がっており、昨年10月には東京では初となるHadoop Summit Tokyoを成功させています。また顧客事例の公開も増えており、すでにLIXIL、Yahoo! JAPAN、三菱ふそうトラック・バス、リクルートテクノロジーズ、ソフトバンクなど大手企業によるものが公開されており、会見には三菱ふそうトラック・バスのCIOであるルッツ・ベック氏も同席し、⁠当社のデジタルカンパニーへのジャーニーに、ホートンワークスジャパンは非常に貢献してくれている」とコメントしていました。"事例ファースト"な日本企業にとって、こうした大手企業による先行例は非常によい影響を与えるといえるでしょう。今年のマーケティングの目標としては「Hortonworksの製品やサービスをよく知る顧客やパートナーなどの"Hortonwoksフレンズ"の数を増やしていきたい」と北瀬氏。なお廣川氏は「フレンズの数は現在の100名から、1年で500名、5年で1万名まで増やす」と意気込みを見せています。

ホートンワークスジャパン 北瀬公彦氏
ホートンワークスジャパン 北瀬公彦氏

HDP 2.6のパフォーマンスに期待

会見のあった当日、ホートンワークスジャパンは米国では4月4日にリリースした「Hortonworks Data Platform 2.6」の発売を開始しました。HDP 2.6の主要な最新機能としては

  • LLAPによる大幅なHiveインタラクティブクエリの高速化
  • Apache Spark 2.1とZeppelin 0.7に正式対応
  • Apaache Ambari 2.5による管理操作性の向上
  • クラウドファーストの取り組みとしてAWSおよびAzureで利用可能に
  • IBM Power Systemsにも対応

といった点が挙げられます。中でも最大のポイントはやはりLLAPによるHiveクエリの高速化で「メモリのキャッシュを使いながらデータのクエリが可能になったので、Hive 2 with LLAPでは前バージョンの26倍の高速化が実現」⁠北瀬氏)とのこと。パフォーマンスの改善は多くの顧客からリクエストがあった分野であり、市場からの評価が注目されます。


会見の最後、⁠他の競合のHadoopベンダとの違いは?」との質問に廣川氏は迷うことなく「ヒトです」と答えていました。Hadoop開発のコアである人物が創業した企業であるということに加えて「パッチの出るスピード、顧客のトラブルをすみやかに解決する力が非常に強い。オープンソースのパワーをバリューに変えられる人材が揃っているのはHortonworksだけ。ここでいう"バリュー"とはコスト、性能、機能を含む」と明言していました。その"ヒト"の力を日本でも強力なパワーとして発揮できるのか - 今後のホートンワークスジャパン、そして廣川氏の手腕が引き続き注目されます。

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