5月9日(現地時間)、ハンガリー・ブダペストで行われたUbuntuの開発者向けカンファレンス「Ubuntu Developer Summit」のキーノートで、かのMark Shuttleworth氏が放った発言が話題を呼んでいる。「Ubuntuユーザを今後4年で2億人まで増やす(200 Million Ubuntu users in 4 years)」─ただのビッグマウスか、それとも何か確信めいたものがあっての戦略的発言なのだろうか。
正確な数字ははっきりとしないが、ある調査によると、Ubuntuの現ユーザ数はワールドワイドで約1,200万人だという。これをたった4年で2億人までに増やすというのだから、まさしくケタ違いの遠大な野望である。この数字が実現するかどうかは4年後のお楽しみにするとして、ではなぜ、Shuttleworth氏はかくも大胆な数字をぶちあげたのだろうか。
同じキーノートでShuttleworth氏はこうも言っている─「我々はゲーム開発者の心をつかむために勝負をしているわけではない。世界中の人々の心をつかむために勝負をしているのだ。」
本コーナーでも何度か取り上げてきたが、Linuxが誕生して20年のあいだ、サーバサイドや組込み、モバイルデバイスでの普及とは対照的に、Linuxデスクトップユーザの数はWindowsはもちろんのこと、Mac OSにすら遠く及ばない状況が続いている。そしてLinux関係者の中には「デスクトップでそんなに張り合わなくてもいいんじゃない?」と思っている向きが少なからず存在する。Linuxは難しいから使いたくないという一般ユーザを、無理にこちら側に引きこまなくてもいいじゃないか、WindowsやMacを使いたいならそうさせておけばいい、と。
一方、Shuttleworth氏はこういう考え方と真っ向から反対する姿勢を取り続けている。4月末にリリースされたNatty NarwhalことUbuntu 11.04はユーザインタフェースにGNOME ShellではなくUnityを採用したが、これについてはリリース後の現在も賛否両論が渦巻いている。だが一般ユーザの心をつかむためにはあらゆる試行錯誤が必要だ。"ゲーム開発者"の声ばかり聞いていては、Linuxデスクトップは永遠にWindowsに追いつくことはできない。そしてそれはLinuxの普及が進まないことを意味している。
4年で2億人という数字は、これまでと同じやり方では決して達成できないものだ。それをあえて公言したのは、これからもさらにドラスティックな変革を実施していくという、Shuttleworth氏の意思表示のように思えてならない。たとえ抵抗勢力からの強い反発があろうとも、だ。そういう意味では、10月にリリース予定の次バージョン"Oneiric Ocelot(夢のようなオセロット)"ことUbuntu 11.10は、Natty Narwhalよりもユーザエクスペリエンスについて激しく議論されることになるかもしれない。